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ポスト・ピケティを探せ!

The Hidden Wealth of Nations: The Scourge of Tax Havens
「失われた国家の富 タックス・ヘイブンの経済学」
by Gabriel Zucman
July 2016 (The University of Chicago Press)

ピケティの「21世紀の資本」はすごかった。

2013年にフランスで出版され、その時点でかなり売れたのだが、2014年4月に英語版がハーバード大学出版局から刊行されるや、大ヒット。 話題が話題を呼んで、経済学書としては異例の売れ行きとなり、ピケティは一躍、ときの人となった。

最初に、ハーバード大学出版局のカタログでCapital in the Twenty-First Centuryをみたときは、まさかその後バカ売れするとは思いもしなかった。まったくピンと来てなかった。たしかに、カタログのトップに掲載されてたけど、フランス語の英訳版なんてまず売れない。ましてやフランス人が書いた経済学書なんて。経済学と言えば、アメリカである。いや、世界中に経済学者はいるが、「売れる」経済学といえば、アメリカなのだ。スティグリッツだってクルーグマンだって、ロバート・シラーもリチャード・セイラーもアメリカ人だ。

だいたい、最初はThomas Pikettyの読み方もわからなかった。「ト、トマス?ピケッティ?」あ、フランス語は語尾の子音は読まないの。ふーん。ってなもんだ。

というわけで、初回発注数はごくごく控えめな数にした。刊行前のことだ。いまどきは、よほどのことがない限り、在庫はもたない。物流システムが飛躍的に進化した結果、それほど待たずとも海外から商品が入ってくるようになったからだ。在庫を持つというのは、コストの面から言ってもかなりリスキーな選択になってしまったのだ。

ところがどうだ。

2014年4月に刊行されてからは、びっくりするほど注文が殺到した。アメリカやイギリスでベストセラーになり、それがニュースになり、また売れる。これってハリー・ポッターじゃないよね?ガチガチの経済学書だよね?と目を疑いたくなるような売れかただった。

自慢じゃないが、学術書のベストセラーなんてたかが知れている。たぶん、1万部売れたら万々歳。いや、5千部でもベストセラーかも。でも、ピケティは桁がちがった。すごかった。

というわけで、今回紹介するのは、二匹目のどじょう。「21世紀の資本」が出てから、ピケティの次著は当然、出版社の注目の的。競争率がはげしい。それでは、ポスト・ピケティを見つけよう。

私がこの本に注目したのは、序文をピケティが書いていたからだ。よく調べてみたら、著者のガブリエル・ズックマンは、パリ経済学院に入学、ピケティの指導を受けた教え子だった。しかも、本書を出したとき、ズックマンは30歳そこそこ。今はカリフォルニア大学バークレー校の准教授をしている。これからどんどん活躍していくであろう期待の新人だ。

ピケティの「21世紀の資本」は、経済格差の歴史を膨大なデータを収集・分析して論じられたものだが、ズックマンもデータに基づいた分析で研究成果をあげている。本書は、タックス・ヘイブンについての研究だが、巨額な資金の流れをデータから読み解いたものだ。

ズックマンのこの本は、悪くない売れ行きだった。日本語版もすぐに出た。「失われた国家の富 タックス・ヘイブンの経済学」(NTT出版)
経済学書は、大学の研究者だけでなく、企業の経済研究機関などにも、一般のビジネスマンにも売れる。日本の学術出版では、経済学は売れる分野なのだ。だから、海外で注目された経済学書は、わりとすぐ日本語版がでる。

ズックマンは、本書のあと、「世界不平等レポート2018」を編纂し、エマニュエル・サエズと共著「つくられた格差 - 不公平税制が生んだ所得の不平等」をだしているが、いずれもすぐに日本語版がでている。それだけ、日本の出版社も注目しているということなんだろう。

私としては、今後ズックマンの著書は注目して見ていくが、ものすごく売れるか、堅実に売れるか、そこはわからない。

だってピケティの待望の新刊書Capital and Ideology「資本とイデオロギー」(邦訳版未刊行)だって、2019年9月にフランスで出て、2020年3月に英語版が出たが、今のところ売れてない。いや、そこそこは売れてるけど、「21世紀の資本」とは雲泥の差。

二匹目のどじょう探しは、かくもむずかしい。



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