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#2 社会人の学び直し、スタートすべきはいつ?


■スポーツ選手のセカンドキャリアも、学び直しは必須


ラグビー元日本代表の五郎丸歩氏が、4月 早大大学院に入学!
こんなニュースが2月の初旬に飛び込んできました。スポーツ科学研究科の社会人修士1年コースに合格し、スポーツビジネスを学ぶそうです。

五郎丸氏といえば、2015年ラグビーワールドカップでの大活躍が多くの人の記憶に刻まれていますね。昨年、現役生活からの引退を表明。静岡ブルーレヴズ(前ヤマハ発動機)のフロントに入ってクラブ経営に携わることから、母校の早稲田大学へ戻って「リーグの収益構造を勉強したい」と語っています。2019年、日本で開催されたラグビーワールドカップの熱狂は今も忘れられませんが、コロナ禍での2シーズン、予定された試合の中止が相次ぎ、厳しい状況が続いています。

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五郎丸氏の正確なゴールキックで、南アフリカから大金星!

折しも日本ラグビーは、2022年1月から「リーグワン」という新たな仕組みの中で再出発。このタイミングで、五郎丸氏が選手からフロントスタッフへと立場を変えてどんな手腕を発揮するのか、とても楽しみです。目下のミッションはチケット販売とかで、試合開催のPRのために浜松駅でチラシを配布するなど、すでに積極的に動いているようです。大学院での学びを生かし、日本ラグビーを世界レベルに引き上げて欲しいと心から思います。

 社会人になってからも、必要なタイミングで教育機関や社会人向け講座に戻り、学び直すことをリカレント教育と呼びます。リカレントとは、「循環や再発」を意味する言葉で、元々はスウェーデンで提唱された言葉だそうです。

平日は働きながら土日、夜間に通学する人もいれば、休職や転職で生まれた時間を使って勉強に励む人もいます。

 私の周辺にも40代で仕事を辞め、大学へ戻って研究者へ転身したり、40代に入ってから、毎週末大学院へ通って修士課程を終えたりした友人はいますが、自分自身の学び直しについては、目下模索中です。そこで、友人のМ子さんが、大学を卒業して4月に大学院へ進むので、そのあたりのお話を聞きに行ってきました。

 

■54歳で早期退職、京都から東京の大学へ


京都出身のМ子さんは、20代半ばから約30年間、京都のメーカーに勤務し、5年前に早期退職。愛犬と共に東京へ転居して大学生活をスタートしました。М子さんと仕事を通じて知り合ったのは、今から約20年前。最近は、ベランダ菜園についての情報交換をしたり、野菜の種を分けてもらったりと、仕事を離れた付き合いが続いています。

 Q 2人とも今年で60歳になりますが、会社の辞め時についてはいつ頃から考えていましたか?

 A もともと60歳の定年まで会社に勤める気はありませんでした。若い頃は、60歳になって会社を放り出されたらその後新しいことに挑戦するのが難しいような気がしていましたから(今、自分が60歳を迎えるにあたって全然そうではないと思ってはいますが)。定年前に辞めて、その後長く続けられる仕事を見つけたい、あるいは作りたいと思っていました。また、60歳を過ぎたら会社に残っても仕事に全力投球できないのではないかという気持ちもありました。

 早期退職の対象が45歳〜59歳で、どのタイミングでやめるのがいいのかずっと考えていましたが、仕事が楽しくてやりがいもあって、なかなか辞めるきっかけが見つかりませんでした。53歳ぐらいの時に新しい部署に移りましたが、その時この環境では自分が納得いく仕事がもうできないと感じました。とてもやりがいがあって自分にぴったりでしたが、だからこそ、もうこの歳になって納得できない仕事はしたくない、と。気がついたら「辞める」と言っていました。それと同時に、早期退職の時期を考えても54歳というのは一番いいタイミングでした。

Q ずっと広報・宣伝のお仕事でしたよね?

 A はい、そうです。若い頃は先輩や上司にも恵まれ、やりがいのある仕事を任せてもらい、感謝しています。タイミングよく企業W E Bの草創期にも関わる機会もあり、新しい試みに挑戦できました。それは今でも私の財産です。

  Q 大学に行こうと決意したきっかけは、何かありましたか?

A 30代からずっと「大学で学び直しをしたい」とことあるごとに考えていましたが、夜間(二部)の大学は次第になくなり、短大卒は大学院には行けないため、働きながらの大学での学び直しは仕事が忙しいので難しかったです。それでも、いつか大学を卒業したいと考えていました(大学院にいく資格を得るためにも)。イキオイで会社を辞めてから、さて何をしようかと考えてみると、もう自分も母親が亡くなった年齢に近づいていました。やり残したことはなんだろう、今なら大学に行けるし、家の事情で背負ってきたものを今なら降ろせると考え、大学に行くこと、若い頃に行き損ねた東京へ行くことを思いつきました。家庭の事情、仕事の事情で留まっていた京都を出たいという思いもありましたしね。

 Q 大学では、どのようなことを学んだのですか?

 A 持続可能な社会を考える総合学部で、人間を取り巻くあらゆる環境、気候変動、生物多様性、エネルギー問題、環境政策、E S G投資や環境ビジネス、地域と首都圏との連携など、多岐にわたっています。

 Q 今、一番ホットな分野ですね。

 A 特に狙って入ったわけではありませんが、結果として最もホットな分野ですね。ただ、年を取りすぎたなとも感じています。もう1回やり直せるとしたら、会社に行きながら勉強してみたいです。退職した会社にも2年間は大学などで勉強し、再び会社へ戻れる制度が今はあるそうです。在職中も、退職することを前提に1年間は学べる制度もありましたが、忙しくてじっくり考えるゆとりがなかったですね。省庁に勤めている人などは、そうした制度をうまく利用してSDGsやESGなどを学び、自分のキャリアアップに役立てているのだと思います。

 Q 大学院に進んで、さらにこの分野を学ぶのですか?

 A 今の学部の大学院へ進むという道もありましたが、経営を勉強しようと思い立ち、法政大学ビジネススクールのイノベーション・マネジメント研究科へ進むことにしました。これまではお金を儲ける部署ではなく、どちらかと言うとお金を使う部署にいたので、お金の儲け方、ビジネスの作り方をこれからは学んでみたいと思っています。企業経営者の二代目や定年退職した人が多いので、同じ年代の人たちと一緒に学ぶことになりそうです。

Q 京都へ戻るのは、いつ頃になりそうですか?

A これから10年は京都と東京を行ったり来たりしたいですね。本当はもっといろいろなところに拠点を持って、様々な暮らしを体験したいと思っています。京都に戻って住むのは80歳頃になるかもしれません。


■コロナ禍、オンラインで学べる機会は増加


М子さんが30代の頃から、60歳の自分をイメージしていたこと、もっと早く勉強を始めるべきだったと感じていたことは、同い年の私には実に刺激的。

30代の私は、30年後の自分をイメージすることもなく、気がつけば50代を迎えていたのが正直なところ。学び直しとは、定年が視野に入ってから考えるのではなく、仕事と並行して検討すべきことなのかもしれません。

出所:「高等教育の将来構想に関する参考資料」(文部科学省 2015年)

リカレント教育という言葉はなんとなく知っていても、具体的にどこの大学でどのようなカリキュラムがあるか、どうアクセスすればよいのか、なかなかわからないものです。文部科学省の「高等教育の将来構想に関する参考資料」(2015年)によると、「25歳以上の『学士』過程への入学者の割合」は、トップのスイスが29.7%で、2位のイスラエル(28.7%)、3位のアイスランド(28.2%)が続いています。これに対して日本は、2.5%と極めて低く、OECD平均の16.6%を大きく下回っています。

この数値からもわかる通り、日本の学び直しは、まだまだこれからの感はありますが、コロナ禍を経験したことで職場での働き方も大きく変化し、オンラインを通じた学び直しの機会は増加しました。これは、社会人にとっても新たなチャンスにつながると期待できそうです。どのような分野での学び直しが、これからの日本に必要とされているのかなど、社会人の学び直しについては、自分ごととして引き続きウォッチしていきたいと思います。

文・藤本真穂 
株式会社ジャパンライフデザインシステムズで、生活者の分析を通して、求められる商品やサービスを考え、生み出す仕事に従事。女性たちの新たなライフスタイルを探った『直感する未来 都市で働く女性1000名の報告』(発行:ライフデザインブックス2014年3月)の編纂に関わる。今年60歳を迎えるのを機に、自分自身の働き方や生き方を振り返り、これからの10年をどうデザインするかが当面の課題。