見出し画像

Lifestyle|a slice of life〈03.想いを受け継ぐ、受け渡す〉

a slice of lifeでは、ライターがリレー方式でフィンランドの美しい一コマを紹介します。今回のお話は、フィンランド東北地方の小さな村、タイバルコスキに暮らすクーセラ麻衣実さん。親から子へ受け継ぎ・受け渡すことを大切にするフィンランドの文化や子どもたちの教育のベースになっていることについて語っていただきました。

画像5

日本ではこどもの日、母の日、父の日と、5月・6月は家族のイベントが続きますね。フィンランドではこどもの日はありませんが、母の日は日本と同じ5月の第2日曜日に。父の日は秋、11月の第2日曜日に祝います。我が家では4月下旬に鯉のぼりを揚げ、日本の母へ贈り物を送り、母の日は夫の実家へ花束とカードを持って遊びに行ってきました。

画像5

お義母さんは私と似ていて、料理と掃除が苦手、手芸好きが共通点です。今から20年以上も前、初めて彼女を訪れた時にプレゼントしてくれたのが、手編みの靴下でした。お互い言葉が分からず、あまり話ができず仕舞いでしたが、手作りの品がぐっと距離を縮めてくれたのを覚えています。その後、ガータ編みのマフラーから少しずつ編み物を教えてもらい、今では羊を飼育して毛糸を紡ぐまでに。義母は私のハマりようにやや呆れ気味ですが、事のきっかけは、やはりあの時の靴下。一生物の趣味を手から手へと受け継がせてもらえたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。

お義父さんから夫が受け継いだのは、日曜大工、そして車や機械の修理でしょうか。これは我が家のみならず、フィンランドでは、一体業者さんはどうやって成り立っているんだろうと心配になるほど、自分自身の手で修繕修理をします。これについて様々な人に聞いてみたのですが、みな口を揃えて言うのが、フィンランドはほんの少し前まで貧しい国だったということ。サービスを買う余裕などなく、自分たちで何とかしなければならなかった歴史が現在に至っていると、どの世代に聞いても同じ答えが返ってきます。そして皆嬉しそうに、「手仕事の方が楽しいでしょう?」と言葉を付け足します。


画像3

写真は数年前の夏、60年物の我が家のボートに腐食止めのタールを塗っているところ。もちろん、昔ながらの木製手作りボートです。子どもたちはこうやってまた、手仕事を身近に感じて育っていきます。


ご存知の通り、フィンランドは「世界幸福度」、「お母さんに優しい国」、「子育てしやすい国」等のランキングで、例年トップクラスです。夫婦間で家事や育児の分担が平等であることもそうですが、母としてフィンランドで暮らしていて一番楽だと思うのは、子どもが成長する環境の中に、激しい競争や高い目標がないことです。子どもを競わせることが成長には繋がらないという考え方があり、逆に競争で生じる敗北感や苦手意識を植え付けるよりも、ハードルを低くして到達感を経験させ、自己肯定感を養うことがより良い人間の育て方だと考えられています。


画像4

大人でも得意不得意があるのだから、子どもにも苦手があって当たり前。全部できなくていい。できないことを押し付けない。それは未就学児の保育から、成人までずっと続いている基本理念です。相手に気持ちの余裕を与えるということは、自分にも心のゆとりができるということ。寛容性の高いフィンランド社会が形作られる源を、子育てを通して肌で感じています。

スクリーンショット 2021-02-27 12.58.22