3月に聴いたもの

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宗藤竜太 『くるみ』
「もののあわい」という名前でサウンドクラウドに小さな宝石のような音源をぽつぽつと上げていた頃からのファンです。あの誰かのメモ帳を覗き見していたような空気感も愛おしかったけど、こうしてちゃんと配信に乗ってくれるとやはりとても嬉しい。今でも一番好きな『いじわる』や『LADY』はもちろん、少し前の三鷹のおんがくのじかんのライブで聴いた『ティンク』という小品ながらそこから溢れ出さんばかりの魅力ある曲が並ぶ。

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岡村靖幸さらにライムスター 『マクガフィン』
岡村靖幸もライムスターも実は中学高校生くらいのイメージのまま更新されていなくて、要するにちょっと危ないお兄さんたちという感じなのでなかなか気軽な気持ちで聞けないでいた。ライムスターとかは中学生の時くらいに意味もなく深夜まで起きて深夜番組を観てる時にカウントダウンジャパンで50~30位くらいの割とバーっと流れで紹介されるところで『ロイヤルストレートフラッシュ』が流れて、なぜかめっちゃかっこいいけど危ない、怖いと思ってツタヤでシングルをレンタルしたものでした。岡村靖幸も本人はなんか怖かったが、栗コーダーカルテットの『友人のふり』や、Bank Bandの『カルアミルク』、あと先ほどの深夜番組巡回で出会ったSophiaの『Hard Worker』という曲(これもかっこいいけど危険な大人たちだと思った)など間接的に彼の曲が取り上げられているのを聴いて、それだけ独創的で普遍的な曲を作る人なんだなと思っていた。そんな危ないお兄さんたちはもうおじさんだけど、コラボした結果やっぱり危ない変態的な曲を出した。基本は4コードのループだがEm-G7-E/G#(?)-F7という感じで変則的。そのダークな進行の上ででライムスターのバースと岡村靖幸のBメロ、からのシンセのオカズとともに平行調にくるっと転調しドリーミーなⅠ-Ⅲbdim-Ⅱm-Ⅴ7。「罠だもん」という歌詞のあざとさ。この歳になって初めてしっかりこのおじさんたちを観てみたら案外怖くはないんだなと思った。

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Sam Gendel 『Satin Doll』
昨年Frueで来日していたサム・ゲンデルの新譜。その時のサックスにゴリゴリエフェクトを通したセットをパッケージングしている。曲目はいわゆるジャズスタンダードが中心だが、アナログのリズムマシンの抽象的なビート、シンベの機械的なライン、ハーモナイザーで煙のようになったサックスのメロディというおかげでどの曲も白昼夢のような仕上がり。タイトルを見ないとなんの曲だか気付かないスタンダードもあった(サテンドールとか)。『グッドバイ・ポークパイハット』とかはなんだか仏具のサンプリングのような音色が後ろで流れていてストリート的な質感と寺社のような厳かさが同居していて白眉。あと『スターダスト』のVerseをやってくれたのは嬉しかった。グッドにもバッドにもトリップできる名or迷盤。

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Olivier Ker Ourio 『Singular Insularity』
フランスのクロマチックハーモニカ奏者のオリヴィエ・ケル・オゥリオ。トゥーツの後継者とも言われているらしく上品なフレージングで、同じくハーモニカ奏者のグレゴア・マレとはまた一味違った魅力を持っている。キューバやアフリカのテイストが強い楽曲群で個々のソロスペースも十分聴かせてくれる(ハーモニカ奏者はアルバムだとトータルプロデュースを重視するのかソロが消化不良なことが多いように個人的に思っている)。ピアノとエレピのバランスもちょうどよくあくまでアコースティックの範疇でフュージョンぽくなっていないところも個人的に好感触。

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Bobby Krlic 『Midsommar (Original Score)』
映画『ミッドサマー』のサウンドトラック。ボビー・クルリックという方は調べてもそこまで他の仕事が出てこなかったが、今作について音楽はとても良い仕事をしていたと思う。電子音とストリングスのアンサンブルを中心にしたアンビエントが中心だがその緩急のつけ方がうまい。音の質感を中心にストーリーを引っ張りながらも、要所要所に美味しいコード進行を挟み込むところが、なんともツボに入った。特にラストシーンを通して流れる『Fire Temple』は10分弱の曲だが、曲だけでも全く飽きることなく聴けてしまう。劇場でここのベースがクリシェを始めたときに「やられた」と悶絶したものだ。

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Arovane 『Gestalt』
ドローン、アンビエント。アナログシンセなども聞こえてあたたかい手触りの音楽。包み込まれるような音が多いので良いスピーカーやノイキャンのイヤホンで大きな音で聴くと良いと思う。個人的には(毎回言ってる気がするが)サウナや温泉、旅館などで流して欲しい。『Cinn』などはまさにととのわんとしている時という感じがする。

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James Taylor 『American Standard』
アメリカン・スタンダードということでジャズスタンダードとしても有名な曲が並ぶが表題の通りポップソングの文脈でのアレンジでまとめられている。歌モノのジャズというとどうしても純粋なジャズ由来(この言い方自体がどうかとは思うが便宜上)のものよりこのような大衆音楽が多いが、やはりポップであることは素晴らしいことだと思う。受け皿が大きい。個人的な推し曲は『The Nearness Of You』で、この映画館のエンドロールみたいな空気感は普段聴く音楽になかなか含まれないので新鮮だった。

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Olivia Belli 『River Path』
クラシックかポストクラシックか微妙なところですが、ピアノの音質がとても好みだった。このくぐもった中に少しだけきらっと光るような音色がとても好き。あとハーモニーの移り変わりを淡々とアルペジオで並べていく感じのコンポーズも好みだった。

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Anna Rakita & Vardan Ovsepian 『Every Tomorrow』
アルメニアのピアニスト、ヴァルダン・オヴセピアンとロシアのヴァイオリニスト、アンナ・ラキタのデュオ。ジャズというよりはクラシック。タチアナ・パーハとも演奏している『Filus Treca』なども収録。親密でリラックスしたデュオ作の方を好むことの方が多いのだが、このアルバムのような緊張感あるデュオも良いなという気付きがあった。


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