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「hashicco.」 美術展レビューマガジン

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美術展・美術館・博物館・建築のレビューです。不定期更新
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記事一覧

日帰り弾丸高野山詣―1250年の祈りの都をたずねて

6/16早朝、前日交流戦オリックス-ヤクルトの4時間を越えるヤクルトとしては本当にひどい試合に参戦して、本当にへとへとに疲れ果てていた私は、朝7時から特急こうやに乗り込んで、一路高野山へ出かけた。 性分として、疲れた翌日ほどリフレッシュのために寺に行きたくなるのかもしれない。 しかし、re-freshとは高野山を表すのにとても相応しい英語だ。語源である「refreschier」は「ふたたび新鮮な状態にする」といった意味だが、朝の高野山の静謐な空気は人や動物、植物までをあま

内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙 開幕!いろどりの中世宗教世界へ

国立西洋美術館に2015年~2020年にかけて寄贈された、中世ヨーロッパの装飾写本リーフを中心とする内藤コレクション。 今まで常設展のなかで少しずつ展示されてきたが、コレクションの全容を辿ることのできる企画展が2024年6月11日(火)より国立西洋美術館で開催されている。期間は8月25日(日)まで。 中世の修道院で作り続けられた彩飾写本。獣皮紙・インク・絵具など高価な材料を惜しみなく使って編まれた書物の世界のなかでは、現代ではその多くが失われてしまったゴシック~初期ルネサン

フェルメール(帰属)《聖プラクセディス》が撮影可能に! 国立西洋美術館に行ってきました

上野動物園を楽しんだ帰りに久々に国立西洋美術館へ行ってきました。常設展の展示が多少変更されており、新展示・初展示作品も。 企画展のない時期は空いていて見やすいですね。 アムステルダムのフェルメール展に貸し出されていた《聖プラクセディス》が戻ってきました。さらに撮影可に。 帰属、という表記ではありますが、近年の国外でのフェルメール展では真作として扱われることも多いです。西洋美術館じたい「フェルメールが見られる美術館」と紹介されることが増えていますね。他に誰もいない状態でゆっく

【美術】当麻曼荼羅とはなにか? - 特別展「法然と極楽浄土」

《綴織当麻曼荼羅》が東京に来る 今年初春、「《綴織当麻曼荼羅》が東京に来る」という大ニュースが仏像界を駆け巡った。 《綴織当麻曼荼羅》/《当麻曼荼羅貞享本》(展示替えあり)は現在開催中の東京国立博物館「法然と極楽浄土」で見ることができる。会期は6/9(日)まで。 筆者は仏教美術のなかでも綴織当麻曼荼羅(以下根本曼荼羅と呼称)と当麻寺(奈良)がまさしく学部時代の専門だったこともあり、この傑作が関東で展示される機会を待ち望んでいた。 《阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)》や

迎賓館赤坂離宮羽衣の間にて越川倫明教授の天井絵画解説会を聴いてきました。日本唯一のクアドラトゥーラの天井画を有する迎賓館赤坂離宮で実物を見ながら(そして壮麗な国宝建築の中で)西洋美術史における天井画と遠近法のお話を詳しく伺えて、大変贅沢な時間でした。完訳美術家列伝読み進めます…

根津美「仏具の世界」初日。信仰の実践の手段としての仏具を中心とするが、仏画、繍仏の優品も多い。今年も中将姫絡みの展示があるのが非常に良いですね。江戸時代の小袖を仕立て直した幡、そして弘法大師像を中心とした五鈷杵・五鈷鈴・輪宝・羯磨の展示方法が美しい。〜3/31

春から美術史を学ぶ全ての学生へ②―作品はまた会える、友人は二度と作れない

当記事はこちらの記事の続きです。 さて、「美術館に行こう」と散々言いましたが、大学の上に立っている文科省とは厄介なもので、どうやらひとつの授業あたり3分の2出席しないと問答無用で落単という厄介なルールがあるらしいです。 とはいえ私の大学は非常に緩い類で、「大教室を使うほどの人数が受けている対面授業なのに先生が出欠を一切取らないため、教室に来ているのは7~8人」という嘘みたいな講義が昔は実在していました。ただそのレベルの講義はさすがに先生が怒られるらしいので、大抵の先生は出欠

練馬区立美術館「本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション」本(文学)とそれを彩る美術を往復する構成がぎっしり200点。鑑賞者に良い意味で委ねているというか、正直ペダンティックともいえる今どき珍しい展示です。吉野石膏が図版をネットに出していない作品も多数。必見。

本籍が水戸の歴オタによる弾丸水戸旅行記① 常陽史料館「ふしぎワールド うつろ舟」を中心に

そうだ、梅の時期の水戸に行こう 水戸で良い感じの展覧会が複数開催されているらしい。 しかも、仏教美術の展示もある。 さらに言うと、水戸はちょうど梅の時期である。 ――行くか。水戸に。 水戸に戸籍があるのに偕楽園でまともに梅見たことないし。 というわけでホテルを取ったのは2/23(木)。旅行前日である。 何軒か比較検討したが、agoda経由のホテルテラス ザ ガーデン 水戸 がコスパが良いと判断して、即決した。 普段であればもう少し安いビジホを探して宿泊代をギリギリまで切

クリストとジャンヌ=クロード「包まれた凱旋門」感想

「巨大な建築、あるいは島や海岸といった自然そのものが布で覆われ、包まれた何か」。 現代アートに興味がある人であれば、どこかは写真かなにかで目にしたであろう「あの作品たち」の作家――「クリストとジャンヌ=クロード”包まれた凱旋門”」を21_21 DESIGN SIGHTにて鑑賞した。 《包まれた凱旋門》、作者死後の大作展覧会公式サイト:https://artsticker.app/events/1353 クリスト(2020年没)とジャンヌ=クロード(2009年没)はどちらも

ルーベンス展@西美

2019 ③ ルーベンス展@西美  リハビリも兼ねて、レビューとしては物足りないメモ。そんなに毎回気合の入った批評は書けない。  バロック最高の画家の一人とうたわれるルーベンスを「ルネサンスから地続きの」画家として捉え直すことで、画家の美術史における立ち位置を再確認するありそうでなかった大回顧展。もろもろのキュレーションが非常に緻密かつ丁寧な構成で、初心者から専門の人間までもなくいい意味で「勉強になる」展覧会だった。  ルーベンスはフランドル出身の画家だが、もちろん若い頃は

「天平仏の四番バッター、東博へ襲来!」 - 仁和寺と御室派のみほとけ展感想(前編)

★上野・東博特別展「仁和寺と御室派のみほとけ」レビュー ★奈良時代の至宝中の至宝の千手観音像が現在公開中! ★空海の「三十帖冊子」が仁和寺にある理由は……  こんにちは。きのこかたけのこかで言えば圧倒的きのこ。覇道を往くほうの波子です。 先日、上野の東京国立博物館・平成館で開催中の「仁和寺と御室派のみほとけ展」に行ってきました。 公式サイト:特別展「仁和寺と御室派のみほとけ展」http://ninnaji2018.com/  突然ですが、みなさんは突如として「仏像を見た