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ゴヤの ‘まなざし‘ とベラスケス眼鏡

日めくりルーヴル 2020年9月2日(水)
 『デル・カルピオ伯爵夫人、ラ・ソラナ侯爵夫人』1794−1795年
フランシスコ・デ・ゴヤ(1746−1828年)

作品が描かれた時代背景や、画家の生涯について興味を持つようになってから、絵画の “国籍” を意識するようになりました。
そして現在開催中の<ロンドン・ナショナルギャラリー展>のスペイン絵画のスペースに立ち「私はスペイン絵画が好きなんだなぁ」と感じました。

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しかし、ゴヤの作品が好きか?と問われると、「 … 」。

1780年代には王家や貴族の肖像画家として大人気となったゴヤ。モデルを美化しすぎない大胆不敵な作品が高く評価され、宮廷画家として成功を収めました。
そんなゴヤが熱心に研究したのは、同じスペインの宮廷画家であり ゴヤより150年程前に生まれたベラスケスの作品です。

ディエゴ・ベラスケス(1599−1660年)。
3年前は『ラス・メニーナス』の良さが微塵もわかりませんでした。
しかし、ベラスケス作品の前に立つと(実物を見たのはまだ12作品ほどですが)たちまちカンヴァスの中に引き込まれてしまうのです。

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はっきりとした輪郭・立体表現、そして輝きと影が生き生きと描き出されている作品に近づくと、大胆で流れるような筆使い、時には荒々しいと思える筆致であることがわかります。それは感じるままに色を重ねたのではなく、簡潔にして完全で揺るぎない筆運び、マネに “至高の画家” といわしめた超絶技巧です。

___ふと 私は絵画作品のどんなところに惹きつけられているのだろうかと考えてみました。
第一に、筆使いや色彩感覚といった表現方法や表現力=アウトプット(テクニック)にあることに間違いはありません。そりゃそうですよね。
しかしそれとは別のベクトルで、画家が自らの目を通してモデルや対象物をどう受け取めているのか=インプット(画家の ‘まなざし‘ )に共感できるか否かが 大きなポイントになっているようです。
あくまで私の場合ですが…。

ベラスケス作品。なんと言っても彼の描くモデルたちがとても魅力的✨。
王室の人々や貴族だけでなく、道化師や召使いたちも 優しく気高さをもつ一人の人間としてカンヴァスの中で息づいています。
志高く真面目で謙虚、研究熱心で何事も真摯に受け止めるベラスケスの 穏やかで優しい ‘まなざし‘ に想いを馳せると、神聖な気持ちになります。
かけると “誰でもベラスケスの目になる眼鏡“ があれば良いのに…。

おっと。今回はゴヤでした💦。
私は「ゴヤ作品についてもっと知りたい!」とまだ思えないため、ゴヤという人のことをよく理解できていません。
ですから今回は、カレンダーの作品に限って触れたいと思います。

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ルーヴル美術館でこの作品を観た時、暗く寂しい印象を受けました。「ゴヤにしては自己主張の弱い絵だなぁ」と(← 何もわかっていないのに、すみません)。
背筋をピンと伸ばして立っている女性が少し硬い顔をしてこちらを見ています。
色を抑えた背景だけの構図、女性が肩にかけたレースの透け感やスカート凹凸の描き方は、ゴヤが尊敬し研究を続けたベラスケスの影響でしょうか、素敵です。ちょっと気になったので「後で調べよう!」と 写真を撮影していました。

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モデルになっているラ・ソラナ侯爵夫人は、戯曲の執筆も行なう教養豊かな才媛。この作品は1794年末から1795年初頭に描かれたものですが、夫人は1795年12月、38歳の若さで亡くなっています(涙)。死を自覚していた侯爵夫人が、肖像画を描いて欲しいとゴヤに依頼したそうです。

そんな侯爵夫人を描いたゴヤ。彼は1792年に原因不明の大病を患い、一命を取りとめたものの 聴力を完全に失いました。自信にあふれていた人気画家の華やかな世界が、音のない世界へと一変したのです。

モデルと画家の間には他人には理解できない共通点、“苦痛に耐えながらも生きた証を残そうとする情熱” があったのですね。お互いの境遇を理解し、その勇気を讃え 尊敬しあう。そんな共感が生み出した作品だったのです。

それを知ってからもう一度作品を見ると、侯爵夫人は厳粛で知性ある瞳を画家に向けて静かに、しかし凛と佇んでいます。魅力的です。
彼女の痛みや苦悩そして熱い気持ちを受け止めて、肖像画という作品に描き残そうと臨んだゴヤ。
とても心に響く作品になりました。

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今回、少しはゴヤの ‘まなざし‘ を感じることができたでしょうか…? いいえ、まだまだ全然。
ゴヤは、誰でも知っている有名な油絵の他にも、痛烈な社会風刺や人間の愚行、狂気や悲劇…などなどを描き出した版画や素描を数多く残しています。

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彼が心の中に抱えていた暗闇、そしてスペインの光と影…。彼を理解するためには、まだまだ修行が必要ですね。
「ゴヤについて知りたい!」いつかそう思えたときは、彼の魂がザクザク刻み込まれた版画集からスタートしたいなぁ、と思った次第であります。

    <終わり>

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