見出し画像

#22 『のりおちゃんの夢』(長崎)

話し相手JAPAN TOURとは


『のりおちゃんの夢』

「リィーダァー!」

のりおちゃんとグループを組んだ事もないのだけれど、ありったけの愛情を込めて『リィーダァー』と呼んでくれる。

この20年間で、どれぐらいの友人たちが、お笑いや役者を辞めて、それまでの曲がりくねって落とし穴だらけの獣道から、アスファルトの舗装道路に出て歩き始めただろう?中には、獣道からイバラの道に紛れ込んだ人もいたのだろうけど。

のりおちゃんも、ラーメン屋でバイトしながらお芝居を続けていたのだが、長崎に住んでるお父さんの体調が悪くなって、きっとそれだけが理由ではなかったと思うのだけど、この【話し相手JAPAN TOUR】を始める少し前に役者の夢を諦めて長崎に帰った。

それから、のりおちゃんが、どんな生活をしてたのか知らないまま、というか、人の人生を考える余裕なんてなく生きてたけれど、ふとしたことで思い出して、ちゃんと働き始めてたのりおちゃんと再会した。
そんな時の話です。


お笑いや芝居をやってる人間にとって、飲食店でバイトしてる友だちは大切にしないといけない。バイト先のお店のメシがウマイとかウマくないとかマズイとかは関係ない。
その友だちが店長クラスになって店を任されてて、こっそり激安で食べさせてくれたり、あわよくばサービスと称してレジを打たずにツマミの一品や二品、その流れでメインのおかずを食べさせてくれるかどうかが、その友だちをより大切にするポイントだ。

新宿のラーメン屋でバイトをしてたのりおちゃんは、そんな大切な友だちの中の1人だったが、お父さんの具合が悪くて、長崎に帰ってしまってた。

有明海を横目に見ながら歩き疲れて休んだ駅をふと見ると『小長井駅』という看板が目に入った。

んッ、小長井?小長井、小長井・・・おぉッ!

確かのりおちゃんの住所は小長井。手帳に書いてたのりおちゃんの実家に電話をしたが、誰もいなかったので「縁がなかったんやろ」と留守電にメッセージ入れて先に進んだ。

2時間後、田んぼ仕事を終えたのりおちゃんが車に乗ってすっとんできた。

「リィーダァー!なんで行くと!!駅で待っとかんね!!」
「おぉぉぉぉ!のりおちゃん!!!」
「はよ乗って、なにモタモタしよんの、乗りって」

いや、乗るけど、乗るためには、車、止めろよ。オレは普通のスピードで動いてる、いや、普通より若干早めなはずだ。のりおちゃん、キミが早すぎるんやで。
もうオレを乗せてるつもりで車走らせてるやん。

家に着いてからも、のりおちゃんは相変わらずせわしなかった。

「リィーダァー!ホントに歩いてきよったん?」

「疲れとらん?疲れとるわねぇ、そしたら早よ風呂入らな」

「もぉー、洗濯ばしよるから全部出さんね、遠慮する事なかやって!」

「ほらぁ、ビール飲まんね、かあちゃん、これリィーダァー、東京の有名人やからね。美恵子(妹)、ほらぁ、早よビールつがんね。なにしょっと」

相変わらずせわしない男で、それがのりおちゃんの良さだ。

長崎2

縁を強引に繋げてくれた。

7,8ヶ月ぶりに会ったのりおちゃんは、長崎での生活にも慣れ、こっちで早くラーメン屋をやりたいんだと目がキラキラ輝いてた気がして、なんかうれしかった。

次の日の朝、のりおちゃんは手伝ってる田んぼを案内してくれた。

「ここはオサムんちの田んぼでね、人手が足りんもんやからオレが手伝いよるんよ」

オサムちゃんというのは、一緒に長崎から東京に出た幼なじみであり、新宿のラーメン屋でバイトしながら役者の夢を追いかけ続けてるオレの大切な友だちでもある。なんせオサムちゃんは店長なんで。

東京に、東京だけじゃなく、故郷を出て何かを成そうとした人が帰る時にはいろんな理由がある。挫折、限界、やり直し。正直、オレの中にはいいイメージはない。それはオレが成しとげてもないし、やり切ってないからで、胸を張って故郷に帰る人もたくさんいてるやろ。

東京に残ってるヤツが勝ち組で、故郷に帰ったヤツが負け組ではない。たいしておいしくないラーメン屋でバイトしてたのりおちゃんが、キッカケはなんにせよ、おいしいラーメン屋をやりたいと言って長崎の小長井にいる。

「リーダー、もうちょっと乗ってて、もうちょっとだけ」

昨日車に乗せてくれた場所まででいいと言っても、のりおちゃんは、なにかと理由をつけて先へ先へと進んでくれた。

「うまいラーメン食わしよるから、またこんね」
「じゃぁ、二度と来れないわ」
「またぁ、リィーダァーは相変わらず厳しかね」

のりおちゃんとグループを組んだ事もないのだけれど、ありったけの愛情を込めて『リィーダァー』と叫びながら何度も振り返って去っていった。


『長崎のおばちゃん』

「あんたもストリートね?」
「はっ?」
「あんたもストリートミュージシャンかねっちゅうて聞いとろぉが」
「いや、まぁストリートでやってますけど、ミュージシャンではないです」

なんかちょっと圧倒された。
50代前半のくわえタバコのおばちゃんに長崎弁で声を掛けられたのは、AM1時を少し回った頃で、長崎観光通り商店街の大丸の前で、看板用のコンセントから携帯電話を充電しながら、段ボールを敷いてリュックを枕に寝ようとしてた時だった。

時間が時間なんで、おばちゃんはちょっと酔っぱらってたし、オレとは対照的に腰据えてしゃべる気になってた。

長崎3

「あんたらみたいの見とるとなぁ、うちははがゆいんよ、たまらんのよ」
「はぁ・・・」
「うちのバカ息子もストリートをやっとるんよ、あんたもギターね?」
「えっと・・・(ギターどこにもないやん、これテーブル!)」

心の中で突っ込んだ。

それからおばちゃんが話した事は、バカ息子を育ててきた苦労話で、時々涙ぐみ、たぶんバカ息子に言えないでいる事をオレにぶつけてたんやと思う。携帯の充電はとっくに赤から緑色、フル充電に変わってた。

「そやかてやりたいんやろねぇ、あんたもやりたいんやろストリート。やるんならなぁ、とことんやらなぁイカンで、とことんやって30でヤメなイカンよ」
「そうっすね(オレ、もう33やねんけど)」
「せやけどな、長崎じゃダメよ、長崎でやってても誰もひろぉてくれんよ、やるんやったら東京へ行き」
「やっぱ、そうっすか(オレ、東京から来たんですわ)」
「ちょこっとルックスがよぉて、歌がうもぉてもイカンのよ。あんたもバカにならなイカン、コメディーでもなんでもやらな」
「なるほど!(バカなこと・・・やってますねん。テーブルをね、路上に置いて、話し相手というのをやってて、まぁ、今は、テーブルなしの話し相手状態ですけど・・・)」

おばちゃん、このテーブル、ギターやと思ってるもんな。

「がんばりなイカンよ、あんたのことも応援しとるからね」

そぉ言って、また飲みに消えた。やっとゆっくり寝れると思いながらも、おばちゃんの「長崎じゃダメよ。長崎出なイカンよ」っていう言葉がなんか刺さってたんで、そのまま歩き出した。


『メリーさんのヒツジ』

九州に入ってから、がぜん野宿が多くなったのを覚えてる。
ファミレスで、店員さんの目を盗んで過ごしたり「寝てません、考え事をしてるんです」という芝居をしながら寝るというのが苦痛になっていたのかもしれない。

なんていうか『シッカリ寝たい=野宿』という公式が成り立ってた様な気がします。
とはいえ、この頃は天敵『蚊』との闘いが激しさを増してて、虫除けスプレーぐらいで蚊の攻撃から逃れられず、とにかく外で寝るというのは至難の業でした。
あまりの蚊の攻撃にイライラして、虫除けスプレーを自分ではなく蚊に噴射して「お前、一生独身」というのが、自分の中での蚊との闘いの勝利宣言で、なんとも卑屈な男でした。

そんな中、有家(ありえ)という駅で、寝るにはサイコーの条件を備えたコインランドリーを見つけたのですが・・・


長崎から熊本に向ってた時にもコインランドリーで寝ようとした事があった。
3月下旬の箱根湯本とは違って、こっちの場合は7月上旬だったんで、寒さというより蚊の攻撃を防ぐために建物の中を探して逃げ込んだ。

梅雨が明けた頃から、テントを買おうか迷ったが、ひとり用のテントも(この頃は)なかなかの値段がしたので、だましだましここまで来た。
で、ここまで来てしまうと「虫除けあれば、いけるんちゃうの」と毎夜チャレンジして、毎夜後悔の繰り返しで「今日こそ買う!」って思った日に限って、いい条件の場所を見つけたりする。

この日は有家(ありえ)駅で見つけたコインランドリー。
24時間営業で、ソファーもあって、水道もあって、人の気配は全くないという好条件だった。
ただ、不自然に置いてあるUFOキャッチャーだけが少し気にはなった。

気になったのは正解やった。気になるというレベルではなかった。

UFOキャッチャーからは、30秒ごとに『メリーさんの羊』のサビだけが流れる。正直サビのとこしか知らないし、もしかしたらこの曲にはサビしかないのかもわからんが

「メーリさんの羊、羊、羊、メーリさんの羊、カワイイな」

のとこだけが10秒程流れてくる。

「メーリさんの羊、羊、羊、メーリさんの羊、カワイイな」
「・・・」

「メーリさんの羊、羊、羊、メーリさんの羊、カワイイな」
「そうでもない・・・」

「メーリさんの羊、羊、羊、メーリさんの羊、カワイイな」
「かわいくは・・・ない」

「メーリさんの羊、羊、羊・・・」
「やかましわ〜〜〜〜〜〜!!!」

田舎なんで、その曲が鳴り終わって30秒シ〜ンとしてる。30秒は、めちゃめちゃ静かなのだ。そして、静かなコインランドリー内で、突然かかる

「メーリさんの羊、羊、羊、メーリさんの羊、カワイイな」

これは、ず〜っと鳴ってたら、きっといつか慣れるんやろうけど・・・。

「慣れへんわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

さすがだ、コンセントは抜けないようにガッチガチに固められてた。

熊本3

夜中にわざわざゲームセンターではなく、このコインランドリーでぬいぐるみをキャッチしに来るヤツいてるか?
これは間違いなく『オレみたいなヤツ防止法』だと確信した夜、オレにとってメリーさんちのヒツジは

「メーリさんの羊、羊、羊、メーリさんの羊、やっかましぃな」

になって、30分ほどして外に出た。

20年を経て調べてみました『メリーさんのひつじ』の歌詞。
全然、違ってましたね。覚えてたのと。

メーリさんのひつじ メェメェひつじ
メーリさんのひつじ まっしろね

どこでもついていく メェメェついていく
どこまでついていく かわいいわね

ようやく2番で「かわいい」しかも「かわいいわね」が出てきた。

で、その後は、メリーさんが、学校までついてきて、それをみんなが笑って、でも先生はカンカンに怒って、メリーさんは困ってしまって泣き出すんです・・・シクシクと。
オレ、この歌詞知ってたら、もうちょっと我慢できたような気がする

次回は、長崎から熊本に入ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?