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オススメ小説「スワロウテイル人工少女販売所」著:籘真千歳【感想】

とんかつ

【オススメ小説】
タイトル:スワロウテイル 人工少女販売所
著者:籘真千歳
出版社:早川書房

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あらすじ

 かつて異性と触れ合うことで進行し、いずれ死にいたる謎の伝染病「種のアポト-シス」が発生した。感染した男女は感染拡大と進行を防ぐ為に東京湾に浮かぶ人工島へと性別ごとに隔離収容された。そして、人工島は日本における自治区として扱われ、それぞれの隔離地域では異性を模した「人工妖精フィギュア」と呼ばれる人造人間と人間が共に暮らすこととなった。

ある日、人工島において通常起こりえない人工妖精による連続殺人事件が発生し、人工島自警団の人間男性「曽田陽平」と雌型人工妖精「揚羽アゲハ」が捜査を始める。事件の被害者男性は共通点は体内に本来ある筈のない子宮が存在していること。犯人と思われる人工妖精は神出鬼没で常に日傘を差しており「傘持ちアンブレラ」と称されていた。起こる筈のない殺人、有る筈のない子宮、謎の事件の裏側では在る策略が進行していた。


世界観の説明と補足

 人工島では「蝶型微細機械群体マイクロマシンセル」と呼ばれる機械が空気中で活動しており、常に大気の汚れ、町のゴミなどを分解していて清潔さをたもっている。欠点として血痕や犯罪の証拠となりえるモノまで分解してしまうことがあり、捜査には迅速さが求められる。

人工妖精フィギュアもまた蝶型微細機械群体マイクロマシンセルで構成されており、死亡すると蝶型微細機械群体マイクロマシンセルへと還る。なお人工妖精フィギュアの構造は背中に蝶のような翅がある以外は内部構造に至るまで同じである。

揚羽は「口寄せサルベージ」という独自の技術により死亡した人工妖精の心を読む(記録を再生)ことができる。また本来出来ないはずの「人工妖精を傷つける」「人間を傷つける」ことができる。これにより人工妖精としては最低ランクの等級外、通称5等級とされている。

 この作品では人工妖精は人とほぼ同等の扱いを受けており、心や感情を持っていることが前提となっている。つまり、感情もあれば人間との恋愛も当たり前のこととなっている。他のアンドロイドをテーマとした作品に良くある「アンドロイドに感情はあるか」や「アンドロイドとの恋愛について」は「感情はあるし、恋愛も当たり前」となっており、その先の世界を描いている。又、本筋とは関係ないがそれを踏まえた人権問題、差別意識について描写が挟まれる。


作品の描写からみるテーマ

 この作品のテーマとは何か?と問われると、「愛」と「心」ではないか自分は考える。

 人工妖精は基本的に人間を愛し、自分を愛し、そして世界を愛している。これは人工妖精の成り立ちも関係していて、彼女らは人間によって以下の条件の下で造られている。

基本となる性格と世界に関する常識を入力されたうえ、以下の①~③の倫理三原則に加え④⑤の情緒二原則で構成される五原則を設定されて造られる。

①「人間に危害を加えてはならない」
②「可能なかぎり人間の希望にこたえる」
③「可能なかぎり自分の存在を保持する」
④「製作者任意の条件(主に生き方や信条)」
⑤「④を他者に知られてはならない」



 倫理三原則のうち1つでも不足すると目覚めることなく、いずれは死に至る(蝶型微細機械群体に戻る)。自我も曖昧な状態で生まれ、成長する過程で人格を形成し順応する人間と異なり、思春期等を経験せず成熟し完成された状態で生まれるのだ。

彼女らにとっては②の原則により生きて欲しいという人間の希望や、③の原則による自死の禁止がなければ目覚めることを選ばず、また①がなければ人間に危害を加えその裁きにより死を選ぼうとする。目覚める前から世界を理解している彼女たちにとって、世界はどれほど苦痛な場所に見えているのだろうか?

それでも、目覚めた後は世界を愛する彼女たちは暴力を受け入れてる被害者の様にも、いかなる絶望の中でも希望を見いだす聖女の様にも見える。

 人工妖精にとって「愛」とは生き方であり、世界への在り方であるように思える。作中では愛ゆえに自分の寿命と不調を隠し、かえって相手にトラウマを残すもの、愛ゆえに原則に対して自己矛盾を起こしてしまうもの、愛ゆえに他者を傷つける痛みを受け入れるもの、様々な人工妖精が登場する。

「愛」とは究極の自己完結に感情であり、憎しみや慈しみなどはその結果であるとも言える。各々が持つ「愛」にしたがって行動し、その結果が相手への祝福になるか厄災となるかは「愛」を抱いた時点ではわからないのである。

 「愛」が自己の抱く感情に対して「心」は相手に見いだすものである。人間はある存在に対して「心」が有ると思うことではじめて、その存在に感情移入をし思いやりを持つことができる。ある存在とは人間に限らず動植物や物でも良いのだ、植物に声を掛けたり、子供が人形を兄弟のように扱ったりするのもそこに心を見いだしてるからに他ならない。なぜなら、そこに心を見いださない人間は花を踏みにじり、人形を乱雑に扱う

作中では一般的な自治区外の人間にとって人工妖精フィギュアはあくまで機械的な創造物であり、そんな機械と暮らしあまつさえ恋愛をする自治区の人間は「機械に欲情するヤバい奴ら」という認識だったりする。これは、自治区外の人たちが人工妖精フィギュアに「心」を見出してないからに他ならない。

人間同士でも同じで、もし人間に心を見いだせ無い人間は簡単に人を傷つけ尊厳を砕く。

まとめ的な何か――鏡合わせの人と妖精――

 人工妖精の抱く「愛」、人間の見いだす「心」のまるで鏡合わせのような関係が直接的ではないにしろ作中至るところにみられる。実際、あらすじで述べた殺人事件はそのじつ物語を進めるレール的な存在で、人間と人工妖精の鏡合わせ的な存在(完全/不完全、愛/心)による哲学的な問答が本筋のようにも思える。実際、蘊蓄うんちくじみた会話が数ページにわたって繰り広げられたりするので、あらすじや設定に惹かれても文章で投げ出す人も居るかもしれない。

 この感想についてもスワロウテイルという作品を鏡として、その作品に映った自分の「心」の活字表現だと言える。なので、他の読者が同じ感想を抱くとは限らない(まぁ、どの作品の感想にもいえるが)ので否定や異議、意見は大歓迎です。

 作中、どうしても哲学的で蘊蓄的な表現は多いけどそれを軽減するような記号的、SF的な単語がいっぱい出てくるので意外と気にならない人は気にならないかも。

「赤色機関<Anti-Cyan>」「海底の魔女アクアノート」「精神原型<S.I.M>」etc これらのいわゆる中二病的な単語が好きな人には刺さるかも。

あと、とても重要ですが主人公の「揚羽」がウザかわいい、めんどくさくてかわいい!

 以上、大事なのは上記の2行です。それよりは前部分は読み飛ばして貰ってもいいです、「揚羽」のかわいさが気になる人はぜひ読んでみてください。

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