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<東京の未来をデザイン~東京で自分らしく生きる人に聞く> 第1回ゲスト:伊藤羊一さん

Youtubeの対談(2020年9月中旬収録)をnoteでもお届け。第1回目のゲストは伊藤羊一さん!

伊藤羊一さん…「0秒で動け」「1分で話せ」の著者。Yahoo!アカデミアの学長、グロービス経営大学院客員教授、現在は武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の立ち上げ準備をされていて、学部長に就任予定。

2018年の登壇回数は297回、2019年は270回という、まさに分刻みのスケジュールで日々様々なイベントにご登壇されています。そんな伊藤さんに、政治について、東京について今ご自身が思うことを熱く語っていただきました。

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分断を避けたい。その思いでポジティブな発言を心がける

―コロナの影響で、みんながどうしても批判的になってしまったり、何か敵となるものを作り出そうとしている中で、伊藤さんの発信はそうではなかった。すごく前向きに、「自分たちに何ができるか考えようよ」というスタンスが私にとってすごく印象的でした。

僕の発言は割と与党的というか、今の政権や都知事が発していることに対してフォローするような発言が多くなるんですが、別にそういう話ではなくて、とにかく分断を避けたいんです。
もし分断が起きてしまうと、コロナウイルスそのものというよりも、分断が起きていること自体が人類にとってすごくマイナスになるなという感覚がすごくあったので、とにかくそれが起きないようにするためにはどうしたらいいか考えました。
例えば首相が何か発言した時に「これは言葉足らずだな」と僕も思うことがあるわけです。その時に「言葉足らずだ」ではなくて、「きっと彼はこんな風に言おうとしていたんだと思うよ」と発言したり、ネガティブな反応をする人に対しても、「確かにそういう要素もあるよね」と対応することでなんとか距離をつなぎ止める。
こういったことを僕1人がやったところで微力ですが、それで距離を縮めていくことだけを考えていました。
結局、色々な人がいるから最後の最後、折り合わない部分はありますが、でもやはりみんな平和を望んでいるので、ある程度は折り合えるわけです。土台が折り合えて、その後はその人の価値観次第という状況に持っていくためには、コロナの時に特にその土台が一気に崩れそうな感じがしたので、そういう形にしたくないというのがすごくありました。

みんながオンリーワンである。お互いをリスペクトすることが重要

―そのベースにある伊藤さんの思いはご著書でも多く書かれていますが、自分らしく生きるために何が一番重要だとお考えですか?

大事なのは「みんながオンリーワンになる」ことだと思っています。SMAPの「世界に一つだけの花」という歌がありましたよね。
昔は、あの歌を聞いても「何言ってんだよ」という感じだったんですが、「本当にみんな世界で一つだけの花だよな」と思うようになりました。「ナンバーワンにならなくてもいい」という歌詞があるのですが、僕の考えは少し違うんです。「オンリーワンということはナンバーワンなんだ」ということをみんなが理解するだけで、ものすごく平和になるなと思っています。

たぶん政治が目指している姿がまさにそうで、「みんな違うのである」ということだと思います。ただし、全員を同様にハッピーにすることはできないから、ここにそのお金を使っていくとか、ここはちょっと後回しにせざるを得ない、という意思決定はしていかないといけません。その前提にあるのは「みんな違ってみんないい」という、一人ひとりをリスペクトする姿勢であることが大事だと思っています。

なぜ僕がそのように強く思うかというと、自分が若い頃、人付き合いもうまくできずメンタルも落ちていた時すごく辛かったんです。
それは何故かというと、やはり世間は人をできる、できないで判断したり、勝ち組にならないと駄目だ、という風潮。そこでモヤモヤしていました。
だから、すごいとかすごくないとか、勝ち組とか負け組とかそういうことじゃないと言いたいんです。「全員一人一人違うし、最高なのである」と。
そういう、みんながフラットで生きやすく、笑顔になることを追い求めたいと思ったのがコロナの時の発言に繋がっているのだと思います。

―今までの社会のあり方でメンタルを壊す人が多いのは、自分らしく生きることがすごく難しいからだと思っています。私は障がいがあってなくても、性別に関わらず誰もが自分らしく生きられる社会を作っていきたいなと思っているのですが、まずその前提として必要なのは違いを認めたり、相手をリスペクトすることだと本当に思います。

リスペクトと言っても僕はそんなに難しいことじゃないと思っていて、「あなたはあなたですね」って、これだけだと思うんです。これだけ便利な世の中になって、何でそこが解決しないんだ、という憤りのようなものは感じています。だからもう「こうあったらいいな」という願望ではなくて、ほとんど憤りですよ。
テクノロジーが進化して、そういう部分で生きやすくなりましたか、みんなハッピーになりましたかというと、逆に生きづらい人が増えているような気がしています。それはおかしいなというのは強く持っていて、昨今はそこに対しての問題意識が非常に大きいです。

「おらが街」東京を住みやすくするのが僕らの役割

―伊藤さんにとって「東京」はどんな場所で、もっとこういう風になった方がいいんじゃないかと思う部分があればお聞かせください。

幼少の頃一時期大阪に住んでいましたが、それ以外は今に至るまでずっと東京にいるので、「おらが街」という意識があります。
かといって東京がすごく住みやすくて最高かいうと、それもまた違うんです。身をすり減らして住むのではなく、「東京は住みやすいし便利だし最高だよ」みたいな街にするのが、昔からいた僕らの役割でもあるなというのはすごく感じます。変えなきゃいけないことだらけだとは思いますね。

そのために僕は森沢さんたちの存在がものすごく大きいと思っています。これまでは発展していって、色々なところが便利になるというのは実現してきたんですが、「東京にいて幸せか」とか、「どう子供を育てたらいいか」という、そこは後回しになってきた。皆さん努力されているとは思いますが、それを踏まえてひとまず「東京どうしたいんだっけ?」みたいなことを話してみると、すごく良いなと今このタイミングで思います。

―東京は会社も多いし仕事の数もたくさんあるので、そこで自分らしく働けたり、おっしゃったようなことが実現できれば、おそらくもっと「東京にいて幸せ」「東京に来てよかった」と言われるのだろうなと思います。

今やどこでもインターネットだし、かつeコマースみたいなものがあればどこでも暮らせるにも関わらず、みんなが東京に集まるのは何かというと、やはり人と会えるからというところが大きい。東京だと人と会ったり、何かことを起こすようなことに関しては本当にいい街だと思うんです。すごく陳腐な言葉ですが、やはり東京はエキサイティングシティだと思いますよ。
あとはもっと、いわゆる「生活」ですね。

―ハード面ではなく、ソフト面の幸せはまだまだ追求できると思います。

それは今までは難しいことだと思われていましたが、コロナで我慢を強いられたりする中で「何かやろうと思えばできる」みたいな可能性についてはみんな分かったと思うんです。そのいいところをだけ取って、「新しい東京をデザインする」というのはすごく重要な気がします。

【対談の前編(ダイジェスト8分)】


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ビジネスと政治は不可分。1人の責任ある大人として政治を語る

―そのためには、今の現役世代がもっと東京について考える機会があるといいのかなと思います。
それが政治の一つの役割でもあるかなと思い、私も色々な発信や接点を持って、今まで政治に関わりがなかった人に少しでも関心を持ってもらいたいなとずっとやってきてはいますが、ビジネスマンがどう政治に関わっていくのがいいか考えてしまいます。

今までは政治は政治、ビジネスはビジネス、のように別物だという意識を持つ人が多かったと思うのですが、それはおかしいなと思っていて。生活そのものの中に政治はあるし、生活する上でビジネスをやっていく必要があるから、そこは政治も絡んでくるという不可分なんです。
そしてコロナなどを経て、政治を1人のビジネスパーソンとしてというより、1人の責任ある大人として関心を持つことがすごく大事だと思い始めた。
でもずっと見ていると、政治に対して人々が思うことって結局、「政治が何かしてくれる」という印象を受けます。
「あいつは何もしてくれない」ではなくて、自分たちで作っていくんだろうと言いたい。だからそれをちゃんと口にして言わないといけないし、議論しないといけないし、という部分が全然足りない気がするんです。

―たしかに、「政治は批判するもの」という前提をみなさんがお持ちのような気がしています...

夕刊紙など見ていると、もういきなり「新首相はホニャララで」とか、悪口が書いてある。そういう存在ではなくて、自分たちが選んでいくものだし、結果として総理大臣は直接選べるわけではないですが、間接的にそれをやっているんです。そこはもっと意識して欲しいなとは思います。少なくとも批判するんだったら「俺はこうして欲しいんだ」ということはもっと言うべきだと思います。
その上で、ビジネスパーソンというのはその問題に対するビジネスでの解決手段があるので、政治家とたくさん議論することに尽きるのかなと思いますね。

―何か困ったことや、生活している中で何か感じた時に、地元の議員にちょっとTwitterで連絡取ってみようかな、Facebookでコメントしようかなという、そういうアクションがすごく大事かなと思います。

今はそういう手段もあるし、話せるわけですよね。話すのが面倒くさいんだったらやるなということだけど、何か思いがあるんだったらやっぱりちゃんと言った方がいいと思います。
日本全体に閉塞感があって、なんとなくもう無理だろうと思ってしまうのは分かるんです。でも、「自分たちの子供やこれから生まれてくる子供たちがその日本で、その東京で住んでいいんだろうか?」と考えた時に、やはりそれはいけないなと思うんです。
1人1人の力はすごく小さいですけど、「みんなで良くして行こうよ」という、そういうことをやっていかないといけないですよね。

―今は前例が通用しない時代になっていて、価値観も多様化しています。もう政治家だけで答えを出せる時代ではないし、行政も前例がないことに対応しなければいけないので正直分からない部分があります。
そういう意味で言うと、やはりビジネスで課題を解決している方は色々な知恵や経験をお持ちだと思うので、そこを組み合わせていかない限り、日本は良くならないと強く思います。

おっしゃる通り4、50年前だったら、「政治が決めれば何かができて行って、形があるものができているから僕らは幸せなんだ」という構図になっていたと思うけど、今は全然違いますからね。

これからは政治に対して少数意見も底上げしていくスタンスが必要

―もしかしたら日本人の政治に対するスタンスみたいなものを変えていかなくてはいけない時期なのかなとも思います。

その時に必要なスタンスはすごく絵空事だし綺麗事なのですが、政治って多数決だったりしますよね。でも多数決ではなく、少数意見に耳を傾けることでもなく、その少数意見すら全部底上げしていくみたいなものだと僕は思うんです。

―インクルードするみたいな。

そういう感じでできると思うし、そこは多分色々な人が絡むことによって、よりそこの確からしさって強くなると思うんです。結局「多数決でしょう」という風に諦めてはいけないとも思いますし、少数意見に耳を傾けて、耳を傾けただけで終わりじゃないと。

―そうですね、それは意識してやっていかなければいけないなと思います。私も〇か×か、白か黒かではなくて△やグレーのように、先ほどの少数派の意見を加味した上での答えを出していかなければいけないのを感じています。

本当に足元には色々な問題がありますが、そろそろ未来をどうしていくんだということについてディスカッションすべき時期だと思うんです。
それだけではなくて、みんなで可能な限り共有していって、それはみんなが笑顔になるような、そういう未来像をみんなで描けたらいいなというのは強く思います。
だからそれは別にビジネスパーソンだけではなくて、おじいちゃん、おばあちゃんから子供から大人からみんながお互いをリスペクトして、たくさん議論することによって絶対前に進むなという思いはあります。

―その議論をするためにはおそらくファシリテーターが必要で、伊藤さんのような方がたくさんいることが必要なのかなと思います。

だから僕が今教育に携わる仕事をしているのも、そこではその人自身が生き生きと過ごすということも目指していますが、そういう社会を作ることに共感してファシリテートしていくような人、導いていくような人、中にはサポートに回る人もいたりと、その向き方は人それぞれですが、「幸せになれるんだ」ということに関してポジティブであるような人を育てたいなと思っています。

男性である自分が敢えてジェンダーギャップについて発信し続ける

―最後に私自身の関心が高いジェンダーギャップについておうかがいしたいです。今の国政を見ていてもジェンダーギャップが世界に対しても遅れていて、先ほどの「みんな違ってみんないい」のような、多様な視点が入らないことによる弊害が出てきているのを感じています。伊藤さんも女性リーダーを育成されているので、どうしたらこの状態を是正できるのか何か思うところがあれば教えていただきたいです。

今まで僕が知っている活躍してきた女性はたいてい、「男女とか関係ないわよ」っておっしゃっていたわけです。これまでは「そうかそうか」と思っていたんですが、僕はその考え方を改めました。そういう方は確かにたくさんいらっしゃる。そういう方々が切り開いてきたんですが、そうじゃないんです。
「女性ってやっぱりちょっと男性に比べると損しているな」「やりにくいな」と思っている方もたくさんいる中で、僕はこれまでYahoo!アカデミアの中で女性リーダークラスを作ってきませんでした。

―なるほど。

それは別に男も女も関係ないよね、という理由で作らなかったのですが、これだけジェンダーギャップがあるということは、あんなことを言っては駄目だなと思い直し、女性リーダークラスを作りました。
やってみたらものすごく皆さんに喜んでいただいているので、やはり女性ならではの苦しさや辛さが共有できただけでずいぶん違うようです。やってよかったと思っているのですが、それは世間から見ると「女性リーダークラスを作ること自体がそもそもどうなの」という声もないわけではないんです。

そこで僕は最終的には「女性リーダー」という言葉がなくなるまで、女性リーダークラスをやろうと決めました。意図的にそういう風に女性にフォーカスして女性リーダーを育成することは、今この歪んだ状況だからこそ大事なことだと思っています。
もう「女性とか男性とか関係ないよね」というところになるまでは、意図的にそういう力を及ぼしていく。一方で男性側にもそのフォロワーを作る必要があるとも思っています。

これはヤフーに入って非常に強く思ったことですが、ヤフーってユーザーさんは男性女性半分ずつなんです。だとしたら活躍するリーダーも半分ずつじゃないとおかしい。ものすごく正論だと思うのですが、こういうことを女性が言うと、「女性だから言っているんだろう」と思われてしまう。だから男性が言っていくということがすごく重要な気がしています。

―これまでジェンダーギャップの課題がなかなか進んでこなかったのは、おそらく女性が女性の問題として声を上げ続けているからではないかと感じていました。男性側が働きかける、というのが重要ですね。

その意図としては2つあって、1つは同じ人間として平等じゃないのはどういうことだ、という原則論です。それからもう1つあるのは、日本の人口がどんどん減っていく中で、女性の活躍する場所を意図的に作れば、人口は減っても活躍できる人が増えてくるから国力としてはマイナスにならない。女性がなかなか活躍できないという部分の下駄をなくすことが、経済的にもすごくプラスになると思うんです。原則論と経済的な話と両方の意味でちゃんと意図してやっていかないと駄目だな、と思っています。

―そういう男性リーダーがいることが心強いなと思います。伊藤さん、これからも引き続きこういった発信や発言をお願いしたいです。

これはええかっこしいみたいでどうかな、と前は思っていたんです。でもどう思われようが、だって現実そうでしょ、ということで僕はこれからもYahoo!アカデミアの女性リーダークラスをやり続けるし、ちゃんと発信することも力を入れてやっていきたいと思っています。

――貴重なお話をありがとうございました!最後に東京で好きな場所を教えてください。

東京で大好きな場所は海です。汐留から天王洲までの海沿いもフェリーでよく乗りますし、海沿いの場所でボーッとするのも好きです。そうそう、大好きな東京の海がもっと綺麗になって欲しいとも思っています。

【対談の後編(ダイジェスト12分)】

(編集:小野寺いつか)

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