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不思議な出会い ・ シャンペーニュ

日めくりルーヴル 2020年7月14日(火)
『1662年の奉献画』(1662年)フィリップ・ド・シャンペーニュ

一度見たら忘れられない 何とも不思議な雰囲気が漂う作品です。
画家シャンペーニュが描いた『1662年の奉献画』。
正式な題名は『女子修道院長アトリーヌ・アニュス・アルノーと画家の娘の修道女カトリーヌ・ド・サント・シュザンヌ』、ん〜〜〜っ長い💦。
シャンペーニュの娘で修道女のシュザンヌは 医師から絶望視された難病に冒されていました。しかし修道院長が祈祷したことで完治。その奇跡に感謝し、シャンペーニュが修道院へ献上するために描いた作品です。画面左上にはこの奇跡的な出来事の銘文が記されているそうです。

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この絵について何と感想を述べれば良いのか…。
修道女が身につけている衣装は、その色合い、光沢、手触り、重さまでしっかり感じることができます。椅子を引いた時に床が鳴らす音も聞こえてくるようで全てに存在感があります。天井から降り注ぐ聖なる光、祈る女性たちの指先まで神々しい…。素晴らしい描写です✨
しかし、どう表現して良いのかわからないのが女性たちの表情。奇跡を喜んでいるのか、感謝しているのか、祈り続けているのか…。
精神はすでにこの世にない…ような気がして、少し怖いです。

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作者シャンペーニュについて調べてみました。
ブリュッセルに生まれたフィリップ・ド・シャンペーニュ(1602–1674年)は、1621年パリに出ると、リュクサンブール宮殿の装飾を指揮していたデュシェーヌのもとでニコラ・プッサン と共に働きます。
あら、日めくりルーヴルで投稿したばかりのプッサン!同じ時代を生きたのですね。全く違う印象を受ける二人が … 面白いですね。
このデュシェーヌとの出会いによってシャンペーニュの運命は大きく動いていきます。デュシェーヌの娘と結婚したことからマリー・ド・メディシスやその息子ルイ13世、そして宰相リシュリューに庇護を受けパリの宮廷で活躍するのです。
特にリシュリュー枢機卿の肖像画は有名らしく、リシュリューといえばシャンペーニュの描いた肖像画のイメージが定着しているようです。

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シャンペーニュの次のターニングポイントは、1640年代のジャンセニストとの出会いでした。ジャンセニストとは、人間の自由意志の無力さ、罪深さを強調する極端に禁欲的なカトリックの一派だそうです。
そして ‘意志の自由を強調‘ したイエズス会と激しく争ったのが、ジャンセニストの拠点であるポール・ロワイヤル修道院。シャンペーニュの娘に奇跡を起こした修道院です。
初期には華やかなバロック的画風を示していたシャンペーニュですが、ジャンセニストと関わりを持つことで作風はドンドン地味に…。厳しい禁欲的な古典主義の画風を確立していきました。一般的な世俗的価値には全く関心を払わなくなったそうです。

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ふむふむ🤔。無信仰で自由奔放、欲望の塊である私には、修道女たちの表情について理解し、表現することなど到底無理です。
しかし、“人間は生まれつき罪に汚れており、神の恩寵の導きなしには善へ向かい得ないのであって、自由な意志は全く無力である“ … と信じる修道女たちの作品として再度見てみると、シャンペーニュ、恐るべし!と思うのです。

ルーヴル美術館で同じく 少し怖い!と思ったシャンペーニュの作品がこちら。

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『屍衣の上に横たわる死せるキリスト』(1654年以前)
69×197cmという実寸大とも思えるサイズ。絵画作品がズラーっと展示されている壁の一部がそこだけくり抜かれて、本当にキリストが横たわっているのではないか!と驚きました(そんなことはあるはずないのですが)。
気を抜くと、2000年以上 時が止まったままの空間に引きずり込まれてしまうような緊張感がありました。

最後に私が好きなシャンペーニュの作品をご紹介します。

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国立西洋美術館の常設展に展示されている『マグダラのマリア』。こちらはシャンペーニュ最晩年の作品だそうです。
マグダラのマリアの表情にはやはり厳しい禁欲的な精神=修道女の表情に通じるものを感じます。
しかし、豊かで柔らかな髪の毛や頭を覆った繊細な布の風合いに優しさを感じてホッとするのでありました。

   <終わり>

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