『ミュージカル俳優という仕事』(井上芳雄)を読んで
ミュージカル界のトップスターといえば井上芳雄。今年はデビュー20周年。ラジオ番組「井上芳雄 by MYSELF」の関連イベント告知をTBSラジオでよく聴いていました(ざんねんながら6月のイベントは延期とのこと)。
そんな井上芳雄さんが2015年(デビュー15周年きっかけ?)に自らのミュージカル人生を語ったのが本書です。さまざまな層のファンを意識したロングインタビューのようなつくりで読みやすい。
ジャンルを背負っている著者ならではの業界本・仕事本の面もあると思います。ミュージカル俳優になるためには?どんな人が向いている?そしてもちろん自らについても赤裸々に、まっすぐ・正直・素直に語っています。
*夢の体現について(小4から目指してた!)
*自分の「位置」への言及(当時は真ん中よりすこし上とか)
*評価に対する葛藤(新聞の評価欄はいまでも気にしちゃう)
*お金の価値観(学生から使っている口座はいっしょ)
ご本人ならではの貴重なエピソードもありました。蜷川幸雄から受けた洗礼、井上ひさしとの出会い、海外演出の特異さ、ミュージカル業界の待遇問題、主役・座長の責任、ファンに関するマイルール。思い出すだけでもおもしろい。
ミュージカルを背負っている自覚・覚悟が見受けられます。
ジャンルを「またぐ」ということ
考えたのは「背負」とジャンルの「またぎ」。その道で頭角を現し、やがてジャンルを越えて仕事の幅が広がっていく。
井上芳雄さんならストレートプレイ(いわゆる芝居)・テレビドラマ・映画。本書では「またぎ」の経験についてご本人はこう言います。
気分が活動家になって、ミュージカルに帰ってくるような感じでした。自分たちがやっていることが、とてもぬるいことに思えたりもしました。でも、それもしばらくやっていると、やっぱりミュージカルの世界はこれでいいんだ、と思い始めるんです。(中略) 俳優は、しっかりと役を演じればいいだけのことです。それに僕のホームグランドはミュージカルですから。
(中略)自分の力も抜けてきて、不安な気持ちで撮っていたドラマや映画にも、あまり苦手意識がなく自然体で臨めるようになってきのが、ようやく最近ということなんです。(中略)だから、自分がホームグラウンドとしている舞台のことを知ってもらう、興味を持ってもらうために映像の影響力をうまく取り込んでいけたらいいな、と思うようになりました。
「ホームグラウンド」というワードが印象的でした。自身の新しいキャリア・経験を広げるためでもあるし、そのホームグラウンドそのものの宣伝活動でもある。
いまテレビドラマ・映画は、歌舞伎役者・狂言役者・ミュージカル俳優・お笑い芸人など、そもそも「ホームグラウンド」を別に持つ方を取り込んでいる印象を持っています。
ホームグラウンドとは、上岡龍太郎さんの言葉でいうところの「城」であり、とんねるず石橋貴明さんでいう「主戦場」です。
石橋さんはかつてAKBを例に挙げて、確固たるホームグラウンドがあるからこそ、またいだジャンルで思い切った仕事ができるのだと言っていました。
個人としてはバスケットボールのピボットを連想します。ホームグラウンドという軸足があるから、もう一つの足を自由に動かすことができる。
ちなみに井上芳雄さんは映像では、なぜか舞台とちがったキャラ・配役が多くておもしろいとおっしゃっていました。
いつもと違う顔を引き出したくなるドラマ側のきもち、よくわかるなあ。
というわけで以上です!
最後までお読みいただきありがとうございます...!本に関することを発信しております。