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バベルの塔と歌うたい #9

バビリ。バビロンか。その瞬間、パズルのピースが全て埋まった。恐らくここは古代の都市バビロンだ。時代はシュメール文明でジッグラトが作られている頃だとすると紀元前3000年から2000年あたりだろうか。いや、バビロンならもっと新しいかも。とにかく私は今凄いものを見ているんだ。紗羅は興奮が隠せなくなりジッグラトを指差して父に尋ねた。

「ジグラ。」そう聞こえた。

やがて荷車はジッグラトのそばで止まり、沙羅たちは父親に連れられて建設現場の人混みに入って行った。父親はやはり監督者のようだった。たちまち人々が父親を取り囲み口々に何かを訴えはじめたが、紗羅はジッグラトに気を取られ喧騒も耳に入らない。その建物は間近に見るとやはり果てしない数の日干し煉瓦を組み合わせて作られている。正面にはまっすぐに伸びる階段があり建物全体は小高い丘のようにそびえ立っている。至るところに作業する人々が見え、ジッグラトの周りにも日干し煉瓦造りや木組みを作る人など数えきれない人が働いている。これほどの人はいったいどこから集まったのだろう。どこで寝泊りしているのだろうか。このジッグラトは完成までどのくらいかかるのか。次々に疑問が湧いて来て、紗羅はますます物思いに沈んでいった。

ヨゼに袖を引っ張られて我に返った後、紗羅は思い切って父に頼んでみた。あそこに行きたいと。ジッグラトに登ってみたかったのだ。最初は父は相手にしなかった。建設現場は危険に決まっているから当然だろうが、紗羅は諦められない。ヨゼも一緒に父親に纏わりついて何度も何度も訴えた。さすがに根負けしたのか、とうとう父親は2人を連れて階段を登りはじめた。紗羅は何故かとても緊張して鼓動が激しくなるのを感じながら、ヨゼの手を強く握りしめて階段を上って行った。

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