見出し画像

緋色のサージ 13

5 満天の星     
 

 サージは、海の上の城の大理石の階段を一番下まで降りて座り、海を見ながら休みました。
 心地好い音楽のように、藍色の波が夜の海の静けさを奏でていました。一日の終わりを告げる空の紫色のカーテンが揺らめくと、サージは体から水蒸気が小波の方へ突如抜け出たように感じました。すると小波の光の粒がひとつ、サージの隣へ弾けました。海洋の塩水による働きを司る神様にお仕えしている海の精のひとりが、サージの横に座ったのでした。
「王妃様のことを考えてるの?」
 サージはとても驚きました。「どうして空気の精の私のことがわかるの?」
「私はあなたが白い砂地に降り立った時から一緒にいるのよ。飛び立った時、波の飛沫(しぶき)を感じたでしょう? 私達は浄化の働きの神様のお手伝いをさせていただく仲間よ」
「えっ? ずっといっしょにいたの?」サージはうろたえました。
「いたような、いないような感じね」
「どういうこと?」サージにはわけがわかりませんでした。
「私達は四姉妹のような関係なの。あとふたりは、川の働きを司る神様にお仕えしている川の精、雷や地震の働きを司る神様にお仕えしている摩(さすり)の精がそうよ」
「私、人魚から空気の精になったけど、今いる新しい生涯の世界のことは知らないことばかりなの」
「最初からなんでも知ってるなんてことはないから、気にしなくていいわよ」
「あなたがずっといっしょにいたなんて、ちょっと恥ずかしくなったの」
「空気には水蒸気が含まれているでしょう? だから海の精の私とは常に連絡が取れている、っていう感じで、私が四六時中あなたを監視しているってことじゃないから誤解しないでね。浄化の働きの神様にお仕えしている私達は、連携出来ていて、川の精も摩の精もあなたの気持ち次第ですぐに来てくれるわよ」
(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?