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【アンテナの『あん』 - ライター:川合 裕之】文章表現の快感を目指して

アンテナの『あん』とは?
編集部メンバーがお互いを知るために、インタビューでメンバーを掘り下げ、アンテナの『なかみ』を副音声的にお届けします。
今回のテーマは『いまに繋がるターニングポイント』です。

アンテナでは仕事を別に持ちながら活動するライターが多い中、川合さんは学生の頃からアンテナに関わり、社会でも専業のライターとして生きることを選んだ。彼の文章はどこか捻くれてはいるが、コミカルで愛らしい。そしていつも多角的な視点から真理に迫ろうとする探究心に溢れている。彼の文章はどのように生まれているんだろう?

そんな素朴な疑問をもとに、彼の『書くこと』について探っていきたい。

川合 裕之(かわい ひろゆき)
95年生。映画ライター。最近大人になって手土産をおぼえました。 「フラスコ飯店」というwebの店長をしています。

駆け出しライター時代から現在までを辿る

ー ー川合さんは現在どんなお仕事を手掛けていますか?
川合:現在はフリーランスで活動していて、企業の新商品のPR記事、TV番組などのWEBコンテンツ、アンテナやフラスコ飯店※では映画の考察記事が中心ですね。
 
フラスコ飯店:映画を通じて視野を広げるwebマガジン。今年2019年の初夏よりローンチ。この媒体で川合さんは編集長として活動しています。

ー ー大学在学中からライターの仕事をされていたんですよね。

川合:最初に書いたのは大学4年生の春で、映画『トレインスポッティング』の考察記事でしたね。ちょうど大学の同級生が髪の毛を黒く染めて就活をしている時期で、僕も普通の就活もやってみたんですが縁がなくて……。

当時のだらしない生活サイクルは変えずにお金を稼ぐ手段はないかと模索した中、書くことは得意だったのでライターが良いのではないかと。就活と平行していくつかの媒体に応募して、一つひとつ実績を積み上げていきました。今思うと無謀な考えでしたが、運よく今の仕事につなげることができたのかなと思います。

ー ー最初から映画に特化したライターを目指していたんですか?

川合:当時はとりあえず自分が書きたい分野だけで楽しく生きていけたらと思ってましたね(笑)でもすぐに映画の分野だけで生活するのは難しいと実感して、いろんな分野の記事を書くようになりました。

アンテナのライターに応募したのも同じ時期だったかな。カルチャーに特化した媒体で、仲間たちから社会人としても、ライターとしてもいろんなことを吸収できるチャンスと思ってました。入った当初は大学生の可愛がられる後輩キャラとしてやっていく予定が、ほぼ同時期に入った他の学生メンバーにその座は持っていかれてしまったのを覚えています……。

ー ーそのような経緯があったんですね。いざ、ライターとして活動する中で壁にぶちあたったことはありましたか?

川合:最初は「誰かのために記事を書く」という意識を持つことができなくて、「自分が面白い!」と感じることだけを書いていました。するとやはり、いろんな先輩から「それ面白いの?」「それ誰が読むの?」と指摘をいただいて凹みましたね。

ー ーでは、どのようにしてその壁を乗り越えましたか?

川合:SEOライティング※の仕事をするようになって克服できたかな。SEOライティングでは読者がいるということ徹底的に想定して、情報の出し方や文章の表現を工夫することが何より重要。例えば、一冊の小説があったとして、ただ「そこに小説がある」だけではなかなか誰にも手に取ってもらえない。手に取って読まれるためにその記事を書く…そんな仕事を積み重ねました。

※SEOライティング:検索エンジンに評価されやすいようにWebサイトの文章を書くこと。

ー ーおぉ。私もライターの卵として、SEOライティングのテクニックが気になります。

川合:PREP※という手法があって、①最初に結論をいって、②次に理由を掲示。③さらにその具体例を出して、④最後にもう一度結論を念押しする。
この構造を意識すると、PREPで作るSEOの現場以外でも全体を俯瞰的に見ることができるだけでなく、一文一文がどんな機能や意味を持っているのか捉えることができるようになりました!

※PREP:P=Point、R=Reason、E=Example、P=Point
論理的かつ説得力のある文章を構成する方法としてビジネスシーンなどで用いられています。

ー ーアンテナに加入して何か変わったことはありましたか?

川合:もちろん沢山ありますが、アンテナでは戦略を立てる重要性についてボス(※編集長堤のこと。川合さんしか使っていない呼び方)に教えてもらいましたね。
どんな目的があって、どんな課題があって、それを解決するための手段を考えて、そのためにどんな行動を取るのか……そのフローは別の仕事でも活きています。

登場人物にのりうつる!?川合さんの書くこだわりとは

ー ー書く上で川合さんならではの工夫やこだわりはありますか?

川合:最近やっているのが、「のりうつり系」。映画を見る中で主人公だけじゃなくて、脇役の目線になって物語を見ていく。しかもなぜか女性にのりうつることが多いんですけど、いろんな登場人物の目線から物語を考察して記事を書くことがありますね。

FireShot Capture 402 - 脇役で見る映画『トイ・ストーリー3』 バズよりもウッディよりも何よりも、アンディ母の育児の終わり - アンテナ - kyoto-antenna.com

ー ーえっ?のりうつる?それは登場人物に憑依するということでしょうか。

川合:憑依…うーんそうですね。例えば『トイ・ストーリー3』ではアンディのお母さんの目線になった記事を書いて好評でした。他のライターが注目しない脇役の目線で物語を考察することで、新しい切り口の記事を書けてるのかな。抵抗なく「客観的になれること」が自分の強みだと思っていて。トイ・ストーリーはおもちゃが主人公の映画ですが、アンディのお母さんの目線になることで、アンディという子どもの成長や自立を描いた物語として紐解くことができると思います。

ー ーいろんな登場人物の目線になることで、映画の新たな魅力や考察を提案しているのですね。それができるようになったのはどんなターニングポイントがあったんですか?

川合:これは大学の時の勉強が大きかったと思いますね。文学部でアメリカ文学を学びながら、主観を排除して客観的な視点を身につけて、それが今に活きていると思います。

ーーご自身では、大学生の頃に書いた記事と最近書いた記事を比較して、どちらの文体が自分に合っていると思いますか?

川合:どっちが合っているというよりは、書く内容によってどちらの文体も書き分けることができたらいいなとは思います。トイ・ストーリーのような記事は型がもう決まってきてるんで、同じスタイルで書き続けると飽きられちゃうかも(笑)手法やテクニックとして、切り口や話者を変えていきたいですね。

解る人にだけ解る、文章表現の快感

ー ーこれから書いてみたいジャンルや切り口はありますか?

川合:引き続き映画評論は書きたいとは思っていますが、ジャンルとして蛸壺化している。同じ情報をいろんな人がこすっている感じですね。一方でいろんなジャンルから作品にアプローチしている「ユリイカ」のように、多角的な切り口から映画を論じることができるようになりたいです。例えば僕が読者として興味深く楽しんだのは、新海誠の世界観を社会学的にとらえた論文だったりします。あとは「作品の社会背景」をみるとテンションがあがりますね。
 
ー ー「作品の社会背景」とは具体的に、どんなことでしょうか?

川合:例えば、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』 でいうと、社会問題になっているフェイクニュースがモチーフになっています。ホログラムの敵が現れて本当か嘘かわからない状況になる中、スパイダーマンは「スパイダーセンス」で本当か嘘か見極める技で切り抜ける。現代のフェイクニュースに対しても「真実を見極める目」で生き抜く大切さを説いています。

ーーなるほど。スパイダーマンにそんな意図やメッセージが込められていたとは.....。

ドキュメンタリーのように真実をありのままに伝えられると「ふーん」と興味がそそられないんですが、スパイダーマンのように作者や監督が作品に仕込んだ意図を「解った」時が快感ですね。ダンゴムシをたまたま見つけた時のような喜びというか、僕にだけその意味が解ったんじゃないかという喜びですかね(笑)

そこに作者と僕とのコミュニケーションが成立しています。物語をあるがままに受け取っても問題はないんですけど、読み解く視点で見ると作品をより深く楽しむことができると思います。

ー ー川合さん自身もそのような視点で記事を書くこともありますか?

川合:メインテーマとは別に伝えたいことをひねって盛り込むことがありますね。これを言うと性格が悪く聞こえるかもしれないですけど、皮肉も同じメカニズムだと思います。隠れたメッセージが相手に伝わらなかったとしても、会話や意味は成立する。この形のコミュニケーションと同様に「解る人にだけ解る」。そんな文章表現の快感を目指していますね。


ライター:出原真子

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