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大学サークルは部費制を採るべきではない

 当記事は,非営利目的の小規模コミュニティにおける会費制に批判を向け,これに代わる方法を模索する。

 当記事は,あくあたん工房アドベントカレンダー4日目の記事。

 あるいは,あくあたん工房部費廃止の記念記事。

要旨

 大学サークルのような非営利目的・小規模コミュニティでは,部費を徴収しコミュニティ独自の財産を形成したとしても,部費が何に使われるか,あるいは,実際に何に使われたかについて構成員の合意を得る手続が保障されていない。したがって,上記のようなコミュニティでは独自財産を形成するのではなく,コミュニティ活動に必要な支出ごとに,その都度,受益者が按分して負担を行う方法を採るべきである。

考察の対処とするコミュニティ

 当記事では大学サークルのようなコミュニティを考察の対象とするが,具体的な特徴としては以下が挙げられる。

① 5人〜30人程度の構成員
② 非営利目的

 まず,①について,小規模のコミュニティでは、組織としての意志決定の方法が明確でないことが多い。なんとなく多数決によって決められているような、全員でコンセンサスを形成しているような、代表者が決めているような、といった曖昧な状態にあることが多い。
 次に,②について,営利目的の団体において,団体独自の財産を形成することに積極的な意義があることは,株式会社の例を見れば明らかである。このようなコミュニティに対する出資には,リスクリターンの関係がある。すなわち,事業が成功すれば出資に応じてリターンを得られるかわりに出資者は事業が失敗するリスクを負っている。しかし,大学サークルの部費にはこのような関係はない。基本的には,団体活動にかかるコストを構成員に分担させる性質である。
 当記事では、上記のようなコストの分担についていかなる方法が支持できるかということを考察の対象としたい。以下では,大学サークルと言うときは,上記の2つの特徴をもったコミュニティの意味で用いる。

部費制の問題点

1.部費の使い道(予算案)に対する構成員の合意を得ていない
 今,あなたの友人が,あなたの財布からお金を勝手にとって缶ジュースを買っていたら,あなたはどう思うだろうか。怒り,疑問,非難,とにかく納得できないだろう。では,あなたが支払った部費から,友人が缶ジュースを買っていたらどうだろう。これも納得できないだろう。なぜなら,あなたにはあなたの財産の使い道を自由に決める権利があるからである。以上の前提に立つと,部費制度を採用するなら、部費の使い道について構成員の合意が形成されていることが必要である。
 コミュニティ財産の使い道について構成員の合意を形成する一般的な手続として,予算案を作成し,構成員の多数決によってこれを採決するといった方法がある。しかし,大学サークルでは,そもそも何にお金がかかるのかといった予見もなく,したがって予算案も作成されず,場当たり的に部費からの決済を行っている。大学サークルでは,部費の使い道に対する構成員の合意を得る手続きがなく,この点が問題であると私は考える。

2.部費の執行者(執行権限者)が誰であるか決めていない
 みんなで部費を使ってこれを買おう!と決めても,魔法のようにその瞬間部費がモノに変わるわけではない。現実にお店に行ってモノを購入する(部費を執行する)必要がある。予算案の形成の次の段階として,実際に部費を使う場面で,その執行権限者が誰かという問題がある。具体的に起こるありがちな問題としては次のようなケースだ。
 ラグビーサークルで「新しいラグビーボールを部費で購入すること」をみんなで決めていたが具体的なことはまだ話し合われていなかった。次の日,サークル員のA君が,やや高額であるラグビーワールドカップ公式試合球を持ってきて,サークルのために購入したから部費で決済してくれと言った。サークルで話し合いが持たれたが,勝手に購入されたものを部費から支出することには反対であるとの意見が多く,結局A君は泣き寝入りになってしまった。
 予算案を作成しても,購入する物品を具体的に決める(品目?メーカー?型番?)には限度があるし,完全に特定する(例:A文房具店のB棚の最前列から2番目に陳列された「トンボ鉛筆 MONO 消しゴム モノPE01 JCA-561 5個入」など)ことは現実ではない。適当な粒度で予算案を作成し,執行権限者に具体的な予算執行を委任する必要がある。さらに,この委任の意味するところとは,構成員の執行者に対する予算執行の合意なのである
 例えば,株式会社では,代表取締役に業務に関する一切の執行権限を集中させ,代表取締役から業務執行者に権限をさらに委任するというシステムを採っている。
 あなたのサークルでは誰が執行権限者か?代表者か?帳簿管理者か?この点が不明ことに問題があると私は考える。

3.上記に向けられ得る批判とそれに対する反論
 
上記の私の意見に対して次のような批判が考えられる。すなわち,大学サークルでは,予算案と予算執行者を決めるための手続的コストが,「合意」の形成によって生まれる,部費の濫用を防げるといった利益を上回らないため当該手続が採用されず,代わりに大学サークルに加入する「入部」の意思表示によって,部費に関する一切の権限を代表者に委任することを「合意」している,というものである。
 しかし,上記の理論によれば,代表者が部費の金額を無尽蔵に吊り上げる等の問題行動に走った場合にも構成員は従わなければならないことになり,これは不当であろう。
 結局,大学サークルの部費制とは,トラブルが発生するリスクを切り売りし――それが発生しないようお祈りしながら――面倒な手続から目を背ける怠惰を買っているのである。

部費制にかわるやり方

 既存制度に対する批判ばかりだと実がないため,部費制に代わるやり方を苦しいながら提案したい。ポイントは2点である。
 まず,①お金を出す人がお金の使い道を決める関係が成立していることである。次に,②面倒くささ(手続を行うコスト)が大きくないことである。
 先述のとおり,部費制に対する私の批判は,予算案と予算執行者を構成員の多数決原理によって決めていないことに尽きる。したがって,もしあなたのコミュニティがこれらの手続をきちんと行っているなら――さらに予算執行の監査を行っていれば尚更に――望ましいことであるし継続してほしい。しかし,部費制度が現実に破たんしている大きな理由は,それが面倒くさいからだろう。現実的なやり方として,簡素な手続きを探す。

その都度受益者按分法
 
上記を満たすやり方として私は今のところ「その都度受益者按分法」を提案する。「その都度受益者按分法」とは,その都度に受益者が按分する方法である。詳しく述べると,コミュニティとして何か支出の必要に迫られる都度に,コミュニティ内でその物品なりサービスなりによって利益を受ける者が当該費用を按分して負担するというものである。
 「その都度受益者按分法」では,受益者負担の原則が実現さているのみならず,お金を出す人がお金の使い道を決める関係が成立している。さらに,面倒くささについても,従来は毎度お金のやり取りを行う手間が大きく現実的ではなかったが,近年,電子決済等の各種決済方法が発達したことによって面倒くささの問題は解決しつつあると思う。

おわりに

 私の所属するコミュニティ「あくあたん工房」が,部費の廃止を決定したとき,私は嬉しかった。コミュニティのみんなが,部費制という「泣き寝入り爆弾」に目を背けず一つの決断をしたことが誇らしかった。あなたはまだ部費制を続けるか。せいぜい自分が爆発当番にならないように祈れ。

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