深田さんとドライブ

5月半ばの土曜日 深田さんとスペシャルパレスを見学しに行く

今日は猛者なりの姿はなく 未来コーポレーションの社用車が自宅に横付けされた

行き先はマサトミ氏の手がけたデザイナーズマンションだ

右腰の鍵の束から 車のボタンを操作するとドアが空いた

まさかのタクシー仕様!!気分は「お嬢様お送りします」と言われた社長令嬢 

貴久のうらやましそうな視線をかわして

車の後部座席に乗り込む シートベルトをしめて出発

深田さんはいつになく上機嫌で「今日はマサトミ氏のスペシャルパレスに行きます!」とはりきっている

菜月はネコの肉球キーホルダーを見て 質問をする

「深田さんはどうして ネコ推しなんですか?」

ドキッ!深田さんはポーカーフェイスを決め込んでいるが
口元はネコのことで緩み切っているのだろう

カリカリの袋にいたずらして見つかってしまったネコのようだ
「そうですね‥‥わたくし深田はネコ様の僕になりたいのです」

「えっ!!そうなんですね」あまりにもあっけらかんとしたアンサーに
言葉を失う 

まさかのネコ様の僕宣言 もはや崖っぷちに追い詰められた
逃走犯が「降伏します!」と白旗あげてるようなもんだ

菜月は深田さんに詰め寄る「ネコにまたたびって知ってますか?」

「はい ネコに小判なら知っています」
常識的な回答をする深田さんはやはり社会人だ

「ネコにまたたびって ご褒美のことですよ」
崖っぷちの逃走犯をカツ丼で誘う作戦だ 

「ネコ様にご褒美は必要でしょうか?」ポーカーフェイスがほころぶ

「もちろん必要ですよ!ネコ様はムチじゃなつきませんから」

「なるほど!ネコ様には猫缶を差し上げるべきですね」

ピーンピーンピーン!

深田さんはハッ!とする 

カーナビを無視して 直進してしまったからだ

「今の角 曲がるべきだったんじゃ?」菜月は不満顔だ

「申し訳ございません!」深田さんは泣きそうな表情で
ウィンカーを出す 「回り道しますが 必ずSPに到着します」

カーナビのディスプレイにはマサトミ氏の着信が

「深田くん まだ急がなくて大丈夫だよ こっちはまだお客様がいるから慌てずにきたまえ」

「かしこまりました」

なるほど 深田さんは2人の上司と春田家の娘 そしてネコ様に囲まれているわけだ 

鎌倉の地形を思い出し ネコ様は深田さんのブルーオーシャンと覚える

その間 深田さんは回り道してカーナビの案内通りの道に戻る

無口になった深田さんはそれ以上 ネコの話をしない

田園地帯を爽やかな風が吹き抜けてゆく昼下がりだった




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