踵の“ガサガサ”は身体を硬くする①
踵のガサガサって、見た目も悪いし、靴下を履く時とかにも気になりますよね。
だいたい対処法としては、角質を削るヤスリを使ったり、クリームを塗ったり、保湿する靴下を履いたりすることが多いのではないでしょうか?
しかし、気づくとまたガサガサになっている…。
そんなしつこい踵のガサガサですが、皮膚の基本的な構造や、生理学的な視点からケアをすると意外と簡単に良くなります。高い保湿クリームも、特別な商品もいりません。
今回は最初に、そんな「踵のガサガサ」の原因とケアについてお話していきたいと思います。
そして、タイトルにもある通り、踵のガサガサというのは単に乾燥しているという単純な問題ではなく、歩く動作や、身体の硬さなど、様々なところに影響します。
ぶっ飛んだことを言っていると思うかもしれませんが、皮膚のことを理解すると、骨盤の歪みや、腰痛との関係性など、一見関係ないと思うようなところまで話が繋がってきます。
一つずつ解説していきますので、お付き合いください。
皮膚の体での役割
そもそも皮膚は、生物にとって、なんのためにあるのでしょうか?
私たちの身体を家に例えると、皮膚は「外壁」にあたります。
家の屋根や壁などの「外壁」は、雨風や紫外線、害のある埃(ほこり)から、家の中にいる私達を守ってくれます。そして、泥棒や虫など招かれざる客からも守ってくれます。
まず、これが皮膚の1つ目の役割である、「防御機能」です。
では、この防御機能を完璧にするのだったら、頑丈な鉄筋コンクリートで窓もドアも作らずに全て覆ってしまえば、危険からは回避できるでしょう。
しかし、そんな家には住みたくなくないですか?笑
空気も入ってこないから、たちまち窒息死してしまいますね。
やっぱり気持ちいい天気の日は、窓を全開にして新鮮な空気を入れたいし、暑ければエアコンをつけたいし、寒ければ暖房を入れたいですよね。
そう、これが皮膚の2つ目の役割である、「交換機能」です。
人間は暑いときには汗を流し、その汗が蒸発するときに熱が奪われていきます。逆に、寒いときは皮膚の中を流れる血の量が増えて、なんとか皮膚が凍らないようにします。
身体の中に海がある
当然ですが、海の中の生き物は、乾燥に対する防御機能は必要ありません。
しかし、多くの陸上生物は、身体の中の水が失われることを防ぐための皮膚の仕組みが必要です。
なぜなら、生命は最初、原始の海で誕生し、生きていくために必要な細胞や身体の仕組みは海の中で出来上がりました。
陸で生きている生き物は全て、身体の中の仕組みは海の中で出来たのです。
したがって、その仕組みが働くためには身体の中は海でなければなりません。
人間の体の60〜70%は水なのはそういうことです。つまり、私たちは皆、体の中に海を持っているのです。
火傷(やけど)などで皮膚の1/3の機能が失われると死んでしまうのは、体の中の海が流れ出し、生きていくための仕組みを維持できないためです。
生き物の皮膚は、それぞれの環境に適応し、身体の中の海を守るためにそれぞれが特殊な皮膚を備えています。そのお話もしたいですが、今回はやめておきます(長くなりすぎてしまうため)。
皮膚の中はどうなってる?
人間の皮膚は、筋肉や内臓を包んでいる「筋膜」の上にあります。
深いところから順にいうと、筋膜、皮下脂肪、真皮、表皮、角層の順番になります。
筋膜や皮下脂肪は場所によって1層構造だったり、2層構造だったりしますが、この基本的な構造は、両生類、爬虫類、鳥類、人間を含む哺乳類で共通しています。
真皮はコラーゲンなど、弾力性がある繊維でできていて、外からの圧力に対するクッションの役割を担っています。
図を見てもらえばわかりますが、細い血管は表皮の中には入っていません。しかし、無髄神経繊維などの細い神経繊維は表皮の中にまで入り込んでいます。
角層は、表皮が次第に変化して作られます。
上の図にあるように、表皮はケラチノサイトが一番深い部分で分裂し、それが平たくなりながら、どんどん表面に向かいます。
表面に近づくと、細胞の中に脂質(あぶら)が入った「ラメラ顆粒」と呼ばれる小さな袋ができます。
人間の皮膚の場合、ケラチノサイトは表皮の深いところから表面に向かって移動し、表面近くで死にます。そのとき、ラメラ顆粒の中の脂質が外に押し出され、死んで平たく硬くなったケラチノサイトの間を埋めます。
この構造は、よく「レンガとモルタル」に例えられます。レンガをコンクリートで積み上げたような構造ということです。
この緻密な構造があるからこそ、人間の薄い角層が、薄いプラスチック並みの高いバリア機能を持ち、身体の中の海が保たれているのです。
踵がガサガサになってしまう原因とは?
これまで述べてきた皮膚の機能から考えると、踵がガサガサになってしまうのは、角層のバリア機能が低下し、皮下の水分を保つことができないために厚く肥厚(角層を厚くすることで補う)してしまった状態であると考えられます。
そして、乾燥して柔軟性がなくなった乾麺が割れるように、ヒビ割れを起こしたのが写真のような踵のガサガサであると推測されます。
では、なぜ踵のバリア機能が低下するのでしょうか?
これは医学的な検証が難しいのですが、私個人の知見ではいくつか原因が考えられるので、大まかにまとめてみます。
1.履物・歩き方の変化による影響
2.踵周囲の筋膜の硬さによる、局所的な循環不全
3.石鹸などを使って洗いすぎている
一つずつ説明していきます。
1.履物・歩き方の変化による影響
歩いているところを想像してみてください。
足を前に振り出し、最初に地面に着くのはどこでしょうか?
大体の人が「踵」と思い浮かべたと思います。
では、人は最初から踵をつけて歩いていたのでしょうか?
実は踵を最初に地面につけて歩き始めたのは、というか今のように強調されたのは、ごく最近のことだと考えられます。そして、そのきっかけとなったのが靴の変化です。
皆さんが普段履いている靴は、踵やソールの部分にクッション性が備わっています。これは、足の負担を減らすためにと様々な会社が頑張っているからなのですが、このクッションが全くない状態で外を歩くとどうでしょうか?
痛くて、というか歩きにくくて、とても踵を先に地面につけて歩くことなどできません。
つまり、踵をつけて歩くようになったのは、クッション性のある靴を履き始めたからなのです。そもそも、なにか科学的な根拠があったわけでもなく、ただ足を遠くについてストライドを大きくすれば、より早く、遠くに行けるというメーカーの戦略であったと考えられます。
それまでの、人の歩きとは接地の際に、足底はほぼフラットな接地で、接地する点と重心軸がかなり近かったはずです。
それが、靴の影響により、接地点が重心軸の前に位置するという状態が起こります。それにより、踵には本来かかっていない負荷(ストレス)が生じたと推測されます。(この部分の詳細は、また別に述べたいと思います。)
2.踵周囲の筋膜の硬さによる、局所的な循環不全
鍼灸医学では、皮膚の防御機能には「衛気(えき)」が重要であるとされています。この「衛気」が皮膚を満たすことで、外界からのストレスから身体を守り、健康状態を維持されると言われています。
では、この「衛気」ですが、西洋医学ではこれにあたる存在を確認できていませんが、皮膚や内臓をめぐりとあることから、筋膜(結合組織)に関係があるのではと考えています。
そして、実際に上の写真のように、筋膜や結合組織の中を流れる液体のような存在が確認されています。
生命の機能を維持するのには、水が大事であると述べましたが、もう一言付け加えるとすると、循環していることが大事となります。
コップに入れた水を放置すれば水も腐りますが、川の水のように常に循環されて入ればそんなことにはなりません。
そして、これは生体内の細胞レベルでも同様なことが言えます。
通常、現在確認されている生体での循環システムは、脈管系(動脈・静脈・リンパ)が担当しています。(私は、そこに筋膜を通路とする衛気のような新しい経路が存在すると考えています。)
この循環システムが正常に働くことで、細胞は生きています。踵がガサガサになってしまうのは、表皮から下の組織の循環システムの不全により角層のバリア機能が低下した結果とも考えられるのです。
通常、このようなシステムの不具合は、凝り(コリ)が原因で起こります。つまり、踵周囲の筋膜などにコリが存在するということです。そして、踵周囲の筋膜は下肢の裏側を通り、骨盤と深い繋がりがあります。
ここで、ようやく骨盤と踵のガサガサが繋がりましたが、長座体前屈などが硬い人は、踵を含めたこの筋膜のラインが硬い場合が多いです。
そして面白い実験結果があるのですが、この踵の筋膜のラインを治療すると離れている骨盤位が変化・矯正されるという研究結果があります。
これは、私自身で実験してみて、確かに変化を確認し、柔軟性が上がりました。これらのことから、踵のガサガサというのは、角層が乾燥してしまっているという単純なもの出ないということが少しは伝わって頂ければ嬉しいです。
次に3つ目の原因について、そしてケアの方法についてお話していきたいのですが、あまりにも長くなりすぎてしまったので、また次回にお話できればと思います。
長々とお付き合いいただき、ありがとうござました。ご質問などありましたら、気軽にコメントください。
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