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異人館の神さま(7) 小説

4 美人が闊歩

土曜日
学校がお休みなのでサクサクと家事をこなした後 みさとさんの和ダンスを開いてみる

「おお!」

タンスの中には色とりどりのアンティークの着物がたくさん入っていた

「きれーーい!」

一番上にあった緑地に赤や黒や白の金魚がたくさん泳いでいる着物をそっと持ち上げてみる

これって私用にそろえてくれたんだよね みさとさんがこんな色の着るわけないもんね

タンスの一番下の抽斗の着物を全部出してみる
その上の抽斗には帯がその上の二つに分かれた抽斗には着付け小物や巾着帯どめなんかが整理されて入っていた

着物に帯を合わせてみてみさとさんの趣味の良さに唸る
ーーって偉そうだけど
いいなあ
着てみていいかな?
袖を通せって言ってたし
ーーえへへ

暑いこの時期は単衣の着物か浴衣
単衣はちょっと背伸びし過ぎ感があるから浴衣かな
これとこれ
白地に藤色の大きなボタンが咲いている浴衣にエンジの麻の半幅帯を簡単に矢の字に結び
飾りに藤色の帯紐に黒猫の帯どめを中心よりちょっとずらして付ける
肩に触れるくらいのボブをハーフアップにエンジの花のついたゴムで縛る
どうかな?
変じゃないかな?
自分の部屋に戻ってスマホで写メる
ポーズをとってもう一枚
とテンテテテンテレレンレン…
見計らったようにスマホに着信 ギクッとする

画面には司さんの文字

誰かいるわけでもないのに思わず周りを見回してしまう

びっくりさせないでよ~~

一人で赤面

司は今日は欠かせない授業があると大学に行っているはずだった

「…はい」

「細子さん、お願いです 僕の机の上のオレンジのファイル 大急ぎで大学までとどけてくれませんか?」

「今ですか?」

「頼めませんか?」

「いいですけど…」

「大学の場所はわかりますか?」

「スマホで調べれば、たぶん」

「ではお願いします」

プツン

 急いでいるんだよなあ このまま行くか?
脱ぐのにはそんなに時間はかからないけど…
いやいやいや、目立つよなあ

や、でも 知り合いに会うわけでもないし

行くか

誰もいないのに忍び足

忍の部屋の前

「失礼しま~す」

口の中でもごもごと言い訳をするように呟いて扉を開ける
思ったより整理されていた
探し物はすぐに見つかる

机の上になんで私を忘れるかあってほどの存在感をだすオレンジのファイルがあった

ガシっと掴むと逃げるように部屋の外に出る

だだだだだだだ

階段を下りて玄関へ

ーーしまった下駄が無い!

逡巡は5秒 通学用のローファーとスニーカー
靴下も無しで履くならスニーカーでしょ

アンティークだからいいの モダンな感じだからいいの

歩きやすいし

自分に言い聞かせるように足元が変なのを気にしないように駅へ向かう

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