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ウイルスが奪ったプロ野球の持つ価値

3月後半の横浜スタジアムで行われるナイターはまだまだ寒い。
ビールを買う気にもなれず、相手のイニング中は「早く立って声を出したい」と考えながら体を丸めてマウンドの投手を見つめている。
今年はそんな時期にハマスタの外野席に行くことができない。

本日3月20日は本来ならプロ野球が開幕するはずだった。
その前日はセンバツ高校野球が開幕するはずだった。

2回目の沖縄キャンプへ向かったのは2月頭、友人が運転する車の助手席で神里選手の登場曲「ダイナミック琉球」を大音量で流し、強く晴れた空の下、クーラーをかけた車内で球春到来を噛みしめた。
その時期の沖縄には間違いなく球春が到来していた。

まだ球団が対策をとる前だったので選手との距離はとても近かった。
宜野湾に向かったのが日曜日であったため、球場は大混雑。
選手のサイン会が行われるテントは、サイン会開催が17時からであるのにも関わらずファンが12時から列を作っている。並んでしまっては練習が見られないため早々に諦めた。
そんな列に並ぶファンを後目に、木陰でひっそりと3人ぐらいを相手にファンサービスしている選手を見つけて近寄った。まるで練習をしっかり見ていたファンにだけご褒美をあげているかのように。
プロ野球選手を近くで見ると普通は「すごいガタイだ」とか「こんなに大きいのか」とありがちな感想を抱くものだが、その選手はいつもテレビで見る通りスラっと細かった。
横浜高校卒、乙坂智選手。

周りにあまり人がいないため少し会話をすることができた、しかも乙坂選手のほうから話しかけてくれたのだ。
自分の斜め前にいた他のファンを目で示しながら「この人、巨人のシャツ着ているのにここにいるんすよ~」と乙坂選手。
見ればそのファンは確かに青いリネンの下に読売のTシャツを着ていた、よくその恰好でサインをねだりに来たな。
するとそのファンが「これ普段着なんですよ~」と笑いながら一言。
そして私が「いや、普段着ならなおさらダメでしょ(笑)」と。

人気球団となってしまったベイスターズのキャンプでは、選手と触れ合うことができても、こんなにコミュニケーションをとれることはそうそうないだろう。特別な空間だった。

そしてそんな出来事から1分もたたないときに、私より20㎝ぐらい小さなおじいさんが私に「このサインは誰のサインですか」と話しかけてきた。
聴けば地元の住人で選手のサインを集めるのが趣味だとか。
私が「〇〇選手のサインですよ」と教えると、そのおじいさんはポケットからボールペンを取り出し、「そうですか~」と低い声を出しながら色紙の裏の左上に小さく選手名を書いた。その大きさで見えているのだろうか。

WINSに行くとよく知らないおっさんに話しかけられたりする。
観光地に行くとやたらと写真を頼まれる。
旅打ちで地方競馬場の食堂に行ったときには、おばちゃんと30分ぐらい会話してしまい数レース買うのを逃したこともある。
私はそういう顔をしているのであろう、だからこそ旅行や野球観戦ではこのような人との出会いも一つ楽しみとしている。

キャンプでいろいろな選手からサインをいただいたが、印象に残っているのはなぜか上記2つのファンとの出会いだった。

そんな巨人Tシャツを着て宜野湾に来た度胸ある人にも、サイン収集を老後の楽しみとしているおじいさんの元にも、当然私の元にも、平等に球春は到来しない。

みんな楽しみに待っていたはずの開幕は、インフルエンザの兄貴分のようなウイルスにいとも簡単に奪われてしまった。

開幕が延期となったのは3.11東日本大震災以来のことである。
私はまだ学校に通っていた時期だが、テレビに映る津波の映像や繰り返し流れる同じCM、いつまでもテレビ画面右下から消えない日本列島の図に恐怖を覚えたのを今でも鮮明に覚えている。
「この未知のウイルスは東日本大震災に匹敵するようなものなのか、違うだろう!」と自問自答してもやるせなさが募るばかりである。

無観客のオープン戦は盛り上がりに欠けどうにも見る気が起きなかった。
メジャーにかぶれた人が「MLBみたいでいいじゃん」というが、MLBでは決定的にダメなのだ。
私が好きなのは
「甲子園にジョックロックが響くような高校野球」
「神宮球場に紺碧の空や若き血が流れ隣の人と肩を組むような大学野球」
「東京ドームで無料で配られるメガホンを叩き試合後にエール交換をするような社会人野球」
「ハマスタでさあ燃え上がれとチャンステーマが流れるようなプロ野球」
野球観戦が好きなのではなく、「日本の野球観戦スタイル」ひっくるめて野球観戦が好きであると感じることができた。

最近読んだ本のなかにこのような言葉があった。
「現代において、モノはヒトを繋げる媒介として価値を持つものであり、ヒトとヒトのコミュニティー価値に貢献してはじめてエンターテインメントは事業として消費者に認められるのです。」

この無観客状態を見て、まさしくそうであるとあかべこのように頷いた。

そんな心境を察してか、YouTubeがおすすめ曲として「葛飾ラプソディー」を勧めてきた、私は全てをGoogleに見透かされている。
「明日もこうして 終わるんだね
 葛飾柴又 幸せだって
 なくして気がついた 馬鹿な俺だから」
という歌詞が骨身に染みる。

「変わらない街並みが 妙にやさしいよ」
という歌詞もあるが、私の好きな関内は昨シーズン最後に行ったときから姿を変えているはずである。
スタンドは改築され拡大し、開幕が近づくにつれて街全体がソワソワしてくるのが横浜であり関内であり、DeNAが仕掛けたコト消費である。

ハマスタ8ゲート前にある噴水に落っことした元気を拾いに行けるのは、果たしていつになるのだろうか。

それでは次回のnoteでもお会いできれば幸いです。

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