2002年に書いた原稿 「ネットは社会を動かせるのか」

 政府のIT推進政策のおかげではないとは思うが、ここ1,2年でいわゆるブロードバンド網が整備され、誰でも手軽にネットに接続できるようになった。どんな世界でも言える事だが、物事が身近になると必ず出てくるのが勘違い君たちである。彼らはネットに接続できる事が偉い事だと勘違いしてしまう節があり、ネットが万能だと本気で思っている。彼らはいろいろな勘違い行動で我々の眼を楽しませてくれるのだが、今回は最近急増してきたネット上での運動というものを検証していきたいと思う。

 まず、奇跡の詩人問題を取り上げないわけにはいかないだろう。これは脳に障害を持つ少年、日木流奈くんがリハビリによって天才的な詩の能力を得て数々の感動的な詩集を発表している様子を放映したNHKの番組に対しネット上で異論反論が続出、マスコミを巻き込んだ騒動に発展したという問題である。くわしくは関連サイト( http://www.geocities.com/kisekinosijin/ )などを参照していただきたい。私がこの運動を見た最初の感想は「みんな暇だなあ」であった。確かに異常な内容であり、憤慨する人がいるのはわかるが、ただそれだけの事である。「NHKは公正な報道をしろ」だの、「障害者をダシに使った金儲け」だの、よくそこまで力を入れられると思う。だいたいNHKが公正であるわけがないし、障害者をダシに使うのはこの件に限った事ではない。なのに彼らはここまで大きな運動をしているのか。そこにはあの掲示板の存在がある。どこの掲示板だとは言わないが、2ちゃんねるである。2ちゃんねるが無かったら間違いなくここまでの騒ぎにはならなかった。彼らは集団で騒ぐことによって不必要なまでに騒ぎを大きくしていったのである。2ちゃんねるの功罪は後述する事にして、奇跡の詩人問題に話を戻す。この問題はネット上から週刊誌や新聞等のマスコミに広がり、活動的には成功を収めたといってもよいだろう。ただ、これをネットが世間を動かしたと言い切ってしまっていいものかは疑問が残る。ネットがマスコミを動かしたのは事実だが、世間を動かしたのはマスコミである。これは疑い様の無い事実であるが、理解できない人も多い。まだネットで世間は動かせないのである。

 奇跡の詩人問題はマスコミを動かしたが、もちろんマスコミさえ動かせない運動というものも少なくない。また、運動とは言い難い告発サイトなどもそれこそ無数にある。いくつか紹介してみよう。なお、そのサイトに書かれている事が事実かどうかの判断は皆さんにお任せする。
まずは新聞拡張員の横暴を告発するサイト( http://members.tripod.co.jp/kusoasahi/ )。あれこれ説明するよりも見ていただいた方が手っ取り早いのであるが、これをネット上でやる意味がまったくわからない。新聞拡張員が図々しいのは当然である。結果的に謝罪してもらってると思い込んでいるようだが、実際は軽くあしらわれているだけである。それを理解できずにこういうサイトを作ってしまう勘違い君の典型である。
次に居酒屋のサワーの量と値段が詐欺だと騒ぎ立てるサイト( http://www.geocities.co.jp/Foodpia-Olive/8999/ )。こんなのはネット上でやる事ですらなく、居酒屋で酒の肴に話す程度の事である。このような告発をネット上で行う意味はどこにあるのか。おかしな正義感を満たすために作ったサイトだとしか思えない。
最後に「もう森なんか行かない」( http://homepage1.nifty.com/Mitume/index.html )。告発サイトなのはわかるのだが、その内容はまったくの電波である。このサイトの内容を理解できる人は誰か私に説明して欲しい。と、3つ紹介してきたところで「何だよ、つまらない所ばっかり探して来やがって」と思われた方はいないだろうか。確かにつまらない。だが、そのつまらない告発、運動がネット上では主流なのだ。奇跡の詩人のような大きな影響を与える運動などそうそう存在しないのだ。

 さて、ネット上の運動を語る上で必ず触れなければいけない所がある。先ほど少し触れた2ちゃんねるがそれである。2ちゃんねるでは日々膨大な量のネタが書き込まれ、その中から抗議活動やそれに類するものが生まれている。いわゆる「祭り」である。その方向性は真面目な運動から掲示板荒らしまで多岐に渡る。だが、ほとんどすべての祭り参加者に共通するのは「無責任」である。こう書くとまた祭りが起こる可能性も無きにしも非ずであるが、彼らは自分を無責任ではないと言い切れるのだろうか。確かに全員が全員無責任と言ってしまうのは乱暴ではあるが、だからといって責任感がある集まりなどとは口が裂けても言えないのが現状であろう。もちろん、彼らの起こした祭りで犯人が捕まった「ディルレヴァンガー事件」などもあるので(そもそもこの事件が起こったのは2ちゃんねるがあったからこそなのであるが)すべてが悪だとは言い切れない。だが、祭りによって世間が動くことがどれだけあるのであろうか。現状ではせいぜい週刊誌がネタ扱いするくらいが関の山だ。

ネット上の運動、活動、祭りはまだまだ未熟である。世間を動かすどころの話ではない。先ごろ起こったAA会騒動( http://life2.2ch.net/aa.txt )は、その活動方法の未熟さを露呈したある意味ネット運動の失敗の見本と言えよう。まだまだネットには勘違い君たちが思ってるほどの影響力は無いのである。だが、この運動が成熟されてくれば、マスコミを動かし、世間を動かし、時には政局さえも揺らがせる事も不可能とは言い切れない。いつの日かそんな時代が訪れるのは間違いないだろう。しかし、その日がいつになるのか。誰もそんな事はわからないのだ。ただひとつだけ言えるのは、今日もどこかで誰かが祭りを始めているという事だけである。

以下自分で読み返した感想。

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