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小説 電子禁煙

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2020年8月の記事一覧

小説 電子禁煙 第四章 電話と亡霊

小説 電子禁煙 第四章 電話と亡霊

「お電話ありがとうございます。NTお客様センター、ソテイでございます」デスクで電話を取り続けるだけの毎日。通話が終われば、また次の電話が鳴る。その繰り返し。それを繰り返す。
 NTに入社以来、ソテイはコールセンター部門ひとすじで、数えきれないほどの問い合わせに対応し続けてきた。コールセンター部門という部署はは、華々しさとは無縁で地味な存在に思われがちだが、しかし実際には社内でもトップクラスの多忙さ

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小説 電子禁煙 第三章 原因と結果

小説 電子禁煙 第三章 原因と結果

 煙草の売り上げというのは、たばこ税が増税になる前後で、駆け込み需要による急上昇と、その反動による急落をし、その後は増税を期に禁煙する人がいるせいで、結果としてはやや減少となる。しかし、これは長期的な視点で見た場合の、例外的な変動であり、逆を言えば、通常は、一年を通してほぼ横ばいの売り上げを保つ。季節や気候、行事、イベント、社会情勢、メディア、景気、流行などによって極端に売り上げが上下することがあ

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小説 電子禁煙 第二章 視覚と聴覚

小説 電子禁煙 第二章 視覚と聴覚

 有給休暇の朝、シメジは夜明けとともに起きた。そして、洗面台へ行くよりもまず先に窓を開けて、外は期待通りに快晴の空、清々しいキャンプ日和だ。
 シメジはここ最近、一人キャンプにハマっており、気分転換したい時には朝から車を走らせ、キャンプ場で一人のんびりと過ごすのだった。流行に乗っかるのはあまり好きではないシメジであったが、やってみたら存外これが楽しくて、それ以来、テントや道具を少しずつ買い足しては

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小説 電子禁煙 第一章 挫折と復活

 今から40年前、この国では煙草の製造販売に関する法律が改正され、それまで国営企業だったタバコ公社がナショナルタバコ(NT)として民営化された。この法律改正によって、他の民間企業の参入も可能となったが、最低生産量の制限や手続き上の複雑さなどを理由に、どの企業も二の足を踏み、新規参入する企業は現れなかった。特に生産量に関しては、参入初年度から当時のNTの生産量の40%近い量を確保する必要があり、これ

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