見出し画像

何でも言い合えるオープンな関係性づくりが、仕事で成果を出すための第一歩【Academy受講者インタビューvol.2】

株式会社Laere(レア)では、自分の想いを出発点に他者とビジョンを描き、未来を共創できるリーダーを育成する学びの場として「Laere Academy」を開催しています。本記事では、2017年10月〜12月にLaere Academy「北欧流クリエイティブファシリテーション&リーダーシップコース」を受講いただいた星秀雄 様に、コース受講までの経緯や受講後に自組織で起きた変化について、お話をうかがいました。

星さんは当時、大手商社から出資先の関係会社に出向しており、経営面での課題解決に北欧流のデザイン思考が大いに役立ったとのこと。どのような学びがあったのでしょうか。

デザイン思考をフックに、企業の課題解決を図る

━━ 星さんがクリエイティブファシリテーション&リーダーシップコースへご参加いただくまでの経緯を教えてください。

星さん :2017年当時、出向先のベンチャー企業で新規事業部門を立ち上げ、部長を務めていました。一般的な出向者としては新規事業だけを見ていれば楽しかったのですが、会社全体に対しては危機感を持っていたんですよね。上場から2、3年経って会社の雰囲気が緩んでいて、その影響か退職率も25%に上っていました。

画像1

星秀雄 様

また、業績も毎年伸びてはいたものの、出向元に期待されていた業績には及びませんでした。ぼくとしては、投資した株主、投資を引き受けた会社の経営陣、従業員の全ステークホルダーが同じ方向を向いていて欲しかったのですが、当時はみんなバラバラの方向を見ているような違和感があった。

出向者として、とにかく「なんとかしなきゃいけない」という一心で、本を読んだり人と会ったりする中で、デザイン思考という言葉に出会いました。お客さま視点で、作る方も売る方も熱狂してプロダクトに携わる考え方が気に入り、何かのヒントになるのではと感じました。

━━ デザイン思考への興味から、どのようにレアにたどり着いたのですか。

星さん :デザイン思考を掲げている会社をリストアップした中に、レアがありました。しかも、個人的に好きな国で、デザインランプも買ったりした北欧のデンマークと深い関連があるらしい。興味を引かれ、「とりあえず行ってみよう」と、部下と一緒にいきなり飛び込みで訪問し、コースを紹介してもらって即申し込みました。

デザイン思考を用いてコンサルしてくれる会社は多いけど、その思考方法を教えてくれる会社は珍しいですよね。自腹はちょっと痛かったですが(笑)、ぼく自身がデザイン思考を身につけて会社に還元できれば、自分自身のスキルセット向上も期待出来て一石二鳥だと思ったんです。

「オープンな関係性づくり」がアイデア発想のはじまり

━━ コースを受講されて、どのような印象を持ちましたか。

星さん :コースを受ける前は、デザイン思考って技巧的なものとのイメージがありました。つまり何らかの「技」があって、それを学ぶものだと。もちろんコースの中ではデザイン思考の技術やツールもいろいろ教えてもらいましたが、ぼくにとって一番の学びはもっと本質的な部分でした。つまり、一番重要なのは自分の心をオープンにして、協働する人たちとフランクに議論できるマインドセットづくりや、メンバー全員がそうなるための環境づくりだ、と。デザイン思考の手前にある考えかもしれませんが、新規事業のみならずどんな類の仕事でも通用する考え方・心構えだと思います。

━━ 心がオープンになるとは、具体的にどのような状態でしょう。

星さん :受講していた頃のことを思い出すと、あったかい感じがします。なんだか、ほわーっとしていて……。それこそ、ヒュッゲでしたね。(ヒュッゲとはデンマーク語で居心地のよい空間や楽しい時間のことを指す)

ヒュッゲ的な環境で、お互いの意見を否定せずに自由に心を解き放つと、皆がお互いの意見に触発されて「それ、おもしろいじゃん!」と言い合えるアイデアがどんどん拡散されていきました。レアのコースのなかでは、どのようにしてヒュッゲ的な空間をつくり、みんなの心をオープンにするか、様々な仕掛けが意図的に随所に散りばめられていました。

画像2

コースではコンセプチュアルな面に加えて、先に述べた通り、技術的な要素も教えて頂きました。例えばグラフィックレコーディングには衝撃を受けました。一般的な会議では、ホワイトボードに箇条書きで意見をまとめていくのが普通ですが、イラストを用いて議論を可視化すると、よりお互いのイメージが明確になるし、そこから新しい議論が生まれたり、認識の違いが浮き彫りになります。議論を自由に拡散しつつも、散らかり過ぎないようにする意味で非常に有効なツールでした。

━━ コース参加者との関係性について、印象に残っていることはありますか。

星さん :ぼくが受講した時は、広告代理店の人からフリーランスのブランドデザイナー、企業の人事担当、大学の准教授、保育園の先生まで、本当に多種多様な人たちが参加していました。ファシリテーターである大本綾さんのタクトに従って、話し合ったり体操(?)をしたり絵をかいたり、これが何の役に立つのかな?と思うことを、普段まったく異なる環境にいる人たちと一緒にやっていると、お互いに心がオープンになって、フラットな関係性を維持しつつも、ひとつのゴールに向かって成果が形作られていくんですよね。レアで学ぶプロセスの一つひとつが非常に新鮮で、目を開かれるようでした。

画像3

よく「なぜGoogleは強いのか」といった記事がありますよね。それまでは、本やウェブでいろいろな手法が紹介されていたものの、結局は高いギャラで優秀な人を雇っているだけでしょう?と思っていました。でも、このコースを受けてその考えが変わりました。どのようなバックグラウンドの人たちであれ、オープンな心で創造的な議論を行うための仕掛けがあるかどうかで、企業の在り姿、企業の成長にポジティブな変化を起こすことができる。

Googleなど西海岸のIT企業が急成長できた背景には、形こそ違え、そうした意図的な仕掛けがあったからだと、レアのコースを通じて理解したように思います。

━━ 異なるバックグラウンドを持っていても、創造的な議論ができる。この確信はどのように生まれたのですか。

星さん : 当時は対面のコースで、お昼ごはんを一緒に食べることも含めて参加者同士で親交を深められたので、対話を通じてその人のキャラクターや強み・弱みなどが分かる。全く異なる職種、年齢層のメンバーであってもそうした相互理解というか、お互いへの尊敬の念をもって臨むことで、実際に建設的な議論に繋がっていきました。

画像4

またファシリテーターの綾さんが、全員の共通体験を語れる場をうまくセッティングしてくれたことも大きかったです。誰がどんな話をしても前向きな「傾聴」を崩さないし、無駄と切り捨てられてしまう類の提案さえも見事に活かして斬新な方向性に変えてしまう。

話は逸れますが、綾さんは常に気持ちのいい空気をまとった方で、圧倒的な安心感、安定感を伴うリーダーシップを発揮されていました。こんなにもっと話したい、もっといろいろと教えて欲しいと強く思える人は珍しいし、コースが終わった後も、何かと勝手に押しかけては相談させていただいています(笑)。

デザイン思考に関して持っている引き出しの数が多く、常にデンマークを中心とする様々な企業やサービスなどの実例に基づいて説明してくれるのも説得力がありました。ちなみに初めてSDGsについて包括的に教えてもらったのも綾さんからで、確かデンマークのロラン島(自然エネルギー100%の島)に関するストーリーでした。

会議室の空気を和ませ、オープンな関係性づくりに挑戦

━━ コースでの学びや体験のなかで、会社で活用いただいたことはありますか。

星さん :コース開始直後に、経営企画担当の執行役員ポジションに就任させて頂きました。出向先の全社的な業績に対する責任、課題意識が一層強くなった頃でした。

最初のコース受講後、当然ながら(笑)強くインスパイアされ、なにかをやりたいという気持ちが高まって、何からやろうかなと思った時に、経営会議を早速「ヒュッゲ」的にしてしまおうと思いつきました。会議室にスタバのコーヒーポットを持ち込み、おしゃれなコーヒーカップも用意してBGMも流しちゃったりして(笑) 。経営会議のメンバーにコースでの学びを共有するなどしながら、オープンマインドで議論できる関係性作りに腐心しました。

同じタイミングで経営会議の進め方も会議で静かに議事を進めるスタイルから、社長、取締役、執行役員6〜7人で、ざっくばらんに議論する「ワイガヤ形式」で進めることにしました。最初は互いに遠慮もあったのですが、そのうち「これって本当にお客様にとっていいことなんだっけ?」「これって本当にやる価値があるんだっけ?」みたいな、本質に立ち返った議論がバンバン出るようになりました。

画像5

経営陣もだんだんリラックスしてきて、レアで学んでいた、あのヒュッゲ的な感じに近づいてくると、自分にとっては毎週の経営会議が楽しみになりました。お互いを信じ合っているから、「経営会議に議題を出せば、絶対にいいアイデアが出る」という確信も生まれてきた。この変化はすごく大きかったですね。

━━ ヒュッゲは、ある意味でサバイバル術だと考えています。デンマークの長い冬を乗りきるため、正気を保つために生まれた知恵は、競争主義のビジネスで生き残るためにも活用できるのかもしれないですね。経営陣で連携が強まったことで、他に影響がありましたか。

星さん : 経営陣の仲がよくなればなるほど、部署間の問題をすぐに解決できるようになりました。経営陣がしっかりコミュニケーションを取れていれば、優先順位を決めて解決できるんですよね。お互いにオープンな関係を築けていればコミュニケーション齟齬によるストレスは減りますし、組織の強みになると思います。

組織の変化は如実に数字に現れました。2018年頭には退職率が5%くらいまで下がり、さらには約2年間減り続けていたお客さまの数がV字回復。もちろん、さまざまな要因が重なった結果ですが、ぼく個人から見ると、経営会議のスタイルを変えたことが全てのはじまりでした。経営陣みんなが社内の問題を率直に見つめて、解決方法を忌憚なく話せる。このような本音のコミュニケーションが肝でした。

本音のコミュニケーションは大胆なビジネス戦略に結びつく

━━ 経営陣のコミュニケーションスタイルの変化により、気持ちのいいくらいの変化がありましたね。

星さん : 2018年のはじめには、経営陣だけでなく全社員でも同じようなことをやってみようと、全社ミーティングを実行しました。経営陣一人ひとりが中期経営計画を全社に語りかけた後で、社員6〜7人が一組になって、今の会社に必要なことをじっくり話してもらいます。この議論を通じて、会社の在り姿について自分事として腹落ちしてもらい、みんなの力でやりきろうと。それまで社員からは「計画は上から降ってくるもの」でしたが、全社ミーティングを通じて自分で考え、行動する社員が増えたと感じました。

一方でぼくの立場で言えば、親会社目線で見た時には出資決定時に作った事業計画には届かず、株価も低迷していて。成長中のIT企業だし、普通に考えれば株価は上がるはずなんです。理由を考えると、世の中で会社の認知度がまだまだ低いのではないかと思いました。株価は会社の大事な通信簿だし、会社の価値が下がれば他の会社に買われてしまうリスクもある。

本当は株主からの出向者としては言い辛いことではありますが、出向先の経営陣との信頼関係があったので、「投資元として、また経営陣の一人としても、企業価値の向上に一段と注力したい」と正直に伝え、向かうべき方向を明確にしました。

画像6

企業価値を高める、つまり世の中にいい会社だと認識してもらうためには、いい取組をし、IRにもしっかり取り組む必要があります。これまで困難と思っていた会社への営業や海外企業とのアライアンス、大規模なM&Aなど、身の丈を超えたチャレンジに皆一丸となって取り組みました。

━━ 目標へのギャップが大きいと士気を失いやすいですが、より組織の団結力が強まったのは素晴らしいですね。

星さん : その頃には、自分が株主である企業からの出向者という意識はほとんどありませんでした。どうすれば出向先のみんなが生き生きと働けるか、どうしたら世の中にこの会社が必要なのだと思ってもらえるか、この2点に集中していました。

会社は利益を出し続けなければいけません。売上を伸ばすだけでなく、コストを抑えるため事業を畳む場合もあります。せっかく始めた何かを辞めるには辛い決断も必要でしたが、経営陣で本音で話し合いながらなんとか利益を出すことができて。その年には嬉しいことに、過去最高に近い利益が出たんですよ。大きな契約や新しい企業との連携、買収などが立て続けに成功し、利益面と成長期待という2つの大きな要素を満たす事ができました。

結果として2019年の1年間で、企業価値は約12倍にもなりました。ぼくはその年の9月に出向終了したのですが、出向先の企業価値や社長から社員まで全員の真剣な取組が、ようやく市場からきちんと見える形で評価された事に、感無量でした。

━━ 本音で言い合える関係性、それを形成するための環境づくりから始めたことによって、結果的に成果に結びついたのですね。その他に、組織が成果を出すために重要だと思うことはありますか。

星さん : スーパーマンがいなくても組織が成立するリーダーシップが重要だと思います。お互いの専門領域や得意技にリスペクトを払いながら、それぞれが柔軟に動いていくような。レアのコースで学んだリーダーシップのあり方を自分なりに解釈すると、そんな表現になります。

画像7

日本はもともと儒教社会で先輩を立てることに慣れているから、強いリーダーシップにフォロワーが付いていくガバナンス傾向があります。でも経営資源に限りあるベンチャー企業やターンアラウンド中の企業だと、そうした強いリーダーに依存するだけでは成功確率は高くはないと思うのです。

むしろ全員が自分の専門性を発揮しながら、柔軟性を併せ持ち、人的なネットワーク効果を発揮するお互いの権限と責任を十分に果たしていくために、一人のスーパーマンが引っ張っていくのではなく、チームでお互いに信頼しあいながら進んでいった方が結果的により遠くに行けると思います。

━━ 最後に、今後星さんがチャレンジしていきたいことをお聞かせください。

星さん : 現在は出向元である大企業に戻っているのですが、既に出来上がっている組織の階層やお作法を超えていくのに難しさを感じることもあります。ただ、どんな組織であってもオープンでお互いの意見を率直に言い合える関係性は重要だと考えています。

今自分が所属している部署でもそれを実現することが、次のチャレンジですかね。今の上司は「面白いじゃん」と提案を受け止めてくれるタイプなので、ここでお話しした出向先と同様に、まずはヒュッゲな空間づくりから始めていきたいです。

━━ 星さんがオープンマインドであり続けることで、周りの方々との関係性やそこから生まれるアイデアにいい変化が生まれたのだと思います。これからもその輪が広がっていくことを願っています。ありがとうございました!

聞き手:Laere 大本綾、花田奈々

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?