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テラスハウス新東京編の建築的考察

 こんにちは。僕はNETFLIXで配信されているテラスハウスという番組が大好きです。観る人によって様々な感想があり、人間関係について考える良いきっかけを与えてくれます。さて今回は、僕の専門分野である建築と絡めて、ちょっと変わった視点からテラスハウスを考察したいと思います。それは「建築が人間関係に与える影響」という視点です。
 みなさん、空間が人と人とのコミュニケーションに与える影響について考えたことはありますか?テラスハウスにはそれを考える上でのヒントがたくさん隠されていたと僕は思います。テラスハウスの撮影の多くは、住民が暮らすシェアハウスの中であり、そこで行われるコミュニケーションは、部屋の間取り、広さ、家具の位置関係などの建築的要素から少なからず影響を受けているはずです。

 さて、今回は直近のシリーズであるTERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020(テラスハウス新東京編)を題材に考察していきたいと思います。テラスハウスを視聴されていた方、家の間取りがどんなだったか分かりますか?実は公式ホームページに平面図と部屋ごとの写真がアップロードされています。これらの資料を見ながらこの記事を読んでいただけると幸いです。また、部屋の上下の繋がりがわかりやすいよう、僕が本編の映像やネットの情報を頼りに断面図を再現しました!(不明な部分は適当に描いてます。)

テラハ(文字大)

 撮影に登場した部屋のうち、リビング、ダイニング、キッチン、男子部屋、女子部屋、プレイルームは、今までのシリーズとも共通していました。スキップフロアを取り入れている点やプールと屋上階が計画されている点は、今回のシリーズの特徴です。さて、僕が印象的だったシーンを部屋別に建築的な視点から振り返っていきたいと思います。

リビング(1F)

 新メンバーの自己紹介のシーンはほとんどリビングだったと思います。ここで注目したいのがソファがL字型になっていることなんですよね。新メンバーと既存メンバーが90度向きを変えて座ります。僕はこのソファの配置は自己紹介をする空間として建築計画的に成功していると感じました。初対面の人間が互いに向き合った配置で会話したとすると、採用面接のような緊張感を生んでしまうと思いますが、今回のテラスハウスのL字ソファは90度向きを変えた配置となるので、初対面の人がリラックスして会話ができるちょうど良い距離感を保つ効果があったと感じました。実際メンバーは落ち着いて話しているように見えました。これについては番組スタッフが意図してこういう配置にしたのかもしれないと思います。
 ちなみに建築計画の用語で、互いに向き合った座席配置を「ソシオペタル」、逆に、顔を背けた配置を「ソシオフーガル」と名付けられており、家具の配置計画において向きをどうするかは大事なことです。

ダイニング&キッチン(1F)

 ダイニングとキッチンはリビングと隣接していました。ダイニングにいる花が、リビングにいるビビと凌が仲よさそうにしている光景を見て泣いてしまうシーンが印象的でした(第27話)。このシーンを建築的な視点で見てみると、ダイニングがリビングより2段高い位置にあることに気づきました。建築計画の研究では、一般的に人間の視線は水平方向よりやや下向きになるということが知られています。そのことを考慮すると、高い位置にいる花からは低い位置にいるビビと凌がよく見え、逆にビビと凌からは花の存在は気にならなかったとも考えられます(ちょっと考えすぎかも?)。

女子部屋(2F)

 女子部屋の第一印象ですが、ベッドのデザインが非合理的だと思ってしまいました...。このベッドは2段ベッドで上段2人下段1人という割り当てのもの。3人分のベッドを2段で設計するなら、アクセス性を考慮して上段1人下段2人にするのが合理的だと思いますが、今回はその逆です。しかも、大きな階段が2つも設置されており、デッドスペースが発生しています。
 しかし、そう思ったのは最初だけでした。女子部屋でのメンバーのやりとりを見続けているうちに、このベッドの空間的豊かさを感じられるようになりました。2つの階段と下段のベッドで囲まれた空間で女子たちが会話が繰り広げる様子はとても魅力的だったからです。この空間の特徴として、狭さ、暗さ、ベッドのそばであるがゆえのプライベート性の高さが挙げられます。そのため、女子たちの会話はとても親密に感じられました。例えば、番組中に何度かあったと思いますが、女子同士で男子メンバーとのデートの感想を語り合うシーンは見応えがありました。さらに、春花と莉咲子の口論のシーン(第9話)は僕がテラハで最も好きなシーンの一つであり、この名シーンが生まれたのもこのベッドそばの空間でした。お互いの本音が爆発する迫力のあるシーンだったと思います。莉咲子の「被害者面が半端なくてダルい」発言は本シリーズ最強のパワーワードだと思います。

男子部屋(1F)

 あくまで個人の印象ですが、女子部屋とは対照的にあまりコミュニケーションが活性化しなかったように思います。その理由として、人が分散しすぎたことが挙げられます。ベッドとソファが離れており、話をするときのメンバーの定位置が定まっていなかったように感じました。

プレイルーム(2F)

 プレイルームは2階にありました。夢と志遠が女子部屋で二人きりで会話を始めたとき、社長(にいにい)が部屋の手前の廊下で待っているのがすごくシュールでした(第35話)。家の廊下で成人男性が真顔で待機しているという狂気じみたシーン。2階の廊下の狭い空間だからこそ、あのシュールさが生まれたと思います。本来、あの廊下は人が滞留する前提で設計されてはいないはず。

屋上

 屋上は、「○○、ちょっと屋上行かない?」って感じで夜に2人で語り合うために使われがちでした。プレイルームが男女2人で話す場所だったのに対し、屋上階は同性2人で話す場所として選ばれることが多かったかと思います。1対1で話すときにプレイルームと屋上階のどちらを選択するかで、メンバー同士の距離感が垣間見えたかと思います。

その他(吹き抜け・段差)

 建物がスキップフロアになっているためか、上下方向の視線のやりとりがあるシーンがいくつかありました。花が2階の女子部屋の窓から吹き抜けを通して1階のビビと凌を見ているシーンが印象的でしたね(第29話)。こういう視線のやりとりから見える人間関係は面白いです。
同様に、愛華(えみか)がリビングの2段上にある廊下からリビングにいる翔平に「ビール飲みましょ」と誘うシーンもすごかったですね(第16話)。視線の落とし方と手すりの持ち方に注目してみてください。

 部屋別の考察は以上です。

新東京編のまとめ

 新東京編は、いろいろと勉強になることがありましたが、特に僕が関心したのは、
・吹き抜けを介した上下の視線のやりとりが微妙な人間関係を浮き彫りにしたこと。
・2段ベットの配置がコミュニケーションを誘発したこと。
 の2点です。

 建築が人々に特定の行動を誘発させ、人間関係に影響を与えていたと思われるシーンもありました。その一方で、建築の持つ空間的性質を利用して、おそらく意図的に、自分をアピールしようとするメンバーの存在が気になりました(その最たる例が翔平に視線を落とす愛華)。

最後に

 テラスハウスを建築的な視点で観るのは建築をつくる人だけでなく、建築を使う全ての人に価値のあることだと思います。吹き抜けやスキップフロアを取り入れた豪邸に住すのは、誰もができるわけではありません。しかし、僕たちは、テラスハウスを観ることでその空間の擬似体験をすることができます。そして、建築的要素が人々の生活にどのような作用をもたらしているのかに気づくかもしれないのです。人が一生のうちの住むことのできる住宅の数は多くありません。テラスハウスを通して、建築を観る目を養い、自分が住む場所を選ぶときに役に立てることすらできるのではないでしょうか。


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