『2050年のメディア』(下山進)を読んで
『2050年のメディア』を読みました。
『2050年のメディア』とは慶應SFCの授業タイトルなんですね。出版業界出身の著者は現在その特別招聘教授。
2017年の時点で、10年間で日本の新聞は1000万部蒸発し、売上も5645億円失われた。
そのなかで新聞業界に訪れた「変化の波」はどのように起き、さらにどこにいくのか。ここをていねいな取材でとらえたのが本書です。
著者は元週刊誌の記者も担当。当時培った草の根的な取材が功を奏して(めちゃ苦労したようです)、「よくここまで、書けるなあ」と驚くばかり。
一つの章はコンパクトにまとめられ、それぞれに証言の出所・出典を綴っています。構成はもちろんのこと、後ほどふれる企業に属する登場人物のパーソナリティが伝わってくる。すごい。
企業の登場ウエイトでいうと読売新聞、ヤフーが並んで日経、共同通信その他というかんじです。
実感として、新聞社からの記事提供をまとめあげたヤフーが躍り出て、記事を出さず、有料デジタル版&行動ログ・ID取得に舵を切った日経が独自のポジションを築いた、そんな印象でした。
ここでナベツネの一喝をクリップ。
「読売はこのままではもたんぞ」そして社のために正しいと思うことがあれば、「社長をぶっ殺すぐらいの気概で」やれと発破をかけた。
いつもだったら正月の話の締めは、読売の経営は盤石であるということ。2018年の正月はちがった。
富士フイルムはフィルムのデジタル化による変化に合わせ、既存の技術を活用した別ビジネスを開拓しました。つまり「イノベーションのジレンマ」を破ったと。
デジタル化の変化に新聞業界が対応してゆく葛藤を描くなかで、その難しさをこのように表現しています。
新聞の場合は、フィルム市場よりも紙の市場の衰退がゆっくりとしている。だからこそ難しい
じわじわとおとずれ、ついにナベツネの一喝につながります。
本書を多層的にしてるのは、ただ紙メディアの衰退にふれるだけではなく、ヤフーの葛藤も描いているところだと思います。
ヤフーニュースでウェブ業界のガリバー的な存在になるも、新聞業界からの反発、具体的には彼らによるプラットフォーム立ち上げ、さらにパソコンからスマホ対応、ヤフーニュースのビジネスモデル変更。
ウェブニュースメディアとして「地位を築けば、はい盤石と」いうことはなく、時代の波につねに合わせなくてはウェブ業界ほど生き残れない。後半、ヤフーがメディアからデータ企業への変化していく様にもふれています。
新聞業界の流れをザッと、さらにおもしろく追いたい方にはもってつけです。というわけで以上です!
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