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岸田劉生と木村荘八

  二人の美術展<素描礼讃>に行ってきた(6月23日まで)。

  2年前、突如西洋絵画に興味を持ち、少しずつ基礎知識を増やしている初心者であるため、その関心はまだ日本美術にはたどり着いていない。有名な画家の名前くらいは知っているが、岸田劉生=『麗子像』、木村荘八=挿絵作家というレベルだった。

  しかし今年始めて訪れた国立近代美術館で『道路と土手と塀』を見てから、岸田劉生が気になっていた。雑誌やネット上の画像で見る『道路と土手と塀』とは異なり、実際にその絵の前に立つと瞬時に岸田の世界に引き込まれてしまう力を持っている不思議な絵だったのだ。

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  さて<素描礼讃>の会場は埼玉県の浦和にあるロイヤル パインズ ホテルの3階。

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  ホテルの3階?きっとこじんまりした美術展だろう、と軽い気持ちで出かけた。が、充実した2時間、足も頭もパンパンになって帰宅することになった。地方の美術館は大型展示会(ブロックバスター展)と違い、ガラガラの展示室内を行ったり来たり、自分のペースでじっくり作品を鑑賞できるところが嬉しい。

  <素描礼讃>展、とにかく知らないことばかり、いろいろな発見があった。

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  まず岸田劉生のコーナー。銀座生まれ、極度の近眼であった劉生は、若くして肺結核と診断され38歳の若さで亡くなった。絵日記をつけ、手紙にもよく絵を描いていたらしい。自分の気持ちを絵で表現できる人が羨ましい。

  何より、文学界と強い結びつきがあったことにワクワクした。試験対策で覚えた“白樺派”は、志賀直哉や有島武郎ら文学界だけの活動だと思っていた。しかし、1911年3月号にルノアールのことが掲載されていることを知った岸田劉生は雑誌「白樺」を興奮して購入したという。すぐに武者小路実篤らと親密になった岸田は、1918年「白樺」百号記念から雑誌の表紙を手がけることになったのだ。「白樺」から受容したゴッホなどの後期印象派の影響は自らも認めるところであった、と資料で読んだ。なるほど。

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  また武者小路実篤の『友情』や『幸福者』の装丁も岸田劉生が手がけている。

  バラバラにストックしていた知識が結びついた時、非常に興奮する。興奮して“もっと知りたい病”にかかるが、長続きしないのが私のダメなところ。今回、「フェウザン会」や「絵画の約束論争」など、初めて聞いた用語を目にした。これらは西洋美術と深い関係があるようなので、早速勉強、勉強…と。

  気になった作品は、エッチング『天地創造』と油彩『卓上林檎葡萄之図』。素描ではなんと言っても『麗子之像』。これまで見たどの麗子より魅力的で父親の愛情を感じることができた。

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  続いて木村荘八のコーナー。岸田劉生より2歳年下の荘八は、日本橋で生まれ15歳で文学グループと交流を始め、17歳でフランス語を学んだという。

  下の絵は『裸婦』と『祖母の顔』。挿絵以外の絵も味があり、もっと見てみたい。

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  しかし何と言っても挿絵がいい。サラサラと何気なく描いたように見える一枚も、この人が描く遠近感は心地よく、枠取りのセンスが抜群。とても洒脱な挿絵の数々に関心しきり。晩年の挿絵にはクスッと笑えるものが多い。“水飲め”シリーズは面白い。

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  “挿絵は素描であり本格的絵画である”と説いた木村荘八によると、ボッティチェリがダンテの神曲の、ドラクロアがゲーテやシェークスピアの挿絵を描いたそうである。木村荘八挿絵バージョンの『濹東綺譚』(永井荷風)を読んでみたくなった。

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  200点にも及ぶ絵を見終わって、何だか絵が書きたくなった。全ての教科の中で美術の成績が一番悪かったのであるが、今日から絵日記をつけようかなぁ、と考えて「いやいや」と打ち消した。無謀なことはせず、まずは西洋絵画の関連事項からコツコツ学びましょ。

  ちなみに私が引き込まれた『道路と土手と塀』は、岸田劉生が、北方ルネサンス、デューラーに魅了されて「ぢかに自然の質量そのものにぶつかって」いた頃の作品らしい。また一つ繋がった、面白い。

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<素描礼讃>岸田劉生と木村荘八 展、うらわ美術館は6月23日で終了するが、◉2019年9月13日〜11月4日まで、八王子市夢美術館
◉2020年9月5日〜10月25日まで、小杉放菴記念日光美術館で開催される。

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