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青木古書店の不思議な一日

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前作「青いマグノリア」の新シリーズです。ミステリーです。
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青木古書店の不思議な一日 その6

青木古書店の不思議な一日 その6

残りの本を調べたが特に手掛かりとなるようなものは見つからなかった。

「やはりその切手が目当てなんでしょうか。ネットで調べてみたいですね。」
「素人には本物かも分かりませんからまずはプロに鑑定に出しましょう。」
「ところで本を持ち去った犯人達は切手が挟まれていないことに気が付いたら絶対戻って来そうですね。あるいは私を付け狙うか。」
「ですから私としてはしばらく青木さんの身柄を保護したいところです。

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青木古書店の不思議な一日 その5

青木古書店の不思議な一日 その5

「犯人を誘き出すってことですか。そんなに易々とやって来るでしょうか。」

「来ると思いますよ。欲しいものを手に入れるためには人さえ殺すような奴らですから。」

「奴らってことは。」

「私は複数犯と見ています。店の前をうろついていたのは三人でしたし。」

「そんなに大掛かりな犯行なんですか。一体何を狙っているんだか。」

「やはり残りの本が気になります。昨日届いた本を全て確認させてもらえますか。」

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青木古書店の不思議な一日 その4

青木古書店の不思議な一日 その4

青木が昨夜から今までの出来事を一通り話し終えると正午を回っていた。

長谷川は時々質問を挟みながら熱心に話を聞いていたが、やがてこう言った。

「もう昼か。お腹が空きましたね。一緒に昼に行きませんか。外の空気が吸いたいのでコンビニで弁当でも買って公園で食べたいな。」

「近所に時々散歩がてら休憩に行く公園がありますよ。そこで昼にしましょうか。」

ベンチに二人並んで座って食事を取る間、二人は取り留

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青木古書店の不思議な一日 その3

青木古書店の不思議な一日 その3

仕入れたはずの本は30冊だった。昨夜数えた時もちゃんと30冊揃っていた。それが今日は29冊しかない。無くなった本は30年ほど前に出版された豪華客船の歴史を綴ったドキュメンタリーで、タイタニック号の内部など古い客船の貴重な写真が豊富に掲載されていた。出版後すぐに発行元が潰れたため世の中に出回った数が少なく、マニアには根強い人気を誇っていた。しかし取引価格は一万円前後で特別に高価な類の古書ではない。

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青木古書店の不思議な一日 その2

青木古書店の不思議な一日 その2

昨夜諦めた台帳整理を開店までに済ましてしまおうと、いつもより2時間ほど早く店にやって来た。シャッターを上げ鍵を開けてドアを押すと暗い店内の様子にいつもと違う何かを感じた。その何かはすぐに目に止まった。天井まで届く書棚に挟まれた狭い通路の床に人影が見えるのだ。男が倒れている。青木は一瞬固まったが気を取り直してそばに寄ると、左頬を下にしてうつ伏せに倒れているその男に声を掛けてみた。返事はない。恐る恐る

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青木古書店の不思議な一日 その1

青木古書店の不思議な一日 その1

はからずも咲の物となったダイアモンドのブルーマグノリアを競売に掛けてから半年後、咲は長谷川と共同で探偵事務所を開いた。あの宝石は開業資金とあしなが育英基金への寄付金ですっかり片付いたので、これからは依頼料と成功報酬で収入を確保しなくてはならない。とは言ってもいきなり依頼が舞い込むはずもなく、しばらくは長谷川ルートでの地道な営業が主な業務となるだろう。つまり当面は赤字が続くことになる。

長谷川は警

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