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【Spin-off】スポーツボランティアのすゝめ

1月9日から22日までの2週間、 #スイス #ローザンヌ で、冬季ユースオリンピック(以下:YOG)が開催されていました

計らずも、この大会でボランティアをする御縁をいただき、ユースとはいえ、 #IOC _国際オリンピック委員会が主催するオリンピックの現場に初めて関わることができました。この大会でのボランティア経験を通じて、 #スポーツボランティア の素晴らしさを改めて実感し、また将来に繋がるかけがえのない出逢いもありました

スポーツボランティアの拡がり

東京マラソンをはじめとするランニングイベントの人気や、昨年のラグビーワールドカップ、そして今夏の #Tokyo2020 をはじめとする大規模国際スポーツ大会の影響もあって、最近は日本国内でも「スポーツボランティア」という言葉がよく聞かれるようになってきました。その詳細な意義については、「日本スポーツボランティアネットワーク」で紹介されています

僕が留学していた #スポーツマネジメント の大学院では、スポーツボランティアの実績が今後のキャリアメイクに役立ったり、リクルーターに好印象を与えるということを日頃から授業の中で指導されていたので、クラスメイトと共に、スポーツボランティアの公募や、オフィスから転送されてくる案内に申し込んでは、週末などスポーツイベントに参加していました。学生時代におけるボランティア活動に対する考え方は、日本の就職活動の評価に似ていると思います

拙稿では、YOGにおける「イベントボランティア」の経験に特化してお伝えします

遅れて届いたクリスマスプレゼント

僕の住んでいるローザンヌは、オリンピックキャピタルと呼ばれており、IOCをはじめ、夏季と冬季のオリンピック競技の国際統括組織の本部が多数存在しています。近代オリンピックが誕生したこの街で、ユースオリンピックが開催されるという千載一遇の機会であるので、なんらかの形で関わりたいと #スイス生活 を始めた頃からずっと想い描いていました。しかしながら、ボランティアの募集は2019年9月で終了しており、その前後から年末までは、論文の提出、初めての #海外での就職活動 やインターンシップなどでバタバタしており、気づけば年の瀬に近い時期でした

2019年12月、卒業式を終えて、クラスメイトと今後について情報交換していく中で、YOGの組織委員会で働いていた女性が、たまたまメディアチームで日本語ができる人を探しているというのです。僕は二つ返事でやりますと伝え、その日のうちに希望シフトを送ったのですが、ちょうどクリスマスホリデーに差し掛かる頃でもあり、最終の確定連絡は大晦日の前日だったと思います。回答が来るまで、本当にYOGでボランティアができるのか不安だったのですが、結果的に朗報が届いて安堵しました。ちなみに、年明けすぐにYOGが開催されるということもあり、組織委員会スタッフは、クリスマス前後と年始にあたる1月1日と2日を除いて、フル稼働していたそうです。日曜日や長期休暇中は完全休業するスイス人がこんなに働いていたとは、正直驚きました_笑

サステイナブルなオリンピック

毎日の勤務時間はおよそ8時間程度で、期間中は計8日間出勤しました。競技時間によって、朝シフト_9:00−17:00の日もあれば、夜シフト_15:00−23:00の場合もありました。大会前には、ボランティア専用のウェア(Tシャツ2枚、防寒インナー上下、ジャージ、ジャケット、ニット帽など)やギフト(スイス製アーミーナイフ、ピンバッジ、エコバッグなど)が支給され、勤務中は食事やドリンクも提供されました。食事メニューはサラダと日替わり1種類のみで、スイス料理は基本的に大味だと感じている中では割と美味しかったです

また、このYOGでは、サステイナブル_持続可能な大会をコンセプトにしていたので、担当したメディアセンターは、アイスホッケーだけでなく、徒歩圏内にある別のスケート会場のメディアセンターも兼ねていました。これまでのオリンピックでは、各会場にメディアセンターが設置されていたのですが、今後は人員削減、施設の負担軽減の観点から、通常のオリンピックでもこのような形になっていくだろうと関係者から伺いました。こういった事情から、メディアセンターには将来のオリンピック開催都市となるパリ_2024年と、ミラノ&コルティナ_2026年の関係者もIOCと共に視察に訪れていました

この他にも、ローカルの公共交通機関とパートナーシップを結び、ボランティアや観客はもちろん、選手団やメディア関係者も車ではなく、地元の乗客と一緒に電車やバスでの移動が推奨され、CO2排出削減などに一役買っていました。関係者が必ず着用しなければならないアクレディテーションが、切符の役割を果たしていたので、勤務日に会場へ通うための交通費の負担は全くなかったです。また、観戦客向けに、特別価格の交通チケットも販売されていたので、週末のオフは家族や友人とカーリングやスキージャンプなど、少し離れた会場にも足を運んで、日本の選手を応援しました。ちなみに、入場料は開会式以外全て無料でした

ボランティアであり_観客でもあり

スポーツボランティアの最大の魅力は、業務をこなしながら、スポーツを間近で観戦できることです

僕の与えられたポジションは、アイスホッケー会場にあるメディアセンターのオペレーションクルーでした。受付でメディア関係者のリクエストに答えたり、競技中におけるフォトグラファー専用エリアを監視したり、ミックスゾーンと呼ばれる、試合後メディアがインタビューを行う場所での、各媒体のポジション整理などの業務を順繰りに担当しました

もちろん、ボランティア中の観戦については、配属されたポジションにも因るかと思います。僕の場合、フォトグラファーエリアを担当した際、メディア専用の撮影ポイントとして会場内のベストスポットがすでにレイアウトされていました。その場所に行って、一般観客の方や、アクレディテーションのないフォトグラファーが無断で立ち入ることのないように整理することが主な任務です。アイスホッケーの場合、アリーナ全体が見渡せる場所であったり、アイスリンクに最も近い迫力満点の場所が、メディア専用エリアと制限されていました

競技の前や開始10分程度は、この専用エリアに誤って入ってくる人がいるので、やんわりお断りすることが続くのですが、第1ピリオドが終わる頃には、ほとんどの人が自分の席を確保できているので、ほぼタスクは終了です。なので、第2ピリオド以降は、このベストスポットから競技をまるまる観戦することができたのです

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日本にいた頃は、アイスホッケーを観戦したことが全くなかったので、今回の経験で「氷上の格闘技」と呼ばれる由縁を実感しつつ、その見応えのある競技特性を知ることができたのは、自分のスポーツナレッジベースを拡げられた点において、大変有意義なものでした。ビールを飲みながら一般席で仲間や家族とわいわいスポーツ観戦するのも楽しいですが、イベントボランティアとして、なかなか味わうことのできない場所でスポーツを支えながら楽しむことも、スポーツボランティアの特権だと思います

新しい出逢いと発見

スポーツボランティアの醍醐味は、新しいネットワークを拡げられることでもあります

今回の経験ではたくさんの新しい出逢いと発見がありました。なかでも、チームメイトの大半が他国から来ていたことにはとても驚きました。スイス在住者も当然いるのですが、それ以上にドイツ、イタリア、アイルランド、ロシアなどのヨーロッパ諸国をはじめ、イスラエル、レバノン、カザフスタン、中国など中東・アジア諸国からもボランティアとしてYOGに参加していたのです

彼らは通常の手続きを経て選ばれ、このボランティアのために自分で飛行機やホテルの手配_負担をしているというのです。ロシアから参加していた女性は2014年のソチオリンピックでのボランティアがとても記憶に残る経験だったらしく、それ以降いろいろなスポーツイベントにボランティアとして参加しているというのです。また、彼らのほとんどがTokyo2020のボランティアにも興味を持っているのですが、落選したり、宿泊料が高いから断念したといった話を聞いたのは、少し残念な気持ちになりました

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様々なスポーツイベントのボランティアを通じて出逢った人たちの話を聞いていると、そのスポーツ自体や会場となる地元_街が好きだからなんらかの形で貢献したいとか、仕事を休んでも参加したかったなど、彼らのスポーツボランティアに対する意識やモチベーションが、日本人の感覚と全く異なることにとても興味を唆られました。また、選考が発生するほどボランティアの募集にはアプリケーションが届くそうで、主催者がボランティア不足を懸念することはヨーロッパではないようです

どのようなファクターが彼らのスポーツボランティアの原動力になっているのかについて、とても興味深かったので、論文のテーマに取り上げようかと考えた時期もありました。ちなみに「笹川スポーツ財団」では、日本におけるスポーツボランティアに関する研究結果が公表されています

奇跡のようなめぐり逢わせ

このYOGを通じて最も収穫のあった出来事は、将来につながる思いがけないめぐり逢わせがあったことです

そもそも、冒頭でお伝えしたメディアチームが日本人を探していたというのは、やがて現実になる未来を先読みしていたのか。。。

というのも、1月21日の大会最終日の前日、アイスホッケーの女子日本チームが決勝で、強豪スウェーデンを破って世界の頂点に君臨したのです。これは日本だけでなく、アジア諸国においても歴史的な快挙であり、海外メディアも彼女たちの功績を讃えています

メディアセンターでは日本チームの愛くるしい姿が評判で、僕が日本人だと知ると彼女たちの素晴らしさを熱く語ってくるのです。攻撃的なプレーであるにも関わらず、試合後の彼女たちの控えめで謙虚な姿勢が海外メディアの目を引いていたようです。特に、競技終了後、アスリートひとりひとりが、リンクに一礼してからバックヤードに戻る行為がとても日本人らしく、彼らのハートを掴んでいたようです。僕も彼女たちの欧米スタイルに劣らないプレーや、ゴールを決めた後のメンバー同士のお辞儀ポーズが気に入って、すっかりファンになりました

この日、決勝競技のあとは表彰式も予定されていたので、メディアセンターはいつも以上にバタバタしていました。また、日本チームの決勝ということもあって、僕は急遽ミックスゾーンの担当となり、日本が勝っても負けてもインタビューがあるので、インタビュアーの通訳サポート業務をアサインされたのです

インタビューは表彰式の後に行う流れでしたので、白熱した競技と日本の歴史的勝利を見届けた後にミックスゾーンへ行くと、3社から通訳サポートのオファーを受け、事前にインタビュー内容などを打ち合わせしました。 #日本のスポーツ界 で働いていた頃から通訳の経験はあったのですが、メディアのために通訳_選手のコメントを英訳するということについては、久々の経験で緊張しました。また、アイスホッケーに関するルール細部や専門用語の英単語も短時間では詳しく理解できなかったので、プレッシャーを感じていましたが、同時に達成感と自身の課題も見つけられた機会でもありました

特にチャレンジだったことは、快挙を成し遂げた彼女たちの本音と、興奮した想いをありのままに、かつ間断なく #英語 で伝えることでした。インタビュアーの質問事項は事前に用意できており、それを日本語訳して選手に伝えるところまでは問題ないのです。そのあとの、事前情報のない_初めて聞く選手たちの特別な想いの日本語コメントをインプットし、それを瞬時に英語へ変換してアウトプットする作業は、カメラが回っている前では本当に難しかったです

さらに、当該試合中の出来事に関する前置き_試合の展開や、どのピリオドで誰からのアシストで誰がゴールを決めた_など、事前に正しく把握していれば全く差し障りのない情報も盛り込んできたので、インタビュー中に僕が聞き返さなければならない場面がありました。勉強不足を反省しながら、確実な意思疎通のためには致し方のない確認だったのですが、自分の所為でその場の空気が白けてしまわぬよう、その点には心血を注ぎました

全てのサポートを終え、満足のいかない部分もありましたが、海外メディアの方達が「Good job!」と声をかけてくださったことや、金メダルを首にかけて満面の笑みでその喜びを伝えていた日本選手たちの貴重なインタビューをサポートすることができて、実に有意義な経験となりました。また、今回お手伝いさせいただいたメディアの方から後日連絡をいただいて、もし興味があるならと、Tokyo2020での仕事を紹介していただきました

アイスホッケーのメディアセンターに配属されたこと、日本チームが優勝したこと、YOGに関わることでたくさんの人々に出逢い、新しい発見や経験をさせていただいたこと、奇跡のようなめぐり逢わせの連続に心から感謝し、YOGのボランティアに参加できたことを誇りに感じています

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スポーツボランティアはボランティアだけじゃない

2010年_バンクーバーオリンピックからメディアセンターのボランティア統括に携わっているリーダーが、いつもミーティングの締めくくりに言っていた言葉が、「smile and enjoy」でした。ボランティアが笑顔で楽しんでいないと、観客もメディアも楽しんでもらえないですし、いいニュースが発信してもらえないというのです

スポーツボランティアのメインは、勿論イベント成功への無償奉仕ではあるのですが、同時に自分が得たい_叶えたいことをイベントを通じて追求してもいいと思います。たとえば、中国から来ていた学生は「ローザンヌ_オリンピックキャピタルを、ただ見てみたかった」という理由から参加したと話していました

僕の場合は、ローザンヌという場所で開催されるオリンピックに関わりたいという想いが発端で、そこからローザンヌにおける人脈を拡げられたらと思っていました。そして、想像もしていなかった出逢いがありました

取っ掛かりは、各々自由で構わないと思います。アスリートに近づきたい、支給品が欲しい、就活に役立てたい、新しい友達をつくりたい、あるいは、恋人を見つけたいでもいいと思うのです。実際、大会最終日に近づくに連れて、「あのふたり、付き合ってる?」みたいな学生もいました_笑

日本では、「ブラックボランティア」という言葉が流布しているようですが、スポーツボランティアに関しては決してそんなことはないと断言できます。無償奉仕という概念が先走っており、交通費などの持ち出しがあることも事実ですが、スポーツボランティアでは、それらを超えて、自分なりの関わり方や楽しみ方を見つけ、当初の目的やボランティア業務以上のプライスレスな価値を得ることができるからです。これこそ「スポーツのもつパワー」だと信じています

YOGのスポーツボランティアを通じて、新たな夢を見つけることができたので、また目標に向かって進んでいこうと想います

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