20.2.15 荻窪Titleへ行く日。

午後の予定が無くなったとき、何をすべきか分からなくなった。去年の就活を終えてから、どこかに出かけるというイベントとはかなり距離が空いている。おいしそうな店を調べて行くことも、映画館に行くことも。それまで自分の好奇心で行っていた行動が、一度デートというイベントに集約されて、デートをする相手がいなくなったと同時に出かけるという選択肢自体がすっぽり抜け落ちた感じがする。つまらない野郎だ。腹が減れば松屋と富士そばに行って、いつもの喫茶店に行って、いつもの居酒屋でいつものメンツで過ごす日×数カ月。
何が楽しいんだとたまに思うけど、そこそこに楽しい。

出かけようと思ったはいいけど、全て自分でセッティングする気力はあまりなくて、予約した本を受け取りに行くという「用事」に助けられた。予定をこなすだけの時間は停止しているのと同然だと気がついたばかりだけど、そもそもが予定をドタキャンされて空いた時間なのだからイイだろう。そんなことをゆっくり考えいるうちに新宿駅のホームから中央線に乗った。

前回Titleに行った時は、西荻窪のカフェで開催されていた衿沢世衣子さんの個展に行った脚で住宅街を横断して向かったので、荻窪駅からまっすぐ向かうのは初めてだった。もうすぐ見えてくるだろうと思った交差点がちょうど中間点で、思ったより駅から遠い。味噌ラーメンの店と、カフェバーのような店、天井の高い純喫茶なんかが並ぶ通りを抜けて、二本目の歩道橋を過ぎたあたりで急に青い看板が現れる。
去年の文フリで販売されていた、ミワさんの「生活の途中で」の予約をお願いしていたのだ。二回目なのに、店主は僕の顔を見てすぐに注文の品を出してくれたような気がして少し驚く。
Titleは、入口から店内全体が見渡せる。古い民家を改修した名残か、木目の綺麗な床と棚がゆったりとした空気を漂わせているのがよくて、一番好ましいのは店内にポップの類が一切ないところだ。単行本がピシッと並んだ棚にはジャンル分けの表記もなくて、趣味のいい先輩宅の本棚を眺めたときの興奮に近いものを感じる。オードリー春日が言うところの「ビビビ」をこのお店に感じた初来訪時、店頭に積まれた店主辻山さんの著書『本屋、はじめました』を買っていた。個人書店であるTitleの立ち上げ経緯や運営のこだわり、来客に対する観察眼が綴られた本を読んでからの入店だったので、前回よりワクワクしながら棚を眺めて回れた。相変わらず、藁半紙に店のロゴスタンプが押されたブックカバーがかわいい。

『本屋、はじめました』はとても面白い本で、下北沢THREEの(元?)店長スガナミさんのブログで感じたような、冷静と情熱の真ん中の心意気に接近できるモノがある。組織での経験を積んだ大人が、自分の店を持つことに対する憧れや安心感を偉大に感じる学生時代だった。

前回はじっくり見れなかった漫画コーナーでも何か買おうかと思ったけど、本屋で5千円以上使うとなるととても躊躇する。以前、酔っぱらって本屋に行かないようにしている、と話してくれた大人がいたけど、今の自分には夢シチュエーションだ。おそらく何も読んだことがないはずの西村ツチカさんの作品が目に留まったのだけど、『生活の途中で』の表紙を描かれていることに帰ってから気が付いた。出版前から楽しみにしていたから、スマホ越しに何度も表紙を眺めていたということか。
自分でもしっかりしたものが書けて、自分の好きな人や共鳴する文章を書く方の寄稿やデザインを集めて一冊の本いしたミワさんはやぱりすごいなあと心から思う。自分にはそこまでの繊細さはないのだけど、彼らの目を通したおぼろげな世界が、一瞬鮮明な生活の痕跡となって浮かび上がる文章を読むときに感じる喜びみたいなものは、平成の内にギリギリ獲得できた新しいボタンになっている。

買い物を済ませたら、一直戦で駅前の日高屋に入ってから帰った。用事以上の探検をする気力はないらしい。TBSラジオエキスポにまつわるラジオを聴いたり、「神田伯山ティービィー」や『太田伯山』なんかを見て過ごしている。


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