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【アンテナの『あん』 - 編集長:堤 大樹 04】選択肢の向こう側に、あなたは何を感じますか?

編集部メンバーがお互いを知るために、インタビューでメンバーを掘り下げ、アンテナの『なかみ』を副音声的にお届けします。
今回のテーマは『編集長・堤に聞く、フリーインタビュー』です。

選択肢を、自分で考えて掴み取る。人生振り返ると、その場面は多くありませんでした。他人がそうしているから、世間はこんな感じだから……。場の空気に流されることが多かった22年。今回のインタビューでは堤さんに、その生き方を180度ひっくり返されるお話を聞くことができました。「選択肢の提示」が最も大切だと語る真意は何なのか? この記事を読んだあなたの明日が、少しでも輝いてくれたら嬉しいです。

堤 大樹(つつみ だいき)
アンテナ編集長。26歳で自我が芽生えたため、まだ5歳くらい。「関西にこんなメディアがあればいいのに〜」でアンテナをスタート。関係者各位に助けられ、発見と失敗の多い毎日を謳歌中。自身のバンドAmia CalvaではGt/Voを務める。

海外を通して得る、日常への感度

ーー:旅行記を拝見しましたが、普通の海外パッケージツアーとはまた違う目線で海外を見られているな、と感じました。堤さんがこれまでに行った国の中で特に印象に残っている国はありますか?

堤:2015年に行ったモロッコは、これまでの渡航経験でも特に面白かったです。モロッコってイスラム教の国で、当たり前なんですけど日本と価値観が全く違う。朝の4時から町中に響き渡る音でアザーン(お祈り)をはじめるし、昼間の暑い砂漠で一切水も飲まないとか、宗教が溶け込んだ生活習慣をたくさん見かけたんですよ。あと値札がない世界なので、買い物は全部値段の交渉をしなければならない。旅人はそりゃあ多少はぼったくられますよね。そういう日本との違いが面白かったです。

ーー:アンテナの旅行記ではそういった日本との違いを伝えたいのでしょうか。

堤:世界には日本と全然違う面白い国やものがたくさんあるよ、って伝えたいんです。僕が知ってることなんてたかが知れているんですけど、行った範囲でならその土地のことを伝えられるから共有したいなと思って書いています。そこに僕らの考えや、生活を変えられるヒントのようなものがある気がしているので。

ーー:モロッコの他にも、様々な国に旅行していますよね。海外で様々なものを見て感じて、毎日に対する変化はありましたか?

堤:周りをよく見るようになりました。海外って、知らない場所だらけじゃないですか。だからその分、五感をフルに使って情報を集めて分析しようとするんです。純粋に危険な国もありますからね。日本で暮らしていたら気づけなかったり、気にしないようなものに気づけるようになりますよ。

ーー:逆に、日本にいると気にしないものってなんですか?

堤:普段、生活していると、近所の道端に咲いている花のこととか、玄関や扉のデザインとか意識しにくいないじゃないですか。例えばそうですね。今日乗った電車の吊り広告に何が書いてあったか覚えてますか?

ーー:いえ、何も覚えていないです。

堤:その感覚が、僕はあまりよくないと思っているんです。もちろん、知らない場所やものばかりだと疲れてしまうし、慣れることが一概に悪いわけではないとは思います。でも、日々の生活に対する感度が鈍っていくのをすごく感じるんです。そういう部分が、海外に行くと感度が高まってマシになる気がします。

ーー:「感度」とは、クリエイティブな部分なのでしょうか。

堤:それに限らず、生きていく上でも必要だと考えています。人によって出会う場面は違うけれど、違和感や疑問を持てるってすごく幸せなことだと思いませんか? 幸せの青い鳥が家にいたというのは、日常のささやかなものから幸せわ、どれだけ感じられるかってことなのかなと。また違和感に気付ければ細かな違いを拾うことができる。そうすれば、世界がもっと素敵に見えるかもしれないですね。でも、日々の暮らしの中では忙しくてそのことを忘れてしまう。だから一種のショック療法を行うわけです。文化の違う国に行って日本とは違う不便さを感じて、自分が普段どれだけぼーっと生きているのか突きつけられて思い出す。その繰り返しです。

ーー:アンテナにおいても、感度は重要なポイントになっていますか?

堤:良い表現者って気づきに対する感度が高いと思ってます。。他の人が見落としたり、気にも留めない微妙な違いを捉えて表現している。世界に対する解像度が高いんです。僕はそういう人間になりたい。またメディアの役目って、「問い」を読者に投げかけることだと考えています。問いかけることで、僕らの考えを知ってもらってその先に何があるか一緒に考えたい。でも、問いを立てるにしても感度が高くないとできないんですよ。何でこうなんだろう、って疑問に思うところが問いのスタートだから。なので、感度はすごく大事だと思います。

選択肢を提示するのがメディアの役目

ーー:具体的に「こんな見方をすれば、毎日が幸せになるんじゃないか」みたいな提案ってあったりしますか?

堤:うーん、人によって幸せの定義は違うから分からないです。日常への気づきは、あくまでも僕にとっての幸せだから。自分の角度での景色を発信するのが僕ができること。だからといって、人によって幸せの意味は違うね、で片付けたくもないけど。

ーー:どういうことですか?

堤:みんな好きなものが違うとか個人の感性だからね、とかそれは前提でしかなくて。それで終わっちゃうと対話にならないじゃないですか。その違いを踏まえた上で「あなたはどう思いますか?」 とか「こんな考えがあるけれどあなたはどう考えますか? 」「私たちはどうすれば互いにハッピーになりますか」っていうところを話したいです。

ーー:好きなものが違っても、お互いのそれをみてどう思うかということですね。

堤:こちらからアイデアを提示して共感できる部分が1つでもあればいいし、僕が提案したアイデアをたたき台にしてもっといいものが生まれるならそれで良いと思います。

ーー:与えた先に何かを見出して欲しい、というよりは与えること自体を大切にしていると。

堤:そうですね。選択肢を提示することが最も重要だと思っています。だって、「これを読んでこう考えろ」なんておこがましいでしょ?もちろん紹介したものを好きになったり、喜んでもらえたら欲しいけど、それに何を思うかは受け手の自由で。僕にできるのは、選択肢を提示して、選んでもらうことぐらいかな。

ーー:なぜ、選択肢をそれほど重要視しているのでしょうか。

堤:例えば、日本のコンビニって24時間営業しているじゃないですか。日本人がこの社会のあり方を自分の意思で選択して、「このあり方が良いよね」って考えているんだったらそれでいいと思います。でも、そうとは言い切れない部分もありませんか? 僕らは仕組みとしてあまり前に受け止めてしまっているけれど、実際、過剰労働で苦しんでいる人がたくさんいるので。他のあり方や生き方も知って、自分がどんな世界に生きていたいかを考えないといけない。そうしないと、経営者や投資家に使い捨てられてしまう。だから、選択肢をたくさん知る必要があると思います。

ーー:その選択肢を、アンテナを通して伝えたいんですね。

堤:情報なんて調べればわかるし、僕らが提示することじゃないかもしれない。でも、僕らが持っているチャンネルで、今まで知り得なかった選択肢に出会える機会をつくることに価値があると思っています。

ーー:何を選ぶかは読者の自由で、そこからどう考えるかは本人の意思に任されていると。

堤:本当は、誰かの人生を変えたり価値観を引っくり返せるものをつくりたいけど、なかなかそうはいかないですからね。そうするには、たくさんのアイデアや考えを提示して選んでもらって、小さな選択肢を積み重ねていくしかないと思います。

アンテナから発信したい、世界との関与の仕方

ーー:以前、インド旅行の記事で「被写体の消費」について書いていましたが、それも選択肢の一つということですね。

堤:僕自身も、「被写体を撮るのは消費じゃないですか」って言われたことがあったんです。観光客って消費だけしにくるんですよ。その土地に何も還元しないんですよね。自分自身も消費的な行為がしみついた人間だから、そうじゃない関わり方ってなんだろうって考えていないとなかなか抜け出せなくて。

ーー:インドでの旅では写真をInstagramにあげるような行為とは違うものを意識されていたように感じましたが、具体的にどんな価値を伝えたかったのでしょうか。

堤:「消費的な行為の先に何があるのか?」です。写真を撮ってInstagramにアップして、それが社会にとって良い行為になるのか、承認欲求を満たすだけの消費的な行為なのか。シャッターを切る行為の先に何があるのかを考えるきっかけになれば良いと思って書きました。

ーー:ご自身の場合、例えばどんな風に接していきたいと考えていますか?

堤:僕はメディアという発信する媒体を持っているので、そこで感じたものを伝えることが還元できることじゃないかなと考えています。あともう1つは、きちんと深く関係を作った上で撮りたいなとも思っています。僕が撮ること自体に意味を見出せるような深い繋がりが欲しいですね。写真を通して、その人の人生に関与できれば良いなと思います。

ーー:具体的なシチュエーションは考えていたりするのでしょうか。

堤:台湾で写真を撮りたい。かなりの回数行っているんですけど、もっときちんと向き合わないといけないなと思っているんです。観光で色々なものを貰っている分、台湾の内側から生み出したり与えたりしてお返ししたいですね。どっぷり浸かって現地の人と一緒に何かを生み出すところまでやりたいです。

ーー:アンテナでも、アジアのカルチャーに力を入れようとしていますよね。それもお返しの一端なんでしょうか。

堤:そうですね。でも、ただ知ってもらうことだけがお返しだとは思っていないです。先日、台湾の友人と話していると「日本人は台湾にライブをしに来ると、台湾のことが好きだというが、政治のことも私たちの状況のこともなにも知らない」と言われました。アーティストの素晴らしさはもちろん、彼らが今置かれている立場や環境も踏まえて、少しでも台湾について深く知るきっかけをつくれてら嬉しいです。

ーー:アーティスト紹介はスタートラインみたいなものですね。

堤:僕はそう考えています。記事をきっかけに、彼らの現状を知ってもらいたいんです。何かあった時、いきなり側に寄り添うことなんてできないじゃないですか。そのきっかけとして、僕たちが音楽を通して伝えていきたいですね。

(ライター:丹 七海 写真:堤 大樹)

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