いまさら西浦批判って、よくわからない

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最近西浦氏をはじめとする専門家会議に対して「緊急事態宣言は必要なかった」として非難する声があるようだ。

はっきり言えばほぼ聞くに値しないと言ってよい意見である、というのが私の判断である。とりあえず簡単に理由を説明しよう。

当時は緊急事態宣言が必要か分からなかった。緊急事態宣言不要論は後知恵の意味の薄い批判である。
そもそも緊急事態制限の必要がなかったのは専門家会議の提案が奏功した可能性が高い。

当時の状況と後知恵の批判

さて、緊急事態宣言が発令される直前直後の状況については、私もメモを残している。当時は
(A) 外国での指数関数的感染者増に伴い帰国者に占める感染者数も指数関数的に増加していた(当時からエビデンスがあった)
(B) いわゆる「夜の街」経由と推定される感染ルート不明の感染者が増えていた
(C) 保健所の追跡能力の限界がきつつあった
(D) 常設の感染症病棟の収容能力の限界に来つつあり、臨時病棟の開設に新型コロナ特措法の適用が必要だった
という状況で、指数関数的に増え続けるのではないかと恐れられていた状況であった。

前述の「3月末には再生産数は下がっていた」とする議論は、緊急事態宣言が発令されて以降のデータから得られたものである。別項でも論じたように、今回のウイルスは発症や重症化が遅く、発症したらすぐ検出できるものではない。発症後1~2週間して検査陽性になった後に聞き取りによって発症日を遡って調べ、後から実際の発症日の分布を知ることになる。前述の藤井聡氏の出しているグラフは{後から聞き取った感染日を並べたもの}であり、緊急事態宣言発令時の4/8には再生産数が減少しているというエビデンスは得られておらず、むしろ指数関数的に増えるかもと言われていた時期であった(PCR検査陽性者数のピークは4/11)。また当時は保健所の検査能力が不足し病院からの民間委託が増え始めた時期で、検査にボトルネックはないと確信できたのは4月中旬以降である。

いわゆるリスクコントロール政策では、単にリスクと発生確率の期待値を比較するのではなく、より重大で復旧不可能なリスクは発生確率が低くとも重く取るのが普通であり、当時安全側に倒して緊急事態宣言を出したのは定石であり全く不思議ではない。

藤井聡氏のしている批判は「当時知らなかった情報で批判している」というものであり、少なくともそれを持って専門家会議を批判しても、政策的意思決定の精度を高めるうえで何の役にも立たない。

再生産数が減った理由の一つは「夜の街」対策との推定

藤井聡氏は「3月末が感染のピークで4/8開始の緊急事態宣言は意味がなかった」と批判している。では、3月末に感染者が減り始めた理由は何だろうか?もちろん免疫だのといった静的な属性に帰着するのは難しいだろう(それが再生産数を動的に変えるのは人口の数割が感染してからである)。

再生産数が短期間に劇的に減少していることからも免疫獲得等ではなく何らかの政策的介入の効果と考えるのが妥当だが、帰国者は4月頭まで数は多く、自衛隊が帰国者検疫の補助に出たのは4/4のことである。

「3月末」にぴたりとあてはまるのは、小池知事が西浦氏をはじめとする専門家会議の提言をもとに「夜の街」の自粛に踏み切ったタイミングである(3/27がピークになっているが、この日が金曜で土日からstayhomeと夜の街を控えることが推奨された)。あくまで疑似相関が出やすい時系列相関なので因果を断言できるとは言えないが、これが一番可能性が高いであろう。

つまり当時の状況としては、夜の街が怪しい→3月末から都道府県が自粛要請、帰国者の持ち込みが多い→4/4にやっと国が対策、それでも保健所の追跡能力の限界で様子が分からないので安全側に倒して4/8に緊急事態宣言という状況であり(当時の資料もそうである)、「夜の街が怪しい」が的確だったからこそ藤井氏の言う「緊急事態宣言は実は不要だったのでは」という状況を作ることができた、と推測できる。


以上の通り、政策的意思決定の精度を議論し今後の役に立たせるという意味でも、政策の責任という意味でも、西浦氏をはじめとする専門家会議に責任があるとする議論は殆ど意味がない。そもそも経済と考量した上での政策的意思決定やリスクコミュニケーションは本来政府が担当すべき部分であり、手弁当の助言者に過ぎない専門家会議が負うものですらない(政府のリスクコミュニケーションの体制が不十分であるため致し方なく西浦氏がフロントに立っていた状況である)。


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