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十勝への引越しと、浦幌への旅と、未来について。

この夏、TOKYOに世界からの注目が集まる中、私はというと札幌から帯広に転勤で引っ越してきた。
空も大地も広い…!十勝、さっそく惚れ込んでいます。

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というわけで7月は仕事の佳境と引っ越しでバタバタしていたはずなのだけど、実は(対策しつつ)ちょこちょこ旅に出ていた。
その旅の記録と、そこで考えた未来についてのお話です。

浦幌の“うねり”を探る旅

「今度の週末、浦幌に来ませんか?」
7月初旬、お誘いを受けて向かったのは、北海道の右下、浦幌町。

この浦幌という町、最近気になっていた。
今年に入ってからだけでも、町出身の若者が地元の老舗そば屋を引き継いだり、20代前半の女の子が春に3人も移住したり、私と同い年の友人がゲストハウスを開いたり…と、いろんな動きを耳にしていたのだ。
どうしてこんな”うねり”が起きているのか、それを知りたいという思いもあった。

子どもたちのアイデアを形に

まず訪ねたのは、ハマナス農園。車を降りると、ハマナスが一面に広がっていた。ハマナスは北海道の道花であり、ここ浦幌町の町花でもある。

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バラより少し落ち着いた、優しい香りに包まれる。(英語ではJapanese roseなのでバラの仲間らしい)
ここで「ようこそー!」と笑顔で迎えてくれたのは、このハマナスを栽培している、森健太さん(もりけんさん、と呼ばせてもらう)。

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(↑撮影:原田啓介さん)

さっそく、もりけんさんに教わりながら、ハマナスを“摘む”体験にチャレンジ。
え、このきれいな花を、丸ごと摘んじゃうの…?

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実は、もりけんさんはハマナスの花びらを原料とした化粧品を作っている。
町の花であるハマナスを使った化粧品を作るというアイデアは、もともと町の中学生が考えたもの。
「中学生のアイデアを実際にビジネスにし、町の将来の雇用も生み出したい」ーーそんな思いで、地域おこし協力隊として浦幌町に来ていたもりけんさんが2017年に会社を立ち上げたというのだ。すごい。

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(↑撮影:原田啓介さん)

試しにハンドクリームを使ってみたら、ほんのり良い香りでのびも良くて、心地いい。
ちなみにこのパッケージも町の子どもが描いた絵を使っているそう。素敵だ。

過去の足跡

次の目的地に向かう途中で立ち寄ったのは、炭鉱の跡。浦幌は十勝では珍しく、炭鉱があった町だというのを初めて知った。
当時炭鉱で働く人たちが住んでいた建物を、一部見ることができる。今は森となっているところでたくさんの人が働き石炭を掘り出していたことを思うと、ちょっと感慨深い…。

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廃校で感じる未来

森をあとにして、今度はTOKOMURO Lab(トコムロラボ)へ。廃校になった小学校を利用した体験施設だ。

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コワーキングスペースやカフェ、ワークショップができるスペースなどがあるのだけど、奥にあるのが「デジタル森林浴」ができる部屋。
森や自然を5面のマルチスクリーンでいつでも体感できるのは、日本初だそう。眠っちゃうくらい気持ちいい…。

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今後、子どもたちが浦幌の自然を撮影して、それを活用するなんていう話も聞いた。
受付では、浦幌出身の20歳が今年から地元に戻って働いていた。なんだかすごいぞ。

ゲストハウスが起こす波

その後、うらほろ留真温泉で温まり、美味しいごはんもいただき。(浦幌は海の幸も山の幸もあるのです、良き)

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宿泊は、今年の7月に新しくオープンしたゲストハウス「ハハハホステル」。

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古い建物を買い取り、町内外の人とともにコツコツとリノベーションをして宿を開いたのが、小松輝さん(こまっちゃん)。この日もまだとんてんかんしていた。

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徳島出身、大学時代から通っていた浦幌町に協力隊として入って、観光事業の会社も立ち上げ、今回ゲストハウスをオープンした、一児の父。同い年とは思えない…。

「町と旅人の間を取り持つちょうどいい場所に」と町の中心部にこまっちゃんが開いたハハハホステル。ゆったりできて、とてもくつろげる空間が広がっている。

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ここでもう一人働いているのが、工藤安理沙さん。釧路出身で、東京の大学に進学したあと東京の会社で働いていたけど、思いきって辞めて浦幌に来た一人。

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生まれ育った道東で暮らしたいな…という思いをつのらせていたところ、こまっちゃんから「うちで働かない?」と声がかかったそう。運命的。
「東京の会社を辞めることに不安はなかった?」と聞くと、「なくはなかったですけど、東京で働いてて身体にストレスがかかってるのを感じてて…。こっちに来てから自分らしくのびのびできるし、東京の友達もむしろ『来たい』と連絡くれるし、ほんとに来て良かったなって思います」と断言。
浦幌の町と人が、こんなにも誰かをひきつけたり元気づけたりしているんだなと感じた。

知的好奇心が刺激されまくる博物館

翌日は浦幌町立博物館へ。
この博物館、コロナ禍の生活もまた町の人々の歴史だとして、手作りマスクを展示するなんて試みもやっていて、面白いな〜いつか行きたいな〜と思っていたところ。

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実際に行ってみて…やっぱりすごかった。展示されているのは、浦幌町の植物や動物(浦幌はヒグマの主要な研究拠点のひとつでもある)、恐竜の化石、縄文時代やアイヌ関連の資料から近現代の生活史まで、とにかく幅広い。
そしてなんといっても、学芸員の持田誠さんの見識が豊かで、解説が面白い。この方も、浦幌という小さな町にある幅広く深い生態系や歴史に惹かれて移住したそう。

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地元の小学生たちも毎年博物館を訪れ、昔の生活道具を使ってみたり、発掘にチャレンジしてみたり、体験学習をしているらしい。うらやましい。

短い文章だけでは伝わりきらない浦幌の魅力、ぜひいろんな人に実際に行って体感してほしいなと思う。
#私を浦幌に連れてって というタグをSNSで検索すると、もっと素敵な写真がたくさん出てきます。


“人から人へ” 浦幌で紡がれるもの

ここまでで、子どもや若者というワードが何度か出てきたことに気付く方もいるかもしれない。
私が浦幌に行って一番感じたのが「この町が未来に、人に投資している」ということ。
実は、浦幌は14年も前から、学校・地域・行政が協働して地域全体で子どもを育てる「うらほろスタイル」を実践している。

地域のいろんな人・活動がなんらかの形で子どもたちとつながっている。子どもたちが見えるところに、素敵な大人たちがいる。
浦幌が取り組むこの“地域での学び”という形に興味を持って、視察が相次いでいるのはもちろん、関わりたくて移住する若者や大人もけっこういるようだ。
詳しくは協力隊の古賀詠風さんのnoteに丁寧に書いてあるのでぜひ。彼は地域の子どもと大人をつなぐ重要な役割を果たしている一人、だと思う。尊敬してます。

旅の中で、浦幌で生まれ育った20歳と話す機会があった。ちょうど小学1年生のときに「うらほろスタイル」が始まった世代だ。
今は近くの町で働いているけれど、地元が好きで、週末は浦幌に帰ることが多いそう。浦幌に戻って働くのもいいかも…と考えているとのこと。
「先輩たちも、大人たちも、みんな楽しそうだから。この町での未来が楽しみだし、ワクワクしてます」と語ってくれた。

泥臭くつないできた結果としての、軽やかな未来

「未来へつなぎたい」という思いは、浦幌の人だけでなく、今回出会った道内のほかの地域の人たちからも感じたことだ。
旅を企画してくれたのは「ドット道東」という団体。これまで、道東のアンオフィシャルガイドブック「.doto」を作ったり、道東で働きたい人と企業や自治体をつないだり、道東の点と点をつなぐ活動を行ってきた。

今回ドット道東のメンバーと話して感じたのが、次の世代につなぎたいという思いだ。
(彼ら自身、当然ながら若いプレイヤーであり、それぞれが地域に根ざして活動している。そのうえで。)
彼らは明るく「自分たちは泥臭くやってきた」と話す。そこには、「地方には大変なことがいくらでもある。それでもここでやる。」という思いーー“意地”とでもいえるものがある気がする。
最近のメンバーのインタビュー記事からもそんなことを感じた。

一方、今回の旅で、ドット道東に最近関わり始めたり、メンバーから誘われたりした20代前半の子たちとも出会った。
彼ら・彼女らと話してみると、道東に惹かれたのは「なんだか楽しそうだから」。気持ちひとつで飛び込んでみる“軽やかさ”を感じる。

少し上の世代が「道東は楽しめる場所なんだよ」という素地を必死になって切り拓いて作ってきたからこそ、下の世代がポジティブに飛び込むことができているような気がした。

「この地“だからこそ”やりたい」を実現する

そんなドット道東が今企画しているのが、「ビジョンブック」の制作。1000人分の“道東で実現したいビジョン”を載せたいという。

これに合わせて、若い人たちも含めたいろんな人が、それぞれの未来を言葉にしている。#道東の未来 というハッシュタグをたどると、その思いが見える。

なぜ思いを可視化するのか?
それは、ポジティブな言葉を表に出すことで、近い志を持つ人同士や、応援したい人とされる人などの間に、有機的なつながりを生んでいくためなのではないか。

これは想像だけれど、大人たちが「どうせ無理」「田舎だから無理」と言うことによって、若者が自分でも無自覚なまま諦める姿を、彼らは嫌というほど見てきたのだろう。
だからこそ、自分たち自身がまずは楽しんで、その姿を見せることでいろんな人を巻き込んでいるように思える。
一人でも多くの人が、「ここ“でも”できる」と思えるように。そして「ここ“だからこそ”できる、やりたい」と思えるように。

とあるバンドのように、ワクワクを広げる

そんなドット道東のやり方を「バンドっぽい」と言う人がいた。
メンバーそれぞれが一人でもやっていけるけれど、組んでいるからこそできる面白いことがある、という点。
メジャーなものに対して、カウンターカルチャー的な部分もある点。(都会に対して地方、札幌圏に対して道東、というような)

そんな話をしていたら、ドット道東の中西拓郎さんが『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』という本を紹介してくれた。
アメリカのヒッピーバンドが、40年前からフリーでシェアでラヴ&ピースな21世紀のビジネスモデルを実践していたという話だ。

読んでみると、これがとてもしっくりくる。
自分たち自身が楽しんでいること、失敗も含めた過程を全部見せていること、ファンをただの観客ではなく作り手側に巻き込んでいること、ほかにない新しい価値を作り出していること…共通点が思いのほかたくさんある。
カウンター的なところから始まったものが、ファンをどんどん増やして、メジャーなものになりつつあるところまで似ている。面白い…。

浦幌だけじゃない。道東だけでもない。“思いを未来へつなぐ”という意志から生まれる“うねり”は、北海道全体、あるいはもっと大きな範囲の様々な人を巻き込んで、ワクワクを広げつつある。


私の未来について

ここからは少し、自分自身の話。
転勤族でいつまで北海道にいられるかもわからない私が、この土地で何をしていくのか。
個人の足で立っているわけではないし、難しいなぁ…という思いはあるけれど、全国ネットのメディアにいるからこそできることもあるはず。
それに、東京や札幌ではなく、十勝に住んで見えることがあるはず、と思っている。

直近の仕事で、「#ナナメの場 みんなでつくろう、もうひとつの居場所」と題したキャンペーンを立ち上げ、テレビとラジオの番組を放送した。

親や先生といったタテの関係でも、同い年の友人などヨコの関係でもない、“ナナメの関係”の人と出会える場が、子どもにも大人にも必要なのではと思い、始めたものだ。

取材を通して実感したのが、この“ナナメの場”において重要な役割を果たすのが“地域”だということ。
家庭でも、学校や職場でもない“第三の居場所”として、地域は大きな可能性を持っている。

こういう放送をすると「昔は当たり前に地域のつながりがあった…」みたいな感想もいただくのだけど、もしつながりが薄れてきているのだとすれば、それは今の社会を作ってきた私たちに責任があることになる。
繰り返される悲しい事件も、例えば若いお母さんにとって(お母さんになってからはもちろん、もっと幼い頃から)地域に誰か一人でも頼れる人がいれば違ったはず…と思う。
(↓「ナナメの場」を考えるきっかけになった、事件の取材)

そんなに深刻な感じではなく、気軽にふらっと行けて、たわいもないことを話したり、ぼーっとしたりできる居場所って、本来どんな人にもあればいいと思う。

そして、地域に根ざして活動している人たちは、そんな居場所や関係性づくりに自然と関わっているのではないか。
浦幌でもそんなことを感じたし、カフェやゲストハウスなんかも“サードプレイス”的な要素は強い気がする。

こうした“ナナメの場”のことを知ってもらったり、関わる人を増やしたり、必要な人をつないだり…なんてことを、道東にいる間に、この地に根ざしている人たちと一緒にちょっとでもやっていけたら。というのが、目下の私の #道東の未来
もちろんもっと増えていくだろうし増やしていきたいけれど、ひとまずこれは心にとめておきたいなと思っている。


今・ここに生きている

長くなってしまったけれど、最後にもう少しだけ…。
浦幌を訪ねた次の週末、大学時代からの友人と、オホーツク・知床方面へ旅に出かけた。

津別峠で雲海を見たり

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旬のハスカップを摘んだり

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小麦畑に囲まれながらとれたて野菜を食べたり

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カムイワッカ湯の滝を登って、大自然の中の温泉にはしゃいだり(今年、期間限定・ガイド付き限定で、15年ぶりに滝の上のほうまで登れることに!)

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シャチを見たり(カッコよかった!)

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と、これまた盛りだくさんな旅。

温泉に浸かった友人が、オホーツクの海を眺めながらぽつりと一言、「なんか今、すごく生きてるって感じする」。
そうなのです、そうなのです、友よ。この道東という地は「自分が今ここに生きている」ことをまさに実感する土地なのだ。

自分が今この土地に生かされていると感じるからこそ、この土地での暮らしを未来につないでいきたいと、ここに住む人たちは思うのではないだろうか。

そんなわけで、十勝で暮らすからには道東のあちこちへ行って、いろんな人と会って話して、いろんなことを体感して、「自分がつながっていると感じる土地」を増やしていきたい。
これもひとつの #道東の未来 といえる、かな。

この地で生きる人たちと一緒に作っていく未来が楽しみです。

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