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フナ広場のナッツ売りの兄ちゃんへ

マラケシュはモロッコの中でも特に大きな商業都市のひとつ。
今の首都はラバトだけれど、長い歴史の中で山岳と砂漠を目前にしたこの土地に都を構えた王がたくさんいた。

だからマラケシュには色々な時代の立派な建築物が残っていて、活気もすごい。旧市街は特に賑やかで、古い商店がひしめき合い、クラクションや道行く人の声がこだましていた。

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そんなマラケシュ旧市街の中心にあるのがジャマ・エル・フナ広場。

ちょっとびっくりするのが名前の意味で、ジャマ・エル・フナ広場は翻訳すると「死者たちの広場」。大昔は処刑場として使われていたかららしいけど、今のフナ広場からは一切そんな雰囲気を感じられない。

昼間はフルーツジュースの屋台がいくつかあるだけで本当にただの「広場」だけど、16時くらいになるとどこからともなくたくさんの商人たちが湧いてきて、屋台の組み立てを始める。17時くらいから営業し始めて、日が沈むころには毎日お祭り騒ぎだった。

地面に投げ出されたランプやアルガンオイル。その横では大道芸人がいかにもアラビアンなよく分からない楽器を吹き鳴らしながら猿やら蛇やらを見せびらかしている。

食べ物の屋台にはそれぞれ番号が振られていて、何となくブースごとに分かれている。バーベキュー、鍋料理、揚げ物、ジュース、デザート…

実は一番厄介なのがこの食べ物屋台の商人たちで、呼び込みのウザさが新宿や渋谷の比じゃない。

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この広場にあるお店の9割に共通しているのは「まじで違いが分からない」ということ。

ほとんど同じ見た目で、ほとんど同じ品揃えのジューススタンドが横1列に10軒近く並び、(もしかすると味に違いがあるのかもしれないけれど)観光客の私からしたら、まるで細胞分裂した屋台を見させられている気分だった。

雑貨屋に至っては、もう明らかに隣同士の店で全く同じものを売っている。この広場での観光客に対するマーケティングは、完全に買う側の直感に委ねられているみたいだった。


ジュースと同じくらい市場競争が激しいのが、ナッツを売っている屋台。

斜めに積み上げられた色々な種類のナッツの丘の頂上で、屋台の店主が構えている。そしてこの光景が横1列にいくつも並ぶ。

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パッと見じゃ違いなんか一切分からないから、なんとなく目についたお店に近づいてみて、隣のお店も覗いてみるけどやっぱり違いは分からない。

そんな不毛な店選びをしている途中、ひとりの店主に声を掛けられた。

「どこから来たの?」

正直、この質問はモロッコに来てから1日10回は聞かれていて、Japanと答えるたびになかなかウザいセールストークが始まるから若干ウンザリしていた。

だけど予想外に彼の口からカタコトのご機嫌取り用日本語挨拶フレーズとセールストークが漏れることはなかった。

働いてるの?学生なの?何を勉強してるの?

本気で何の他愛もない「世間話」だった。

そしてその兄ちゃんは自分の身の上話もしてくれた。

カサブランカというモロッコ最大の都市で大学に通っていたこと。
そのままカサブランカで就職するつもりだったけど、急にこの屋台を継ぐことなってマラケシュに来たこと。
いつか世界に通用する大きなビジネスをやってみたいから、ここで毎日外国人観光客にナッツを売って英語力を鍛える生活も、別に苦だとは思っていないこと。
心理学に興味があって、何冊も本を読んでいること。



結局私はこの兄ちゃんからナッツを買った。

私がたくさんの似たお店・品物の中からをある一つを選んだ理由は、味でも値段でも栄養素でもなくて、買うという行為に辿り着くまでの「ストーリー」だった。


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大して人に言いふらすような思い出でもないけど、私は今でもたまにあの兄ちゃんとの会話を思い出す。

「僕はまだ国から出たこともないのに、一人でここまで来ている君は本当にすごい。」

彼はそう言ってくれた。

だけど、

大都会の大学を出て、そのままそこで就職する未来を思い描いていたのに急に屋台で働くことになって、それでもいつか夢をかなえるために置かれた環境で毎日頑張っている君の方がよっぽどすごいよ。

きっと私はたまたま恵まれた環境に生きていただけ。
ふつうに生きてるだけだとなかなか気づけないけど、自分と全然違う環境で生きてる人と出会うことで、当たり前だと思ってたことに感謝したり、自分を戒めたりできると思う。


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ナッツ売りの兄ちゃん、今何してますか?外国人はいないだろうけど、地元のお客さんは来ていますか?何とかやっていけていることを祈っています。

パンデミックのせいでどこにも行けなくなって、毎日悶々としていた時にふと君のことを思い出しました。

どうしようもない環境の変化を嘆くより、そこで出来ることを見つけた方が毎日楽しくなるんだよね。

同じようなフレーズは何回か聞いてきたけど、君の言葉が私の人生の中では一番説得力がありました。

君にとっては毎日やってくる観光客の何百、何千分の一の私にたまたま言ったことかもしれないけど、君の言葉が遠く離れた日本で一人の人間を元気づけてくれました。

いつかまたフナ広場に行った時に伝えるね、ありがとう。



ナッツ、買ってよかったなぁ

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「知らないこと」が大好き。好奇心のカタマリ。趣味は海外旅行、映画、ディズニー、人間社会観察 人の話を聞いたり、文章を書いたり、旅行したりします。
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