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血肉になる漫画(1)「黒博物館 ゴースト アンド レディ」

好きな漫画の話をしようと思う。それも「面白い」ってだけじゃなく、「学ぶものがある」「考えさせられる」「人生に影響を与えられる」と感じるような、個人的に特別な思い入れを持てる、そんな作品たちを紹介したい。

自分は誇張抜きに、「漫画に人生を救われた」と思っている人間だ。漫画は、辛い時間を忘れて没頭させてくれるだけでなく、大切な事も教えてくれる。自分はこれまで、人生で追い求めたいと思う「理想」や、こうはなりたくないと思う「反面教師」をそれぞれ、漫画の中に見つけてきた。そろそろ30歳になろうかという今でも、考え方の根っこには、10代で手にした漫画の影響を強く感じている。

(上)藤田和日郎「うしおととら」第15巻より。「自分が嫌い」ないじめられっ子の成長が描かれる。
(下)同じく第27巻。種族の垣根を超えた主人公達に、涙する少女。


ブログにも漫画の話を書きたいなぁとは、ずっと思っていた。こうして第一弾を書こうと思ったきっかけは、藤田和日郎先生の「黒博物館 ゴーストアンドレディ」を読んだからだ。久しぶりに、漫画を読んでボロボロ泣いた。どうやら思いっきりツボだったらしい。だから今日はその話をする。たぶんすごくウザい文章になると思うけど、そのへんは自分じゃどうにもできない。

◆黒博物館「ゴーストアンドレディ」の舞台設定

この物語は、史実をベースにして、フィクションを上乗せした作品になっている。実在のアイテムや場所も多く登場しており、時たま「こんなにバラバラの要素を、よくひとつにまとめたなぁ…」と感心させられる。そして何より、そのフィクション要素の味付けが素晴らしく、これぞ藤田和日郎!という熱いメッセージに溢れており、これまでの藤田作品の良いとこ取りとも言える仕上がりになっている。上下巻にコンパクトにまとまっている点もお見事だ。

舞台はイギリス。ロンドンの「黒博物館」には、過去の犯罪などの証拠や資料が保管されており、それを見にきた客人がキュレーター(学芸員)に、その資料にまつわる物語を話して聞かせる・・・という設定。ちなみに、この「博物館」は非公開ながら実在していて、ちょうど今年10月に期間限定で初めて一般公開されたらしい。

今回のキーアイテムはこの「かち合い弾」だ。クリミア戦争で銃弾同士が正面衝突、結合してしまったそうで、その戦闘の激しさを伝えてくれる。本作では、この弾も黒博物館に保管されており、これを残したのはイギリス最古の劇場「ドルーリー・レーン王立劇場」に現れる幽霊灰色の服の男である、という設定になっている。この幽霊・通称グレイこそが本作の主人公の一人であり、物語は彼がもう一人の主人公 ――ナイチンゲールに出会うところから始まる。二人は、ナイチンゲールが家族の反対を押し切って看護婦になるところから、クリミア戦争への従軍を経て「近代看護教育の母」として名を知られるまでの戦いを共にしてゆく。

(上)『灰色の服の男』グレイマン、通称グレイ。
(中)『ランプの淑女』ナイチンゲール、通称フロー。
(下)ドルーリー・レーン王立劇場。現在は舞台「チャーリーとチョコレート工場」の公演会場になっている。


◆主人公たちの魅力と、過去作品との比較

①フローレンス・ナイチンゲール(通称フロー)

強い自責の気持ちから自分自身(精神)を攻撃する醜悪な「生霊」を身に宿したナイチンゲール(フロー)は、『灰色の服の幽霊』グレイに「自分を殺して欲しい」と懇願する。その一方で、その目には強い光を宿す場面もあり、それがグレイの興味をひきつけてゆく。

軍の妨害を受けながらも病院の環境改善を進めていくフローは、作中では「天使」として描かれる。意志の強さと、傷ついた「誰か」を思いやる気持ち。看病される兵士が、見回りの彼女の影にキスをする場面では、藤田作品ファンなら即座に「からくりサーカス」のフランシーヌを連想するだろう。

「天使とは、美しい花をまき散らす者ではなく、
苦悩する者のために戦う者である。」
    ―――
フローレンス・ナイチンゲール

(上2枚)身を削って病院改革に努めるフロー。彼女がやってきてから、患者達の環境は大きく変わっていく事になる。
(下3枚)「からくりサーカス」より。自分自身も貧しいながら、他の貧民に惜しみなく食事を分け与える女性フランシーヌを、貧民街の住民たちは「天使」と呼んだ。個人的「漫画に登場する天使」ランキング第1位。超かわいい。


②「灰色の服の男」グレイマン(通称グレイ)

演劇に魅入られた幽霊。前世の悲しい記憶を抱え、熱を感じない身体に凍えながら、毎日を劇場で過ごす。観る事にも飽きてきたところでナイチンゲールに出会い、自分が登場人物の「悲劇」を演出しようと思いつく。「お前が絶望したところを取り殺してやる」と繰り返しながら、なんだかんだでナイチンゲールをサポートして戦う元・決闘士。そのツンデレっぷりは、完全に「うしおととら」の「とら」。モロだ。モロすぎる。愛嬌たっぷり過ぎるとらに比べてクールなのは、とらと違い、過去の悲しい記憶を(自覚して)引きずっているからか。

(上)「絶望しろ、そしたら取り殺してやる」と言いながら、なんだかんだナイチンゲールの苦境に助太刀してしまうグレイ。後にナイチンゲールに「希望」を与える場面もあり、二人の関係が変化していく様も面白い。
(中)幽霊の身体は熱を感じないらしい。過去を引きずる空っぽの心を観劇で満たしながらも、心の底ではずっと「熱い何か」を探している。
(下)「うしおととら」の、とら。「お前を喰ってやる」と言いながら、他の妖怪に食われないようにうしおを助けるツンデレ。愛嬌たっぷり。


◆人間と幽霊・・・ふたりの関係と、物語の閉幕

かたや人間、かたや幽霊。幽霊は人間に取り憑き、「殺してやる」と言いながらも人間を助け続け、共闘する二人の間には種族を超えた絆がーーーと書くと、この二人の関係は、そのまま「うしおととら」だ。藤田先生、たぶん、こういう「相棒」を描くのが好きなんだと思う。

でもそれより、うしとらファンの中には、この漫画を読んで、こっち↓のコンビを思い浮かべる人もいると思う。


ううおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!

真由子ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


あ、ごめん。愛が。真由子への愛が。せっかく頑張って冷静に書いてたのに。
(「うしとら」わからない人、ごめんなさい。)

「フロー&グレイ」コンビは、フローが女性だって事もあるけれど、「うしお&とら」コンビだけじゃなく「真由子&とら」コンビの要素も混じってて。それが俺の心を乱すんだ。

そうしてニヤニヤさせられてる内に、軍医局長ホールや、男女不明の剣士デオン(「ベルばら」のオスカルのモデルにもなった、実在の人物)も登場し、物語は佳境へ。終幕には、うしとらの「ハラぁ、いっぱいだ」を思い起こさせる名場面も待っている。

これ以上細かく書いちゃいけないと思うので、物語の紹介は、この辺で。続きはぜひ、読んでみて欲しい。フィクションでありながら、数十冊の参考文献や学者の協力の上で綿密に描かれた作品であり、英国政府観光庁からも紹介されている。往年の藤田作品ファン以外の方でも、十分すぎるほど楽しめる作品になっていると思う。

ちなみにファンが読むと、すごくニヤニヤする。まだ読んでないファンの方は読んだ方が良い。後悔しないはず。

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「黒博物館 ゴーストアンドレディ」(上巻)

「黒博物館 ゴーストアンドレディ」(下巻)


今日はこんだけでした!!!!

藤田先生は自分にとって「人生の恩人」クラスにいる作家さんなので、もっと暑苦しくも語れるんだけど、収集つかないからやめておきます。笑

書きたい事書けて満足!ブログってそういう気楽なものでいいはずよな!^^
ほいじゃ、また今度ーーーーー!

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※今回の購入先おまけは、藤田先生の作品にでてくる個別の名言について思う事とか、長くなりすぎて書ききれなかった話とか、漫画への思い入れに関連したちょっと恥ずかしい話とかです。
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