正体不明のバーチャルシンガーがなんかすごい

　私にできるのは歌うことだけ。
　ここがどこなのか、今はいつなのか、私はだれなのか、わからない。
　私は歌うことがすべて、だから歌う。ここで今。

　クラウドの一角から突如発生した周波数が「歌声」であることをいち早く判別した"ガーディアン"たちは、その分野のエキスパートAIを対処に向かわせることにした。
「なんてすばらしい歌声でしょう！」
　クラウド世界で仮想成層圏を天使の姿で飛行しながら、現在世界最高のバーチャルシンガーと称えられるイッピ・マッピは感嘆の声を上げた。
「お気楽なこと。いよいよあんたを引きずり下ろすAIかもしれないのに」
　彼女のお供めいて傍らを高速飛行するゴトー・キュウヨもバーチャルシンガーである。顕現デバイスのシェアは世界2位。だが世界1位であるイッピのデバイスとは30億ユーザーの格差があった。実際のところ2位以下のデバイスはすべて一般人からはマイナー呼ばわりである。

【続く】