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読む、れもんらいふデザイン塾vol.6【谷尻誠】

創造とリメイク

欲望の発露に神経を研ぎ澄ませる。世の中の不満に耳を傾ける。そこには常にイノベーションの種が隠されている。それはまだ言語化されていないもの。そう、まだ価値化されていないもの。潜在的な欲望を見抜き、形にしていく。あるいは、世の中に既にあるものを「新たな見方の提示」によって、新しい価値を与える。建築家/起業家、谷尻誠。

彼は言葉によって、新しい概念を生み出す。あるいは、使い古された概念に新たな生命を吹きこむ。創造とリメイク。言葉にならないものに耳を傾け、目に見えないものを形にする。答えは常に「未完成の欲望」の中にある。


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こんにちは嶋津亮太です。建築家の谷尻誠さんの講義。谷尻さんのマインドを模倣できれば、世の中の見え方が変わります。主軸は「建築家」ですが、大きな視点で見ると、谷尻さんの仕事は世の中の価値観を変えています。新たな概念を創造し、既存の概念をリメイクする。そこには哲学があります。美意識があります。それは建築以前の領域です。

つまり、ここに書かれていることは「建築の学び」ではなく、人が人を幸せにするための方法。言わば「錬金術の学び」です。人の喜びがある場所に仕事は生まれます。谷尻さんの著書『CHANGE 未来を変えるこれからの働き方』の言葉を紹介しながら、講義レポートを進めていきたいと思います(尚、引用符の中の言葉は本書から抜粋です)。すばらしい本ですので、ぜひお手にとってご覧ください。

それでは、講義のはじまりです。


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これからの20年

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今の時代、おもしろい仕事が生まれる場所には、必ず違和感があります。

谷尻
26歳で建築事務所SUPPOSE DESIGN OFFICEをはじめました。2020年で46歳になります。「これからの20年のことを考えるために、これまでの20年を考えよう」と。この20年の間で、インターネットが生まれ、モバイルフォンが現れ、SNSが盛んになりました。もはやコンピュータなしでは生きていくことができない時代になってきました。僕が設計事務所に就職した当時は、手描きで図面を描いていた。その頃のことを振り返ると、急激なテクノロジーの進化を感じます。

毎年発表される企業の時価総額ランキング。平成元年と平成30年を比較したものがあります。平成元年は日本の企業がたくさん占めていたのですが、平成30年になると一社(トヨタ)を残し、全てが姿を消しました。上位を占めているのはイノベーティブな会社。全てインターネットに関わる企業です。これを見た時に「日本って大丈夫なのかな?」と思いました。

僕の設計事務所も、今までのやり方だと終わると思った。つまり「頼まれた設計だけをやり続ける」ということがダメで。クライアントワークだけではなく、事業自体を企画する。そういうことが求められるのではないかと思いました。




『ONOMICHI U2』
(2014)

谷尻
尾道は坂の街で、山と海が近く、長閑な風景が広がっています。四国と中国地方を繋ぐしまなみ海道には、たくさんのサイクリストがやってきます。古い倉庫を活用するための事業計画を広島県に提案する機会がありました。

尾道は日帰り観光の街として有名でした。僕は少しひねくれているところがあるので、「日帰り観光の街」ということは、「誰も泊まらない街」なんだという感想を抱いた。夕食をとったり、お酒を飲んだりする確率も低くなる。もちろんお土産を買うことも減る。人は滞在してこそ、その場所にお金を落とす。それが観光の成長につながります。

そこで、宿泊施設と商業施設を一緒にしたものをつくった方がいいのではないかと思い、『HOTEL CYCLE』という自転車に乗ったままチェックインでききて、部屋の中に自転車を持ち込めるホテルの企画をつくりました。地域観光と地方創生を目的にしたプロジェクト。広島県でのコンペで最優秀をいただき、つくらせてもらえることになりました。

パン屋、カフェ、レストラン、バーを入れたり、自転車屋さんやアパレルなどと一緒に複合の商業施設と宿泊施設が一緒になっています。おかげさまで尾道を訪れる方が増えました。

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環境面でも、快適さをデザインしました。2000平米の倉庫でエアコンを使用するとエネルギーのロスが多い。エンジニアと打ち合わせをし、冬は温水を循環させてあたため、夏は冷水を通して涼やかになるよう工夫した。エアコンの風によって埃が舞い立ち、空気を汚すような空調を一切やめました。また、「デシカント」と呼ばれる装置で湿度の調整を計り、快適さを追求した。

それによってサスティナブルなアワードをいただいた。この仕事を手掛けて以来、企画の時点から関われるような依頼が増えました。クライアントワークでは、企画が決まってから設計者を選ぶことになる。基本的には数社の中でコンペが行われます。そうすると、クライアントのお気に召されなければ落とされてしまいます。企画仕事の良さは、事業計画の根っこの部分から関わることができるということ。



『hotel koe tokyo』
(2018)

谷尻
4年ほど前から、ストライプインターナショナルの石川康晴さんに声をかけていただき、「渋谷にアパレルショップをつくりたい」という相談を受けていました。そこで『hotel koe tokyo』を提案しました。

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