ずっとずっと大好きだよ

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第4話 トレーニング
私は大型犬だ。大人になると体重は30kgを超え、体高も50cmを超える。
力だってママより強くなる。走るのも早くなる。もし、私が全速力で走ったらママは追いつくことが出来ないだろう。噛む力だって人の骨をかみ砕くぐらい強くなる。
大人になってもママとずっと一緒に過ごすために、生後6カ月から家庭犬のトレーニングを受けることになる。もちろん、ママも一緒に勉強する。一般的には服従訓練というらしい。

毎週日曜日、近くの公園でトレーナーさんに教えてもらいながら、ママと二人三脚で頑張った。小さいころから、名前を呼ばれるとママを見るということが当たり前になっていたことが、トレーニングにとても役立った。
トレーナーさんに最初に教えてもらったのが名前を呼ばれたらママを見るというアイコンタクトだった。いつもしていたことだから簡単だった。

一番難しいのはママの歩調に合わせて歩く事。
ママが走ればママより前へ出ないように走る、ママがゆっくり歩けば私もゆっくり歩く、歩いている途中でステイと言われるとママが歩いて行ってもその場で止まる、角を曲がる時もママから離れずにほぼ90度で曲がる。何度も何度も練習した。
ちゃんとできると「さくらいい仔」グッドと褒められた。

その他にも、座る・伏せる・立つ・待つ・障害を飛び越える・ダンベルを口にくわえるなど、たくさんの基礎的なことを学んだ。

トレーニングの時ママが出す指示の言葉が面白い。
例えば座れ「シット」・待て「ステイ」・飛べ「ジャンプ」・伏せ「ダウン」と英語なのに来いだけ[カム]ではなく「来い」という。私はバイリンガルだ。

家庭犬訓練試験も受けるようになった。トレーナーさんが厳しい人で、合格しても合格点が低いともう一回受けなおすことになる。
ママはいつもトレーナーさんに「さくらは何でもできる、出来ないのはママの指示が悪いから」と言われていた。ママは「さくら、ごめんね」と、落ち込む時もあったが頑張っていた。家庭犬訓練試験も合格し訓練を卒業した。
トレーニングを始めて3年が過ぎていた。

ドクタードッグというプログラムに参加するための試験も受けた。
ドクタードッグとは、ドッグセラピーをする犬のことだ。試験に合格すると、ホスピス・病院・老人保健施設などへ訪問セラピーに行くことが出来る。

この試験は私の資質が試される。他の犬に会っても興奮しない、大きな音がしてもびっくりしたり怖がったりしない。車いすが近づいてきても怖がらない。ママがテーブルの前に座り何か食べている時、足元で伏せて待つ。知らない人に体のどこを触られても、怒ったりかみついたりしない。
特に緊張する試験は、私に「ダウン・ステイ」の指示を出した後、用意された椅子にママが座ってお菓子を食べるというものである。私はママが食べ終わるまでじっと伏せて待っていなければならない。

この試験はママが的確に指示を出しているか、笑顔でいるかなどママの資質も試される。ママは、お菓子の包みがうまく開けられなくて焦っていた。きっとお菓子の味も分からなかったと思う。ママもさくらも一緒に合格だった。

私が初めて訪問した先はホスピスだった。病室を一部屋一部屋周り、頭を撫でてもらったり体を撫でてもらったりした。
私とスキンシップをした人たちは、病床でも笑顔になった。
私を撫でるために一生懸命動きにくい手を動かしていた。それがリハビリになるのだとママが話してくれた。
それから、13才で歩けなくなるまでセラピー活動に参加した。


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