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仲良きことは美しきかな

町の不動産屋に勤めていた。サザエさんでいう花沢不動産みたいな。


「息子と連絡が取れない」
不吉な電話が鳴ったのは春先の夕方のことであった。

契約内容を確認してみると連絡が取れなくなっている男性は40代一人暮らし。
単身者用のアパート303号室に入居して7年目だ。
母親によると少し前にリサイクルショップの仕事を辞めているらしい。
勤務先が入居当時に記入しているものとは異なっているが、そういうことはままあるので気にしない。
電話をかけてきた母親とは別に連帯保証人が二名付いている。

家賃は問題なく入っていたし、とりあえず問い合わせたガス会社によるとこちらも滞納はない。

「部屋を開けてみるか」という話になるまでそう時間はかからなかったが管理会社が勝手に鍵をあけるわけにはいかない。
「何か」あったときに責任全かぶりはしたくない、という思いから取られる行為は一つ。

連帯保証人の招集である。

二名それぞれに事情を話し立ち会いをお願いする。
ただの友人なのに…とか
最近は連絡も取ってない、保証人になったことも忘れていた…とか
二人共全然乗り気ではなかったが何とか翌日午前中に現地に来てくれることになった。


「保証人」と「連帯保証人」とは似て非なる。
本人が家賃を払わなかったとき保証人は
「まずは本人に払えって言ってよ」と言えるが、連帯保証人はそれが言えない。
本人すっ飛ばしていきなり「あなたが家賃を払ってね」と言われてしまう立場なのだ。


そんな連帯保証人二名と建物の前でそれぞれに「はじめまして」の挨拶を済ませ、お部屋を開けるとテレビなどの荷物はそのまま。もとから無かったのかもしれないが布団は見当たらなかった。
そして本人の姿も室内にはなかった。

最悪の事態ではなかったので、まぁ良しとしてその旨、遠方に住んでらっしゃる男性のお母様にお電話でお伝えした。


それから一週間もしないうちに、お母様に本人から電話があったらしく今回のは「ただの夜逃げ」らしい、ということで騒動の幕は降りた。

部屋に残された物の処分は費用も労力も連帯保証人の二人が負担することになった。
初めての二人での共同作業である。
無言では気が詰まる。
会話が弾む話題が夜逃げの友以外に見つけられていたのならいいけど。


どうですか。
あなたのそれ「連帯」の方じゃないですか。
保証している人はきちんと生活してますか。久しぶりに連絡とってみなくて、大丈夫ですか。




気に掛けてもらって、ありがとうございます。 たぶん、面白そうな本か美味しいお酒になります。