レイ・カーツワイルが語るAIの過去、現在、そして未来
レイ・カーツワイル氏が、TEDでAIに関する発表を行い、2024/6にTEDで公開(収録は2024/4)されました。以下はそのTEDでのレイ・カーツワイル氏の発表の解説になります。
はじめに
人工知能(AI)は私たちの生活をどのように変えるのでしょうか?AIの先駆者であるレイ・カーツワイル氏が、過去61年にわたるAIの進化を振り返り、今後どのように進展するかについて語りました。彼の洞察は、AIの歴史から未来のシンギュラリティに至るまで、驚くべき予測と具体的な事例であふれています。この記事では、カーツワイルの見解を通じて、AIがどのように私たちの世界を変えていくのかを探ります。
(1) AIの歴史と初期の見解
人工知能の誕生と初期の認識
1962年に人工知能に関わり始めたレイ・カーツワイルは、AIに関する初期の考え方を振り返ります。1956年にダートマス会議で人工知能という名称が初めて使われましたが、その当時の一般の認識はほとんどありませんでした。カーツワイルが人工知能について話すと、多くの人が「それは何?」と尋ねたほどです。1956年のダートマス会議に参加した科学者たちは非常に楽観的で、一部の科学者は一学期程度で人間の知能レベルに到達できると考えていました。
カーツワイルとミンスキーの議論
マービン・ミンスキーは、AIが短期間で人間の知能に追いつくと考えていましたが、カーツワイルはそれが数十年かかると予想していました。ミンスキーとは50年間にわたりメンターと弟子の関係を続けていましたが、彼らの最初の議論はこの予測の違いから生まれました。
(2) ツールの進化とAIの役割
ツールの創造と進化
人類は、知能を拡張するツールを作り出す唯一の種です。スマートフォンのようなデバイスは、クラウドに接続することで毎年賢くなっています。シンギュラリティが訪れると、こうしたデバイスは私たちの脳に直接統合され、知能を大幅に向上させるでしょう。
親指の役割と人類の特異性
人類の進化において、知能の向上に貢献するもう一つの要素は親指です。他の動物、例えば象やクジラにも大きな脳はありますが、人類のように親指を使って複雑なツールを作り出すことはできません。人類は親指の機能を活用して複雑なツールを次々に作り出し、それが知能の進化を促進しました。
ツールとAIの進化
最初の原始的なツールを作った初期のホミニンから、今日のGeminiやGPT-4に至るまで、人類は知能を向上させるツールを作り続けてきました。人工知能もその延長線上にあり、私たちの知能をさらに高めるための重要なツールとなっています。
(3) コンピュータの計算力の進化
計算力の指数関数的成長
レイ・カーツワイルは、計算力の成長を45年間にわたり監視してきました。この成長は指数関数的であり、1939年には1ドルあたり0.0000007回の計算が可能だったのが、現在ではGoogleのコンピュータで1秒間に1300億回の計算が可能になっています。最近ではNvidiaのチップが1秒間に5千億回の計算を実現しました。このように、計算力は75京倍に増加しました。
大規模言語モデルの進化
大規模言語モデル(LLM)は3年前にはほとんど機能していませんでしたが、ここ2年で飛躍的に進化しました。この進化は計算力の向上によるものです。計算力の進化により、現在のAIはより高度なタスクを迅速かつ正確に処理できるようになっています。
AGI(人工汎用知能)の予測
1999年にカーツワイルはAGIが実現する時期を予測しました。彼は計算力の成長が続くと仮定し、AGIには1秒間に1兆回の計算が必要と見積もりました。その結果、2029年にAGIが実現すると予測しました。当時、この予測は多くの懐疑的な反応を受けましたが、現在では多くのAI研究者がAGIの実現が近いと認識しています。
(4) AGI(人工汎用知能)の予測と現状
AGIの実現に向けた予測
1999年にカーツワイルがAGI(人工汎用知能)の実現を2029年と予測したとき、多くの科学者はこれを懐疑的に見ていました。しかし、スタンフォード大学が開催した国際会議では、数百人のAI科学者がこの予測に関する議論を行い、最終的にはAGIの実現は100年後だと結論付けました。しかし、時が経つにつれて、カーツワイルの予測に近づくような進展が見られるようになりました。
現在のAGIに対する見解
イーロン・マスクはAGIが2年以内に実現すると予測しており、他の専門家も3〜4年以内に実現すると見ています。カーツワイル自身は、あと5年でAGIが実現すると考えており、これは現在の技術進歩の速度を考慮すると妥当な予測です。現在、ほぼ全ての専門家がAGIの実現が非常に近いと認識しています。
「The Singularity is Nearer」の出版
カーツワイルは、新しい著書「The Singularity is Nearer」を発表する予定です。この本には、人工知能がどのようにすべての分野を支配するかを示す約50のグラフが含まれています。彼は、計算力の成長とそれに伴う技術の進化が、社会のあらゆる側面を根本的に変えると主張しています。
(5) AIの未来と医療の進化
AIがもたらす医療の進化
人工知能(AI)は、医療分野で大きな革命を引き起こしています。たとえば、モデernaのCOVID-19ワクチンは、AIの力を借りてわずか2日で開発されました。従来の方法では、数十億のmRNAシーケンスからいくつかを選んで試験する必要がありましたが、AIはこれをシミュレーションすることで迅速かつ効果的に最適なシーケンスを見つけ出しました。このアプローチにより、短期間で安全かつ効果的なワクチンを市場に提供できました。
新しいがん治療の発見
AIはまた、がん治療の分野でも画期的な発見をもたらしています。AIが生成した治療法が臨床試験で有望な結果を示しており、これから数年以内に多くの新しい治療法が登場することが期待されています。特に、AlphaFold 2が2023年に発表した成果では、2000万種類以上のタンパク質の構造を解明し、これが新薬開発に大きな影響を与えています。
デジタルシミュレーションと臨床試験
今後の医療では、デジタルシミュレーションを用いた臨床試験が主流になると予想されています。これは、従来の試験方法に比べてはるかに安全で迅速です。デジタルシミュレーションは、数百万倍の速度で治療法を検証でき、2030年代には「長寿逃避速度」という新たなマイルストーンに到達すると予測されています。
(6) 長寿とリソースの確保
長寿逃避速度(Longevity Escape Velocity)
科学の進歩により、寿命の延長が加速しています。現在、1年が経過するごとに寿命が4か月延びると言われています。しかし、進歩が指数関数的に進むことで、2030年代初頭には「長寿逃避速度」に到達すると予測されています。この概念は、1年が経過するごとに寿命が1年以上延びることを意味し、理論上、無限の寿命が可能となります。
資源の確保
多くの人々は、長寿命化が進むことで資源が不足することを懸念しています。しかし、AIの進化により、資源の利用効率が飛躍的に向上しています。例えば、地球に降り注ぐ太陽光の1万分の1を利用するだけで、全人類のエネルギー需要を満たすことが可能です。これは、今後10年以内に実現可能とされています。
ナノテクノロジーの発展
2030年代には、ナノボットが脳に接続されることで、脳の能力が劇的に向上すると期待されています。これは、スマートフォンがクラウドと連携するのと同様に、脳がクラウドと直接連携することで知能を数百万倍に拡張することを意味します。これにより、人類は生物学的な限界を超えて、新たな能力を獲得することができます。
(7) シンギュラリティとその影響
シンギュラリティの到来
2045年までに、シンギュラリティが到来すると予測されています。シンギュラリティとは、AIの進化が人間の知能を超え、自己進化を続けることで、人類の知能や能力が飛躍的に向上する時点を指します。これにより、人類は生物学的な制約から解放され、自由に知能や能力を拡張することが可能になります。
シンギュラリティ後の世界
シンギュラリティが到来すると、人類はあらゆる面で強化されます。知能の向上により、よりユーモラスでセクシー、創造的になり、11次元のオブジェクトを視覚化する能力や全言語を話す能力を持つようになります。また、外見も自由に選択できるようになり、意識の拡張が可能になります。
文化と人間関係の豊かさ
シンギュラリティ後の世界では、文化的な経験がより豊かになります。長寿命化により、家族や友人と過ごす時間が増え、愛することや愛されることの意味が深まります。カーツワイル自身も、祖父として家族との時間を楽しみにしています。AIによって強化された人間関係は、人生に最高の意味を与えると彼は信じています。
重要なポイントのまとめ
カーツワイルはAIに61年間関わっており、これは記録的な長さである。
彼がAIに初めて関わった1962年当時、一般の人々は「人工知能」という言葉を知らなかった。
1956年のダートマス会議で「人工知能」という名称が付けられたが、その頃の一般の見解は懐疑的だった。
マービン・ミンスキーは短期間で人間の知能に追いつくと予測していたが、カーツワイルは数十年かかると考えていた。
人類は知能を向上させるためのツールを作る唯一の種であり、親指の存在がその進化に寄与している。
計算力の成長は指数関数的であり、1939年には1ドルあたり0.0000007回の計算が可能だったが、最近ではNvidiaのチップが1秒間に5千億回の計算を実現している。
大規模言語モデル(LLM)はここ2年で飛躍的に進化し、現在では非常に高性能になっている。
1999年にカーツワイルはAGI(人工汎用知能)の実現を2029年と予測したが、当時は多くの懐疑的な反応を受けた。
現在では、多くの専門家がAGIの実現が非常に近いと認識しており、イーロン・マスクは2年以内に実現すると予測している。
AIは医療分野で画期的な進展をもたらしており、例えばモデernaのCOVID-19ワクチンはAIの力を借りてわずか2日で開発された。
AIはがん治療の分野でも有望な結果を示しており、今後数年で多くの新しい治療法が登場することが期待されている。
科学の進歩により、2030年代初頭には「長寿逃避速度」に到達し、理論上、無限の寿命が可能になると予測されている。
AIの進化により資源の利用効率が向上し、太陽光の利用などで全人類のエネルギー需要を満たすことが可能になる。
2045年までにシンギュラリティが到来し、人類は生物学的な制約から解放されると予測されている。
シンギュラリティ後の世界では、知能の向上により新たな能力を獲得し、豊かな文化的経験を享受できるようになる。
カーツワイル自身も祖父として家族との時間を楽しみにしており、AIによって強化された人間関係が人生に最高の意味を与えると信じている。
あとがき
レイ・カーツワイルの洞察は、AIがどれほど急速に進化しているかを示しています。彼の予測は、未来の私たちの生活がどれほど変わる可能性があるかを示唆しており、シンギュラリティという概念も現実味を帯びてきました。AIの進化がもたらす可能性と、それによって人類がどのように豊かになるかについて考えることは、非常に興味深いことです。未来に向けた希望と期待を胸に、AIの進化を見守っていきましょう。
この記事を読んで、AIの未来について新たな視点を得られたでしょうか?今後もAIの進化についての情報を追いかけていくことで、私たちの生活がどのように変わっていくかを見届けることができるでしょう。興味を持たれた方は、レイ・カーツワイルの新著書『The Singularity is Nearer: When We Merge with AI Hardcover – June 25, 2024』もぜひ手に取ってみてください!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?