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Stay Bullish:エド・ヤルデニ氏の強気相場

 2024年8月8日(木)に収録された強気派で知られるエコノミスト、エド・ヤルデニ氏のBarron'sのインタビュー(参考訳)です。
 タイミングとしては、8/5(月)の市場が混乱した後のインタビューということで、少々時間が経過してしまっていますが、彼の長期視点や不変のルールなど、当方としては興味深く拝聴させてもらいました。
 語られている内容は、以下のような内容です。ご興味次第で参照下さい。

  • 市場が動揺した前回の雇用統計と次回のデータについて

  • 円安が投機筋にもたらした絶好の機会とキャリートレード

  • S&P493への資金流入と市場の拡がり

  • 今後10年は、生産性主導の経済成長に期待

  • 2029年までにS&P500は8,000、ダウは60,000に到達

  • 長期的に背負うリスクは、財政赤字と債務危機の可能性

  • 本当の危機が訪れないと政治家は赤字削減計画を立てない

  • 長期的視点で投資し、ポートフォリオ分散を検討せよ




(1)インタビュー

[Jack Hough]
 
今回の雇用統計は弱い結果で、景気後退を心配する声も出ていますが、エドさんのレポートを拝見したところ、他の方々ほど心配されていないようですね。雇用統計の結果をどう見ていて、なぜそれほど心配していないのか教えてください。

[Ed Yardeni]
 天候が悪かったため、150万人以上の労働者が影響を受けました。ただし、これらの人々が失業者としてカウントされたわけではありません。仕事に行けなかったとしても、名簿上には残っているため、雇用者数としてはカウントされています。
 しかし、確かにその影響で労働時間は減少しました。この減少は次の報告で回復する可能性が高いのです。集計された労働時間というのは、何人が働いていて、どれくらいの時間働いているかの指標です。7月はこれが減少しましたが、8月にはおそらく新たな最高値に戻るでしょう。
 他の労働市場の指標として、失業保険申請件数がありますが、これに注目する人も多いですね。過去数週間のデータを見ると、申請件数の増加は主にテキサス州に集中しており、ちょうどその時期にハリケーンが直撃していました。ですから、これも天候のせいだと考えています。
 ちなみに、雇用自体が減少したわけではありません。雇用者数は11万4,000人増加しています。過去3カ月の平均は17万人でした。データは修正されることがあるので、3カ月平均を見る方がいいでしょう。この平均値は、パンデミック前の2018年から2019年に見られた水準に戻っています。
 私たちは、労働市場が弱まっているのではなく、正常化していると主張しています。過去数年間は異常な状態でしたが、今は正常に戻りつつあります。
 ちなみに、先週の水曜日(7/31)にパウエル議長が経済見通しを話した際に、「正常化(normalizing)」という言葉を12回も使っていました。私たちは早々とこの見解を持っていましたが、彼も私たちと同じ見解を持っているようです。

[Jack Hough]
 おっしゃる通り、雇用統計は決して壊滅的なものではありませんでしたね。

[Ed Yardeni]
 ええ、全然違いましたね。

[Jack Hough]
 しかし、確かに雇用統計自体は悪くなかったものの、投資家の反応はかなり激しいものでした。では、他の要因についてもお話ししましょう。
 日本やキャリートレードの巻き戻しについて触れていましたね。通常、キャリートレードと聞くと、通貨や債券に関係するものだと考えますが、株式にも影響があるかもしれないとおっしゃっていましたね。

[Ed Yardeni]
 そうです、まったくその通りです。過去数年間で、キャリートレーダーや投機家が増えてきました。彼らは、日本でほぼゼロ金利で円を借りる絶好の機会を見つけたのです。大量の円を借り入れ、その一部を日経平均や日本の株式市場に投資しました。ゼロ金利でお金を借りる、つまり無料でお金を手に入れて、それを日経平均に投資する。すると、モメンタムトレーダーたちは株価が上がっていくのを見て、さらに円を借りてドルやメキシコペソ、ブラジルレアルに変え、そのお金を他の投機的な市場に投資しました。おそらく、かなりの割合がマグニフィセント・セブンやナスダック100に流れたのではないでしょうか。
 つまり、無利子でお金を借りて、上昇トレンドにあるモメンタム取引に投入することで、大きな利益を得ることができたわけです。そして当然、彼らが円をドルや他の通貨に変換するにつれて、円は非常に弱くなっていきました。これが彼らにとっては「二重の利益」となり、まさにホームランのようなものでした。モメンタム取引で利益を得るだけでなく、円が下落していたので、借金を返済する際に、より少ないドルや他の通貨で済ますことができたのです。
 そして、突然のことでしたが、7月末頃から、日本の財務省と日本銀行が円の急落に対して非常に神経質になっていることが明らかになり、行動に出ることになりました。
 日本の財務省と日本銀行は、金融政策を引き締める方向で動くという姿勢を見せ、強硬な発言をしました。その結果、円が反発し始め、円が強くなると、キャリートレーダーに一気に不安が走りました。彼らは基本的に円を売っていたのですが、円が思い通りに動かなくなり、これまでの取引で得た利益を失う可能性が出てきました。
 そして、この状況が悪循環を生むことになりました。円を売っていた彼らが、円が強くなっていくのと同時に、「この取引はもう面白くない」と考え始め、マグニフィセント・セブンやナスダック100、メキシコペソなどのポジションを手放そうと決断し、取引が完全に崩壊してしまったのです。

[Jack Hough]
 「マグニフィセント・セブン」の話が出ましたが、キャリートレードのような高度な投資家ではなく、ただS&P 500ファンドに給料の一部を投資してきた多くの普通の投資家がいます。
 彼らはとてもうまく成功を収めて、その結果を牽引していたのは巨大テック企業だと考えています。そして、皆が思っていることですが、「これって速すぎるんじゃないか?」、「株価が高すぎるんじゃないか?」という疑問が生まれています。それから、アルファベット(Google)に対する独占禁止法の判決のような、周辺のニュースも気になりますよね。
 この「マグニフィセント・セブン」のような株式をあなたはどう評価していますか?心配する理由はありますか?現在の評価額に見合うと感じますか?

[Ed Yardeni]
 そうですね、株価がまっすぐ上がり続け、特定のストーリーにますます多くの人が興奮しているのを見ると、私はいつも少し不安になります。実際、今回の調整があったことや、これからしばらく株価が停滞するかもしれないことは、良いことだと思っています。企業の業績が株価に追いつく時間を与え、人々がこれらの企業が何をしているのか、そしてどのようなリスクがあるのかについて、より現実的な見方を持つようになるのは重要です。
 ちなみに、先週の金曜日、司法省がNVIDIAを独占禁止法に触れる独占価格の疑いで調査していると発表しました。これも市場に影響を与えましたね。NVIDIAは非常に多くの人々が保有している株で、AIブームの中心的な存在ですから。しかし、人々が「ちょっと待って、これらの企業はAIにこれだけの資金を投じているけれど、実際に利益はどこにあるのか?この投資からどんなリターンが得られるのか?」と考えるようになることは、健全なことだと思います。
 実際、GoogleやMetaのような企業も、業績発表の際に、多額の投資をせざるを得なかったと認めています。そして、もし可能なら、さらに多くの資金を投じるだろうと言っています。しかし、一方で、その投資からどのようなリターンが得られるのか、そしてそれがいつ見えるのかについては、あまり分かっていないようです。だからこそ、人々がこの点について少し現実的になりつつあるのは、良いことだと思います。確かに、半導体需要は世界的に依然として非常に強いですし、ハイテク革命も依然として進行中です。とはいえ、市場は一部のハイテク株に対して少し先走り過ぎたかもしれませんね。
 私は、市場がもう少し広がるのを見たいと思っていましたし、実際にそうなりつつありました。たとえば、良好な業績を報告している「S&P493」の企業にも資金が流れていくようになればいいですね。

[Jack Hough]
 これから1年、あるいは数年間で、米国経済がどのような道をたどるとお考えですか? また、投資家が今後、何か違った視点で考えるべきことがあるでしょうか?

[Ed Yardeni]
 まあ、私は楽観主義者なので、その視点からお答えしますね。
 ここしばらくはずっと楽観的に見ています。この10年の初めに、2020年代が1920年代とリズムが似ていることに気づきました。そして、「でも1920年代は悪い結末を迎えたよね」と言われることもあります。まあ、それについては、この10年の終わりに考えればいいと思いますが、今はまだ先の話ですからね。

[Jack Hough]
 そうですね、2029年までは時間がありますから。

[Ed Yardeni]
 そうです。大恐慌や大暴落を引き起こした原因は、市場やバブルの崩壊ではなく、1930年6月のスムート・ホーリー法が引き金だったんです。もちろん、政府が過去に何度も失敗してきたように、今回も大きな混乱を引き起こす可能性があることは否定しません。それは確かに注意すべき点です。
 ただ、ジャーナリズム、特に金融ジャーナリズムに敬意を表しつつも、見出しが財政政策や金融政策、ジャネット・イエレンやパウエル議長などのワシントンのことばかりに集中しすぎて、経済そのもの、つまり私たちのように毎日仕事に取り組んでいる人々に十分な注意が払われていないと思います。
 多くの場合、ワシントンの政策が私たちの邪魔をしていることを認識しつつも、私たちはそれを乗り越えて、記録的な実質GDPや世帯あたりの消費を達成しています。経済はトレンドベースで非常に順調に推移しています。
 雇用成長が鈍化している理由の一つとして、労働者が足りないことが挙げられます。企業は、現在の労働者の生産性を向上させるために、ますます技術を活用しています。昨年の米国経済の生産性指標は非常に良好でした。第2四半期の数字も非常に良好で、前年比で2.7%の伸びを示しています。これは歴史的に見ても非常に強い数字です。通常、平均は約2%ですので、今後の10年間は生産性主導の経済成長が期待できると思います。まさに「2020年代の繁栄」が続くでしょう。
 生産性は、魔法のようなもので、すべてを良くします。生産性の向上は、実質GDPの成長を加速させ、単位労働コストを削減します。この単位労働コストこそがインフレの決定要因であり、第2四半期の単位労働コストは前年比でわずか0.5%の上昇にとどまりました。これにより、インフレ率が近いうちに2%に達する見込みが高まります。
 中央銀行が「どうしてインフレ率が2%に戻らないんだ」と悩むかもしれませんが、これはまた別のポッドキャストでお話ししましょう。でも、現状はかなり良さそうです。
 企業の利益は今後も成長すると思います。今年のS&P 500の1株あたりの利益を250ドル、2029年には400ドルと見ています。ですから、私のシナリオでは、2029年の大暴落の原因は経済の基盤ではなく、財政政策や金融政策の失敗によるものになるでしょう。
 そのような問題がなければ、S&P 500は今の5,200から—数週間前、あるいは数日前には5,600近くまで上がっていましたが—この10年の終わりまでに8,000に達すると見ています。ダウ平均も30,000から40,000の範囲から、60,000まで上昇するでしょう。
 現時点では、景気後退は見えていません。私は、経済全体に広がる不況ではなく、部分的な不況が起こる「ローリング・リセッション」の可能性を話してきましたが、経済と消費者の強靭性は依然として健在だと思います。

[Jack Hough]
 それは次の質問にぴったりの前置きですね。
 財政政策と「魔法の粉」についてですが、国家債務の問題を解決するには、少し魔法の呪文でも必要かもしれません。この問題について予測する際、連邦政府の債務に関して良い結果に至る道筋はあるのでしょうか?

[Ed Yardeni]
 確かに、これまでの会話でもわかるように、私は楽観主義者の傾向があります。「救いようのない楽観主義者」と言われることもありますが、それはむしろ褒め言葉だと受け取っています。私の墓石には「ヤルデニはいつも強気で、いつも正しかった」と刻まれてほしいですね。

[Jack Hough]
 適切な遺言や信託、指示があれば、それを手配することは可能だと思いますよ。

[Ed Yardeni]
 そうですね。私は楽観主義者ですが、今回の財政赤字については、美化することはできないと思います。財政赤字は確かに厄介な問題で、ワシントンにはそれに対処しようとする意志が全く見られません。解決は簡単なはずなんです。支出を削減して税金を増やせばいいだけです。簡単に聞こえますが、現在の政治状況ではそれは不可能に近く、誰も真剣に議論していません。
 とはいえ、私の楽観的な予測の中にも、いつかどこかで債務危機が起こる可能性があると思っています。これが6カ月ほど続き、株式市場や債券市場を震撼させるかもしれません。その結果、金利が突然5%以上に戻り、状況が非常に深刻になれば、信じられないかもしれませんが、政治家たちが実際に赤字削減のための信頼できる計画を立てるかもしれません。当然、即座にそれを実行することは難しいでしょう。なぜなら、それは経済への債務危機の悪影響をさらに悪化させる可能性があるからです。しかし、支出の成長ペースを抑え、収入を増やすための10年間の計画を策定することは可能でしょう。それが信頼できるものであれば、少なくとも前進する可能性があります。

[Jack Hough]
 それでは、まとめてみましょう。現状で投資家が何か違う行動を取るべきかどうか、ご意見をいただけますか?
 この数年間、多くの投資家が「分散投資なんて必要なのか?NVIDIAに投資すれば株価は上がり続けるし、債券はパッとしない」といった不満を漏らしていたように感じます。しかし、ここ数日の市場の動きで、少しは分散投資をしていて良かったと感じたのではないでしょうか。

[Ed Yardeni]
 この2年間、彼らに耳を傾けていればよかったと思います。

[Jack Hough]
 今の状況で、資産クラスに関して何か違ったアプローチを取るべきでしょうか?
 今おっしゃったことを気にしている人、特にもう後戻りできないと感じている人も、連邦政府の赤字や将来的な債務危機の可能性に不安を感じているかもしれません。そういった状況を踏まえて、投資家は資産配分について今何か違うことを考えるべきでしょうか?

[Ed Yardeni]
 私は、ウォーレン・バフェット氏やマーティ・シーゲル教授と同じ立場で、株式は長期的に見て投資すべきだとよく言っています。ただ、バフェット氏が今、自身のファンドでこれまでにないほど多くの現金を保有していることも認めなければなりません。彼は、ここ最近の売りに備えて多くを売却しましたが、常に新たな機会を探しています。彼は、このような市場の売りに振り回されることなく、お金を投じる場所を探し続けています。今は、比較的安心して財務省証券に投資し、そこそこのリターンを得ていますが、長期的には、よく運営され、時間とともに価値が上がる安い企業を買う方が賢明だとわかっています。
 私も、その基本的な考え方に賛同します。こうした市場の動きにあまり振り回されず、売買を繰り返すのではなく、長期的な視点を持つべきです。もし7月16日の市場最高値の時点で市場から撤退するほどの天才であったとしても、その後の底を見極められるでしょうか?もし月曜日が底だったとしたら、そこから再び投資する勇気があるでしょうか?最高値だけでなく、底値も見極める必要があります。
 2022年でも、非常に悲観的だった一部の天才たちは、2022年10月に再び市場に戻るべきだということを私たちに伝え忘れました。
 ですから、「マグニフィセント・セブン」銘柄だけにすべてを投じるのではなく、やはり分散投資が重要です。ただし、中型株や小型株、さらにはグローバルな投資が最近はうまくいかず、イライラすることもあるでしょう。インドに多く投資し、中国からは距離を置くべきだったことを理解していなければなりません。簡単ではありませんが、ここでパニックになる必要はないと思います。ポートフォリオを維持し続けることが大切です。

[Jack Hough]
 ありがとうございました。
 そして、最後にご視聴いただいた皆さんにも心から感謝申し上げます。
エドのニュースレター「Yardeni QuickTakes」にもぜひご登録ください。



(2)オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Barron's Podcast より
(Original Published date : 2024/08/08 EST)

[出演]
  Yardeni Research : エド・ヤルデニ(Ed Yardeni)
  Barron's : ジャック・ハフ(Jack Hough)


以上です。


御礼

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
役に立ちましたら、スキ、フォロー頂けると大変喜び、モチベーションにもつながりますので、是非よろしくお願いいたします。 
だうじょん


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