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[論文自己紹介] 鳥類の脳サイズと飛行様式

Kozue Shiomi
"Possible link between brain size and flight mode in birds: Does soaring ease the energetic limitation of the brain?"
Evolution, 76: 649–657 (2022)
https://doi.org/10.1111/evo.14425


こちらの記事↓で

Swati Saxena, David J. Hosken, Tusheema Dutta
Digest: "Brain or brawn: Trade-offs between brain size and flight mode in birds"
Evolution, 76: 1916–1918 (2022)
https://doi.org/10.1111/evo.14548

論文を紹介していただけたのきっかけで、そういえば論文自己紹介まだしてなかった、と思い出して書くことにした。


背景:
動物の脳は、サイズや形が種ごとに大きく異なっている。その多様性を生み出してきた制約と機能を突き止めることは、進化生物学や認知生態学における長年の課題の一つとなっているらしい。

脳はエネルギーコストが高い器官であるため、特に、体サイズに対して大きめな脳を持つ/持つことができる動物が存在する理由に関してたくさんの研究が行われてきた。

本研究ではエネルギー的なトレードオフに注目して、鳥類の脳サイズ進化における制約を緩和した可能性がある要素について考察した。具体的には、はばたき飛行よりも移動コストの小さな飛行様式=ソアリング飛行が脳サイズの増加に寄与したのではないか、という仮説を検証...とまではいかないのだけど、仮説を支持するデータを提示することを目指した。


裏背景:
オオミズナギドリってうまいこと巣に帰ってきているようだけど(参考note[1], 参考note[2])、鳥の中でも賢い方なのかなぁ?脳大きい方なのかなぁ?と気になったのが始まり。機能面。でも、この話は論文のメインにはならず(できず)、考察でおまけ的にちょびっと触れただけ。


方法:
■ 鳥類2242種の脳サイズデータを複数の文献から集めて、
1. 渡り鳥と留鳥それぞれについて飛行モード間(ソアリング or はばたき)で比較
2. 各飛行モードグループについて、渡り鳥と留鳥で比較

■ 鳥類458種の基礎代謝率(BMR)データを文献から引用して、飛行モード間で比較

■ 鳥類3347種の繁殖期間(抱卵期間+育雛期間)データを複数の文献から集めて、渡り鳥と留鳥それぞれについて飛行モード間で比較


主な結果:
■ ソアリング飛行をする種ははばたき飛行をする種に比べて相対的に大きな脳を持つことを示した

■ 従来報告されてきた「渡り鳥は留鳥よりも脳が小さい」という傾向がソアリング飛行グループには見られないことを示した

■ 飛行モード間でBMRに有意差はなかった

■ ソアリング飛行グループの方が繁殖期間が長いことを示した


考察:
■ ソアリング飛行をする鳥では、はばたき飛行よりも移動コストを節約できるため、大きな脳を持つことへのエネルギー的な制約が緩和されている可能性が示唆された。ただ、現時点ではこれ以外の説明も棄却できてはいない。

■ 脳が大きい場合、発達に時間的なコストもかかると考えられている。ソアリンググループの繁殖期間が長いことは、相対的に大きな脳を持っていることとも関係している可能性がある。


苦戦したこと(ただの弱音):
■ 系統樹データの補正作業
本筋には大して影響しないことなのだけど、影響しないことをきちんと示さないといけなかったので、やった。

初回投稿時はBirdTree.orgからダウンロードした系統樹をそのまま使っていたのだけど、査読コメントを受け取ってからなんやかんやと迷走した結果、最新の情報を考慮した補正版系統樹を作り直して、全部の解析をやり直したのだった。とても憂鬱だった。

■ 単著
心細い...。憧れてたけど心細い。


次のステップ:
上に書いた「裏背景」にも関連するのだけど、脳サイズの機能面に関わる実験や、進化プロセスに関わる解析を共同研究として計画しているところです。がんばります。



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