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藤田真央 モーツァルトピアノソナタ全曲演奏会第5回最終回

2月7日(火)
いよいよ最終回を迎えたモーツァルトピアノソナタ全曲演奏会。
第5回のプログラムは
・前半
第3番 変ロ長調 K281
第4番 変ホ長調 K.282
第5番 ト長調 K.283
休憩
・後半
第13番 変ロ長調 K.333
第18番 ニ長調 K.576
アンコール
チャイコフスキー:6つの小品 Op.51より 感傷的なワルツ
        :四季 Op.37aより 10月

 前回の第4回からたった4ヶ月しか経っていないにも関わらず、始まった瞬間に「これまでとは違う方向性の演奏なのではないかな?」と、驚かされた。弱音でのバラエティに富んだ音色だけでなく、強くて深い芯のある伸びやかな音や鋭い音を使って、これまで以上に作品が深く彫られていく。落ち着いた速度設定で、適切な間を取り、音色、休符、時間、空間の隅々までを使って”言い残しがないように”と、たっぷりたっぷり表現し尽くされていくような時間だった。なんて集中力が求められる驚異的な弾き方なんだろう!
 最終回に合わせてモーツァルトが現代に甦り、スタインウェイのピアノに出会って自分の作品を弾く姿が現れた・・・と、そんな印象も勝手に受けた。ピアノの曲を作曲する時でも、モーツァルトの頭の中ではシンフォニーやオペラのような大きな音楽が鳴っていて、当時の小さな鍵盤楽器におさまるような音楽ではなく、制限するものは楽譜に書く際の音域ぐらいだったかも知れない。
モーツァルトの一言では片付かない「スタイル」に留まりながら、古典のソナタにつきまとう一種の窮屈感は皆無。現代のピアノの能力やホールの特性を活かした立体的な響きに、いつでも魅力的な歌心、大胆さも美しさも持ち合わせた滅多に聴けないほど完成されたソナタだった。最終回はこれまで第一回から辿ってきた道程の延長線上に完成されるもの、と想像していたから、昨日の展開には不意をつかれた。最後の最後に新しい方向が示され、ここから次の発展が楽しみになるとは。
 さて、どういうわけかシリーズ初回からK.333には大きな期待を持っていて、昨日は変貌を遂げた音色と音楽によって、味わい深いK.333を聴かせていただけた事が何よりも幸せだった。そしてアンコール。普段はアンコールはどちらでも良い派、むしろせっかくの本編に差し障るような曲は聴きたくないと思う派ですが、昨日のチャイコフスキーの2曲は哀しすぎて美しすぎて、10月の陰影はしばらく忘れられなさそう。またまた不意をつかれ、藤田真央の天才ぶりに仰天感嘆しつつ帰宅した。完。

銀座王子ホール モーツァルト:ピアノソナタ全曲演奏会第1回から第4回


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