記者が受けたセクハラ問題

「くノ一」な私たち

残念ながら、私たちマスコミ業界の女性記者は「くノ一」と呼ばれている。取材相手の男性に対して、女性記者をあてがってハニートラップを仕掛け、情報をあの手この手で・・・と世間様は思いがちだが、私たちは防御策を取り、ボーダーを張りながら仕事をしていることを先に伝えておきたい。

女性として生きているだけで、セクハラや性暴力の危険に幾度となくさらされてきた。特に、この1年間はセクハラに対してまひしていた自分でさえも、許容できないハラスメントが多く、結果的に心身のバランスを崩してしまった。

セクハラに対して「まひしている」と言ったが、私の経験を話す前にこの事案を思い出してほしい。

数年前、財務省の事務次官がテレビ局の女性記者に対してセクハラをしたことが問題となった。

この時も「女性の性を利用して情報を引き出そうとしたのに何を今更」「単独で取材に来ているのだから、そういうこと(セクハラ)をされても当然」「嫌だったんなら、正々堂々と名乗り出ればいい」と、当該の女性記者に容赦ないバッシングが浴びせられた。

結局、この事務次官は更迭されたが、それでも麻生副総理は「だったら、記者を全員男に代えればいい」とか「発言が嫌ならその場から立ち去れば良かったんだ」「触ってないならセクハラではない」という認識を公の場で示した。

開いた口がふさがらないとはこの事だ。だが、私たち女性記者は、「男性社会」のマスコミ業界で仕事をし、行政機関や警察など「男性社会」で生きる男性たちを相手に取材活動をしている。

必然的に、セクハラを受ける場面が多くなっており、なんなら、この事務次官の発言はかわいいもんだなとも思った。一般の社会人と比べて、セクハラに対する感覚がまひしていたと思う。

それから、ぶっちゃけ麻生副総理の発言は、この世の男の7割の考えだと思う。(いや、8割、9割かも?「痴漢に遭うのは触られたそうな服装をしていたから」「部屋で2人きりになれば、それはオッケーのサインだろ」。セクハラや性暴力の話題になると、常に女性側に責任が求められるのはなぜだろう。世界的にMetoo運動が起こり、著名人から一般人までがセクハラや性暴力を告発しても世の中の考えは変わっていないように思う)


今まで男性から受けたセクハラを思い返してみる

■忘年会パーティーに出席した際、地域の有力者に「安産型でいいね」とお尻を触られた。一緒にいた男性の大学教授は何も言わずに見て見ぬふりをした。

■飲み会の2次会で、とある企業の取締役と隣同士になり、耳元で「あなたのアソコは白アワビ?黒アワビ?どっちに近い?」と言われた。

■警察官と食事をした際、「この後、どうする?ホテル行く?」と言われた。(この時は男性を含む3人で食事をし、別れ際に2人になった)

いま思い出しても、身の毛がよだつ。だが、自分の中で取材相手だから付き合わないと仕方ないという思いがあった。ただ、上の3人は気持ち悪すぎて、その後は自分から距離を取った。でも、発言の際には「やめてください」とは言えず、「やだ~」と流すだけだった。

今でも、相手にNOと強く言えない。だから、セクハラを受けた自分がダメだと思い込み、うつになった。

うつになった決定打のセクハラ

サツ担をしている時、ハイヤーに乗っていた。その運転手(Zさん)からあらゆるセクハラ発言を受けた。

「女性は服の上からでもカップ数が分かる。あなたはCカップくらいやね」

「最近、太りましたよね?5キロくらい太ったんとちゃいますか」

「(休み明けに)旦那さんと仲良ししましたか」

など。その運転手は若い時から腕っ節が強いのが自慢で、「今日は借金取り返しましたわ」「変な客が乗って来たから、どやしたったんですわ」っていう内容を大声で話す、いわゆる関西の底辺男の「俺、怒らすと怖いんやで。いてまうぞ」感を常に出していた。

たまたま会っただけの人なら「痛いおっさんやなー」で終わるのだが、ハイヤーの中では2人きりの逃げられない時間を過ごすことになる。結構、怖かった。前にその運転手にお世話になった先輩から「怒らすとややこしい」と聞いていたので、何を言われても「そんなことないですよ~」「やだ~」と流していた。

狭い車内の中で怒号を聞くと、それが自分に向けられた悪意でなくても安心できなくなる。思い返すと、狭い車内での間接的な暴力だったのだなと思う。

だが、自律神経失調の症状が進み、眠られなくなったヘロヘロな状態の時、「今日はえらい早く仕事終わるんですね」「前の●●記者はもっと仕事してましたよ」などパワハラを受けて心理的に追い込まれた。

夜寝る時も、「明日は4時半に起きないといけない」「ああ、もう少しで運転手さんと約束した時間になってしまう」「起きないと怒って電話がかかってくる」とプレッシャーのあまり寝られない状態になった。不眠になった原因はここにあると思う。

あまりにも精神衛生上良くないので、上司に報告した。

最初は「あの人はそういう人だから~」と流していたが、「やっぱり無理です」と何度か訴えると、代えてもらえることになった。

今でも街中で黒塗りのハイヤーを見たり、車番と似たような番号を見たりすると動悸がする。

うつになった決定打のセクハラは、先輩の男性記者から、「サツ担を外されたのは警察官との不倫がバレたからか?」と冗談めいたセクハラ発言をされたことだった。

こればかりは、自分の精神状態が不安定だったために、「私は周りから見ると、ハニートラップを仕掛ける女だと思われているのか」「そうだとしたら、どんな行動がそう思わせたのだろう」と悩みに悩むことになった。

性暴力にも遭いやすい環境だった

体調不良に拍車を掛けたセクハラはまだある。朝掛け夜討ちといって、駅や住宅街で取材対象者を待ち、直に接する場面が多々あったのだが、その道中でよく性暴力の危険にさらされた。

■駅の改札口で声を掛けられ絡まれる。精神的に不安定そうな人に粘着しつに質問され、結構怖かった。「誰を待ってるんですか」「ずっといますよね」「誰を待ってるんですか」。あなた警備員さんかなんかですかレベル。途中から場所を動いても追いかけてくる。怖いので退散した。

■早朝(6時前)に道路で対象者を待っていると、自転車に乗ったおじさんから「お姉ちゃん、お●んこしよや」。

■駅前で対象者を待っていたら、男の人にスマホで写真を撮られた。気付いていないふりをしたら、横に立って胸元の動画を撮ってこようとしたので、逃げた。ちょっとおかしい人だったかもしれない。

■深夜1時すぎの飲み会の帰り道、酔ったおじさんに絡まれ、「もう帰るんで」と立ち去ると、後ろから追いかけて来た。暗がりになった場所で、お尻をつかまれたので、泣いて家に逃げ帰った。

1番最後のは私も悪いね。でも、知らない誰かにお尻をつかまれても、自分が悪いと思ってしまうこと自体が問題なんだと思う。

私自身、セクハラや性暴力に対してまひした感覚だったけど、今回、休職するほど精神的に追い込まれるようになって、心の底からセクハラ問題に嫌気がさした。いかに男尊女卑の日本社会においてこの問題が根強いものか、男性自身の意識改革が進んでいないかを実感させられた。

でも、これからはセクハラにNOと言う。言えずに、受け流す性格だったけど、これからは「やめて」「嫌です」と言えるようになりたい。

男性には、あなたたちには想像もつかないくらい、この世の中を生きる女の人は性暴力に遭いやすい環境に置かれていると認識してほしい。あんたたち男が冗談の感覚でいう下ネタが、人を心底不快にさせるということも知ってほしい。

一方で、性的興奮を抑えられない、アンガ-コントロールができないといった人は深刻な心理的な問題を抱えていると思う。治療を受ける認識も進んでほしい。

セクハラに思い悩んでいる人へ。

女性も男性も性を問わず、自分の性をないがしろにされる発言や行動を相手から受けたら、それはセクハラだよ。でも、セクハラをされたあなたは何も悪いことしてない。私は「嫌だ」っていう勇気はなかったけど、信頼できる周りの人に訴え続けたら、少し状況が変わったよ。言われて、されて嫌な思いをしたら、我慢しなくていいと思う。私もあなたも、嫌だって言えるようになったらいいね。なろうね。

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