自動車教習所の通学カバンを捨てた

 自動車教習所の通学カバンを捨てた。
 高校3年の冬に通った自動車教習所。背が低く出っ歯の教官はネズミと呼ばれていた。タツノという教官は理不尽に怒るので皆が予約を避けていた。二階の教室の隣の休憩室でローソンのサンドイッチを食べた。友人も僕も原チャで通っていたが400ccのバイクで通っていたT君。駐輪場に整理整頓と書かれた張り紙があり、そこで頓の字を初めて知った。好きだった同級生の女子に偶然出会えて嬉しかった。待合室にはヤングマシン誌が置かれていた。筆記試験に落ちて焦った。ガイアのコラムシフトが使いづらかった。外は寒く業務用のファンヒーターが轟音を上げて大活躍していた。頭文字Dとグランツーリスモが流行っていた。どんな車を買おうかなって皆で話した。路上教習で敷地から出るときに一旦停止しないと怒られた。卒業検定の坂道発進は緊張した。事務所の一角になぜか電話ボックスがあった。
 あのときの思い出のエヴリティングは間違いなく青春の1頁である。

 そんな教習所で入校時にもらい、通っている数ヶ月間使っていた通学カバン。いざ免許を取得した後はずっとタンスに眠っていた。そらそうです、教習所のロゴマークがどでんと真ん中にプリントされたぺらぺらのナイロンバッグを誰がいつ使うのか。デートに教習所のカバン持っていきますか? 就職面接に持っていきますか? 親戚の葬式に持っていきますか?
 教習所のカバンがフィットするシチュエーションなんて教習所に通うとき以外にまったくないから捨ててよし、ということに気づけなかったあのときの僕のもったいない精神と青臭いメモリー。
 免許をとって幾年月。ゴールド免許になってからも久しい頃、なんやこんなんまだ残してたんかと言うて捨てた。

 自動車教習所に通うという設定のコントをするなら要るかもしれんが、たぶん、僕は生きてる間に自動車教習所に通うコントをやることはないから問題ないぞ。

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