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『パリの国連で夢を食う。』川内有緒

「国連で働きたい」と思ったことがある人も多いのでは。世界の平和、みんなが幸せになるために、私が何かできないか、なんて。私もその考えが頭によぎったことがある。

この本は2000倍の難関を通り抜けて、パリの国連で働いた川内有緒さんの体験記。私は彼女がノンフィクション作家で、恵比寿でギャラリーを営んでいるということをWebのインタビューで目にした。蔡國強と福島のすごいおっちゃんが美術館を作るらしい『空をゆく巨人』というドキュメンタリーは開高ノンフィクション賞を受賞している。はい、読むの決定。でもなんでアートの世界の人が、優秀な頭脳と慈愛に満ちているだろう国連で働いていたのだろう?脳みそも心根も良くアートを味わう感性も豊かな、欠点のない鼻持ちならないやつなんじゃないか?と思ってしまう自分の性格の悪さを自覚しながら図書館に予約を入れた。

結論から言うと、彼女は全然いやなやつではなく、むしろ近くに居たらもっと話を聞きたい、好きになっちゃう、という魅力的な人だった。もともとは日大芸術学部にいて、その後留学で大学院に進み、シンクタンクのリサーチ職について南米の農家のおっちゃんとかにヒアリングをして問題を解決するためのレポートを書いたりしていたのだ。泥臭くって人が好きな人なんじゃないかなあ。

彼女は縁あって、超官僚組織の国連に入り、人間くさいパリで暮らす。彼女は人種や育ちがバラバラな人たちと働き(「一つの国なんてあてにならない」と複数のパスポートを持つ人が彼女の周りにはたくさんいる)、パリにある不法占拠されたアトリエ「59 RIVOLI」のアーティストたちと出会っていく。理不尽を感じたり、隣人に怒られつつホームパーティをしたり、美しいパリを歩いたりドライブしたりしながら。

そして今の彼女は作家だ。どんな風にそうなっていったのか。心の中にある気持ちが少しずつ掘り出されていくプロセスが、温度や手触りを感じそうなほどに描かれている。

137 パリの国連で夢を食う。


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