百人一首についての思い その95

 第九十四番歌
「み吉野の山の秋風さよ更けてふるさと寒く衣打つなり」 
 参議雅経(まさつね)
 吉野山に秋風が吹いて、小さな夜が更けていく。古代に皇居があった晩秋の吉野では女性達が衣を砧で打つ音がしている。
 
 A cold mountain wind blows down
 on my old home in Yoshino,
 and as the autumn night deepens
 I can hear the chilly pounding
 of cloth being fulled.
 
 参議雅経は、源実朝と親交があり、定家と実朝の間を取り持った。一句目の「吉野」は雄略天皇の古い都の吉野を指す。第四句目の「ふるさと」は故郷という意味ではなく、昔は栄えていたが今は寂れているところを指す。
「ふるさと寒く」は貴族政権の崩壊を指す。「衣打つなり」は、崩壊していく国のカタチが見えているにもかかわらず、老骨に鞭打って平和な日本を取り戻そうとする姿を表す。
 
 小名木さんに依れば、白居易の次の漢詩に注意すべきだそうだ。
 
 誰家思婦秋擣帛  誰が家の思婦か秋に帛を擣つ
 月苦風凄砧杵悲  月苦え風凄まじく砧杵悲し
 八月九月正長夜  八月九日 正に長き夜
 千聲萬聲無了時  千声万声 了る時無し
 應到天明頭盡白  応に天明に到りて頭尽白かるべし
 一聲添得一莖絲  一声添え得たり一茎の糸
 
 つまり、参議雅経は白居易の「聞夜砧」をモチーフにして、吉野に秋風が吹いている―貴族社会が終焉を迎えようとしている寂しさ、悲しさを歌ったのだ。そして、定家も同じ感慨を抱いていた。





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