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新鋭短歌シリーズ『アーのようなカー』(寺井奈緒美)を読んで

それなりに言葉が好きなわりにその一文を思い返すとテレビバラエティにおけるボケやツッコミフレーズ、一言ネタのような類いばかりだけど、笑いと文学を重ね合わせた交点「共感百景」という、くやしいほどよくできているイベント企画を通じて新しい世界を知った。

「歌」っていう方法もある。当時、けっこう驚きました。片山勝三さん、万歳。

ピース又吉先生さんを頼りにせきしろさんとの自由律俳句的なものや堀本裕樹さんとの俳句本などをいくつか読んで「素直におもしろいなあ」と頭の片隅に。

渋谷の用事がてら久しぶりにSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(通称SPBS)を訪問。せっかくだからふだん手に取らない詩や歌を探したら、尾崎放哉の隣にいまを詠む歌人を見つけました。

本書は「新鋭短歌シリーズ」というラベリングが貼られていて、若い歌人にフォーカスを当てた企画です。

どうやら本書の著者・寺井奈緒美氏は、このシリーズが生まれるきっかけとなる歌人・笹井宏之氏の影響を受けているとのこと。まずはシリーズの説明を。

新鋭短歌シリーズとは

2011年1月、故笹井宏之さん(26歳で死去)の歌集『ひとさらい』『てんとろり』を発行したとき、笹井さんが紡ぎ出す言葉の世界は、とても新鮮で、それまで短歌にそれほど興味も関心を持っていなかった人の心をもとらえました。

それは、年齢も性差も超えて、短い言葉の持つ大きな力を感じさせるものでした。「ああ、みんな読みたいんだ」「言葉を発したいと思っているのだ」と感じたのです。

その思いが、若い歌人の歌集を世に出したいという思いにつながり、加藤治郎さん、東直子さんの力をお借りして、新しいシリーズを生みだすこととなりました。

いやー、素晴らしい企画です。

そして本書の内容ですが、おすすめです。それで終わりなのですが、すこしだけ句を紹介させてください。

読んで感じたこと。それは、東京で暮らしているとスッと流れてしまう日常で当たり前の風景を写真のようにパシャリと切り取った一枚、その著者の見た刹那な世界を追体験できる。こうやって見てるんだなあ。

ときにハッとするような比喩表現。またその眼差しには「やさしさ」のフィルターがあって、そのあたたかくてときにさみしい情景を浮かべるとふと微笑んでしまう、そんな自由句たち。

句を、ちょっとだけ紹介。

花びらをビニール傘に貼り付けてそこに居た時間がうつくしい

舌打ちの音でマッチに火が灯るようなやさしい手品がしたい

世界中のバトンを落とすひとたちを誰もが否定しませんように

耳と耳あわせ孤独を聴くように深夜のバスの窓にもたれて

算数のノートの隅で育ててた棒人間よ まだ走れるか

なくなれば美しくなる でもおくは電線越しの空が好きです

酔っ払いに蹴っ飛ばされて倒された三角コーンの見上げる夜空

著者ならではのやさしさと哀愁が感じられたものを選んでみたのですが、いかがでしょうか。伝わりますでしょうか!

笹井宏之氏の歌集も、とっても気になります。うん、とにかく好みでした。

というわけで以上です!


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