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構想2年、NG3度。「freeeカードUnlimited」開発秘話 ①

freee finance lab(通称:FFL)編集部です。

FFLは、freeeの金融子会社として様々な新サービス・新規事業に取り組んでいます。今回は、2021年6月に発表した、経営を強くする統合型コーポレートカード「freeeカードUnlimited」の開発秘話を紹介します!

「freeeカードUnlimited」は、freee会計のデータを用いた独自の与信審査により限度額を柔軟に設定する機能や、freee会計に即時に利用明細を同期する機能を実装しています。現在、β版が一部ユーザーに提供され、まもなく本リリースを予定!


 しかし、「freeeカードUnlimited」誕生の背後には、さまざまな「壁」を乗り越えるべく奮闘した開発メンバーの知られざる苦闘がありました。freeeも過去に経験してきた無いものだらけの中で成長するスタートアップ時代の苦労とは別に、上場企業になったfreeeが今から立ち上げる新規事業の苦労もあります。
 今回から2回に分けてfreeeが取り組む新事業「freeeカードUnlimited」の開発秘話をご紹介します。第1回は構想のスタートから、2つの壁を乗り越えるまでの軌跡を辿ってみましょう。

freeeカードunlimitedのメンバー

花井一寛:金融事業本部 マネージャー 兼 freee finance lab(株)取締役
監査法人を経て、2015年にfreee入社。freee福利厚生や資金繰り改善ナビなどの新サービスを創出。「freeeカードUnlimited」では企画・事業面をリード。公認会計士。
佐々木駿:金融事業本部 マネージャー
楽天株式会社を経て、2016年1月にfreee入社。責任者として「freee開業」や「freeeカード(提携カード)」を事業拡大。「freeeカードUnlimited」では初期立ち上げから事業開発に携わる。
横田健志:金融開発部 マネージャー
受託制作会社、スタートアップでのCTOを経て2018年7月freeeに入社。freeeの金融サービスの開発をリード。「freeeカード Unlimited」ではエンジニアチーム組成から開発マネジメントを実施。

freeeカードunlimitedのキッカケ

――「freeeカードunlimited」の構想はどのように始まったのでしょうか。

花井:2019年のfreeeの役員陣を中心に中長期の事業構想をする「マジ価値未来会議」と呼ばれる取り組みがきっかけでした。freeeのビジョンを達成するために数年規模で取り組むべき事業を考える中で、1つのテーマに挙がったのが「決済」でした。決済は金融サービスの文脈で捉えられますが、経理・会計と密接に関わっています。すべての商取引には必ず決済が発生し、freeeはその情報を会計処理してます。freeeが決済まで手がけることで、Userの取引がつながり、バックオフィスの自動化も実現するのではないか。そんな議論をするうちに、第一段階としてコーポレートカードを発行しようという話が出てきたんですね。

 このほか、海外の動向もありました。上場前のラウンドで出資いただいた英国VC(ベンチャーキャピタル)のGreyhoundからのアドバイスもありました。Greyhoundは、米国Brex社やMarqeta社をはじめとする決済サービスの会社に積極的に投資しています。毎日利用される決済サービスは、たまに使われる融資とは違ってお客さんとの接点が非常に濃くてSticky(粘着性のあるサービス)であると彼らは考えていました。日々、経営者や管理部の方に利用いただいているfreeeと同じような性質がある。そうして、カード事業に対する興味がだんだん大きくなって、遂には2019年8月、社費を出してもらって、サンフランシスコへの2泊4日間の弾丸ツアー(笑)に出掛けました。

――サンフランシスコでは何をされたんですか。

花井:スタートアップ向けにクレジットカードを提供する「Brex」の創業者や、カード発行プラットフォームを運営する「Marqeta」の事業開発責任者の方とディスカッションできました。

印象に残るのはBrexの創業者の話です。当時、私はfreeeで融資やファクタリングの仲介サービスを始めたところで、その話をしたところ、「なんで自分でやらないの?」と。「fintechのスタートアップは重要な部分を協業でやってきてみんなダメだった。何をするにも提携先の制約に縛られて、新しいサービスをスピーディにつくれないし、何よりUXを完全にコントロールできない。それでは、Userが満足する良いサービスはつくれない」と。根本から否定された気持ちもありつつ、思い当たる節は沢山あったので納得感もありました。帰国後、全部自分たちでやるという前提で、これまで提携カード事業やってくれていた佐々木と一緒に企画書や事業計画を作り直した。これが「freeeカードUnlimited」のはじまりですね。ただ、すぐ目の前に「第1の壁」が待ち構えていたんです。

3つの壁を乗り越える①「セキュリティ・インフラの壁」

――「第1の壁」とは何だったのでしょう。

佐々木:インフラ、セキュリティ周りのシステムが非常に重くなるのではないか。それから与信リスクや不正決済といったリスクは大丈夫なのかと。リスク高い部分まで全部自分たちでやる必要は無いのではないか。パートナーに任せられないのかといった指摘です。

花井:freeeは今や約31万を超えるスモールビジネスの皆様に利用いただいているサービスを提供する会社です。とりあえず、やってみようで問題が起きては許されない社会的責任があります。

横田:僕も最初は反対派だったんですよ。果たして24時間365日対応することが可能なのかと思ったからです。アクセスが集中する確定申告期でも殆ど100%近い稼働率のfreeeですが、極端な話、「freee会計」はビジネスタイムに動いてさえいればOK。夜中にシステムが落ちても大きな問題にはなりません。しかし、カードではそれが許されない。夜中に決済データを大量に送ってくる加盟店もあります。会社全体を巻き込めるのであればまだしも、カードチームだけでやろうものなら、5〜6人のメンバーのうち誰か1人が365日ずっと寝ずの番をしなくてはいけません。ひとことで言えば、誰が24/365対応をやるのかという問題を解決できないだろうと思ったんです。ただ、話を聞いて2〜3日後には賛成派に宗旨替えしました。

――2〜3日で賛成派に考え変わったんですね。

横田:最初は「そんなことができるか」と思いましたが、ちょっと落ち着いて考えてみると、全部自前でサービスを提供するということはインパクトも大きいし、苦しいけれどもやる価値がある。それより何より、そんなことができたら楽しいじゃないですか。そこで、「システムが重くなるのではないか?」「24時間365日体制をつくれるのか?」といった指摘に対して、「いやいや、大丈夫ですよ」と応えていく側に回ったんです。

花井:横田さんがポジティブになってくれたことで、かなりテンションが上がりましたし、正直な話、「第1の壁」はクリアしたような気分でした。

――横田さんが仲間になった後は、どのようにしてメンバーを増やしていったのですか。

花井:社内にはカード決済に詳しい人がほとんどいなかったので、社外の専門家の知見を積極的に借りました。freee メンバーの個人的繋がりで、fintechやカード決済に詳しいコンサルティング会社の代表の方や、某決済系サービスのCTOや事業開発の方など、4名の方にご知見をお借りしました。

――社内外のメンバーがほぼ同数だったんですね。印象に残っている議論はありますか。

佐々木:やはり、リスク面ですね。特に、当時ちょうど某QR決済サービスの不正利用事件が世間を騒がせた時期でした。セキュリティ周りの不安が大きかった。QR決済とカードは異なる決済の仕組みですから直接的な関連はないのです。でも、我々含めて決済領域の実務をしてきた人がおらず、素人が素人に説明している状況。なかなか、社内の不安感を払拭できませんでいた。また、カード特有の問題に対してシステムやオペレーションでどのように対応すべきか、社内のメンバーでできるのか、将来的に対応工数がめちゃくちゃ膨らんで事業が成り立たないのではないか、などについて議論していました。

――結局のところ、「第1の壁」はどのようにして克服されたのでしょう。

花井:2019年10月頃の役員出席の会議の場に、社外の専門家に来てもらって説明してもらいました。私たちにはカード事業の経験がないので「専門家によると〇〇だそうです」と言うよりも、実際にやってきたプロに直接質問できる場を設けたほうがいいと考えたんです。

佐々木:さらに、不正決済については、VisaのFintechファストトラックプログラムの採択も内定したことで、Visaの支援によって不正決済対応のコンサルティングやシステムを利用できることになりました。これらに加えて、最終的には前職で日本初のデビットカードを成功させた小村(freee finance lab CEOの小村)の後押しもあって、どうにか社内の支持が得られました。

3つの壁を乗り越える「カード債権に自社資金を充てられない」

――「第2の壁」については教えてください。

花井:こちらは2019年12月の上場直前の出来事です。先の経緯でリスク対応について整理できたと思ったら、「やっぱりカード事業はできない」と。

佐々木:なかなか衝撃でしたね(笑)。上場してアクセル踏んでやれるものと思っていましたので。

花井:これは、ユーザーがカードを使うと、われわれがVisaを通じて先に加盟店に代金を支払うので、1〜2カ月の立替えが発生します。しかし、これはfreeeにとっては新たなリスクです。非常にざっくりいうと「SaaS企業としてのトラックレコードづくりが最優先。今の段階では金融事業としてのリスク(カード債権)を大きく抱えるのは難しい」みたいなことでした。CEOの大輔さん(佐々木大輔 代表取締役CEO)からも「ちょっとタイミングが悪い」というような感じでして、まさに絶望的でしたね。手伝ってもらった社外の専門家の方々に「やっぱりやらないことに」と連絡するのは辛かったです。

――絶望の淵に立たされたところから、どうやってリカバーしたんですか。

花井:諦められず、何度か確認しましたが今はダメと。しかし、しつこくも「初期のリスクを限定的にして、カード債権用の調達ができるならいいんですよね」みたいなことを、改めて大輔さんや澄人さん(東後澄人 取締役CFO )に聞いてみると、「いいよ」と。じゃあ「そうゆうスキームを組んでくるからちょっと待ってください」と伝えて時間をもらったんです。

 前職の経験からいくつか選択肢があると思ったものの、実績もなく当初は金額規模も小さいので現実は厳しいと想定してました。実際、何社にも断られました。しかし、以前から付き合いのある、大手リース会社さんにカード債権の流動化スキームを組んで頂けることになりました。本当に感謝してます。

佐々木:リース会社は様々なファイナンススキームを日頃から実施していて、比較的新しいリスクも取れるようなんです。とはいえ、調達のスキームとしては非常に特殊だったので、社内外の説明には大変苦労しました。私も初めての経験でしたので色々と勉強しつつ、顧問弁護士や社内の管理部、スキームに関わる各社とのやりとりを進めました。契約に関するメールだけでも100通以上になりましたね。

花井:監査法人との相談にも時間を要しました。また、社内からもスキームについて様々な意見が出ていました。こうした指摘や意見も1つずつ解決しつつ、2〜3カ月かけてスキームを詰めて、2020年4月の取締役会であらためて提案しました。
無理と思われたファイナンスの課題をクリアしたことでようやくゴーサインが出て、「freeeカードUnlimited」の開発に本格的に乗り出すことになったんです。

まとめ|2つの「壁」を乗り越えて。

「セキュリティ・インフラの壁」「カード債権に自社資金を充てられない」という2つの壁を見事に乗り越えた「freeeカードUnlimited」の開発チーム。ただし、開発チームの目前には次なる壁が待ち構えています。「第3の壁」については第2回でお伝えします。

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