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Design&Art|デザインの眺め 〈01.窓が主役になりえる空間〉

アアルト大学でデザインを学ぶため、2年間のフィンランド生活を経験した優さん。帰国後もデザインリサーチャーとして、さらに活躍の場を広げています。「デザインの眺め」では、フィンランドのデザイン・建築についてさまざまな切り口で語っていただきます。今回は「窓」に着目して、フィンランドのおすすめスポットをご紹介いただきました。

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突然ですが、私はジェームズ・タレルの作品が好きです。中でも、金沢21世紀美術館に常設されている、「ブルー・プラネット・スカイ」には特別思い入れがあります。ただ正方形の天窓があるだけ、といってしまえばそれまでなのですが、フレーミングされて切り取られているからこそ、空をより身近に、重量感のある触れられそうなものとして感じられるのです。

今回は、フィンランドにある数々の素晴らしい建築の中でも、“窓が主役になりえる空間”という切り口でセレクトしたお気に入りの場所を紹介します。

エスポー近代美術館

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ヘルシンキ中央駅からメトロで約15分のタピオラ駅にあるエスポー近代美術館。友人が旅行でフィンランドに来る際には、必ずおすすめしていた場所のひとつです。2019年から2020年にかけて日本全国を巡回していたルート・ブリュック展では、こちらの美術館の貯蔵作品が多数展示されていました。夏、一面のガラス窓から差し込む木漏れ日。木々が揺れるのにあわせてゆらゆらと揺れる光と影。冬、雪が降れば降るほどに広がる白の世界。どの季節に訪れても、この大きな窓がまるでひとつのアート作品のようで目を奪われてしまいます。個人的には、オラファー・エリアソンの鏡の作品が窓のそばに常設されていることもこの美術館が大好きな理由です。


フィンランド国立ガラス美術館

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ヘルシンキ中央駅から電車で約1時間のリーヒマキ駅、そこから歩いて約30分(バスも出ていますがお天気がよければ歩くのも気持ちがいい場所です)のところにある国立ガラス美術館。格子状の窓越しに見える緑生い茂る木々たちと、外から入り込んでくる光。この光景だけでもう、はるばる来てよかったなあと本来の目的を忘れそうになります。十分過ぎるくらいに余白を取って配置されたショーケースには、フィンランドの歴代のガラス作品たちが大切に飾られています。ヴィンテージ品に興味がある方は、まずこのガラス美術館を訪れて、好みに合うお気に入りのデザイナーを探してみるのもいいかもしれません。その後のヴィンテージショップ巡りがさらに楽しくなるはずです。


オタニエミ礼拝堂

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ヘルシンキ中央駅からメトロで12分、アアルト大学駅から歩いて20分ほどのところにあるオタニミ礼拝堂。日本を代表する建築家・安藤忠雄が北海道の「水の教会」を設計するとき、こちらのチャペルを参考にしたと言われています。10年前、初めてフィンランドを旅行で訪れたとき、いちばん強く心揺さぶられたのがこの空間に足を踏み入れた瞬間でした。そのときの感動は、日本に戻ってすぐに水の教会に行くための北海道旅行を計画したほどです。2019年にアテネウム美術館で開催されていた展示では、オタニエミ礼拝堂の映像作品のすぐ隣に、水の教会の写真が大きく展示されていました。思い出深い二つの建築物が、海を越えて時を越えて突然目の前に同時に現れて、とても驚いたことを覚えています。


アアルトのサマーハウス(コエ・タロ)

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アルヴァ・アアルトが夏のあいだ過ごしていたサマーハウス、通称コエ・タロ。コエ・タロとは実験住宅の意味で、様々なレンガやタイルのパターン実験が行われました。アアルトの故郷であるユバスキュラの郊外にある、湖上の小さな島に建てられています。当時は、島に渡るための橋や道が整備されておらず、ボートで行き来するしかなく、そのボードもアアルト自身がデザインしています。コエ・タロは森を抜けた湖畔に建つ家です。森に囲まれているので、どの部屋のどの窓をみても、額縁に入った絵が飾られているようでした。自分がデザインしたボートに乗って島を渡り、自分が設計したサマーハウスで夏を過ごす...。素敵ですよね。ちなみに、ボートも近くに保管されており、あわせて見学することができます。


まだまだ紹介しきれないほど、フィンランドには自然と共存する美しい建築がたくさんあります。窓から見える景色によって空間の印象は大きく変わります。今回紹介した場所に何度でも訪れたくなるのは、行くたびに新鮮な気持ちで楽しむことができるからです。もし窓が印象的な空間に出会えたら、季節や天候を変えて再び訪れてみると新たな発見があるかもしれません。

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