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明治安田生命J2リーグ第20節 甲府vs京都【レビューのようなもの】

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ヴァンフーレ甲府 0-0 京都サンガF.C.

〈同流対峙〉

リスクを冒すことは非常に大事なことですし、今日はお互いにそのエネルギーがもう1つ欠けていた部分はあると思います。ですが、非常に説明しにくい感覚ですけど、お互いのチームが勝ちたいと思っている中で、「リスクをかけたいけど、かけられない」というシチュエーションが存在します。(ヨルディ バイス

 90分間、緊張の糸がピンと張り詰めたようなゲームだった。いみじくもバイスが言及している通リで、リスクをかけて挑みかかれば、相手に斬られてしまうような「間合い」のせめぎ合い。何もせずにただ睨み合っている訳ではなく、お互いに刃を突き付け合い、隙あらば刺してしまおうという緊迫感が続いた。
 たとえば甲府の両ウイングバック(右:藤田優人/左:内田健太)は京都に突き付ける2本の刃だった。攻撃時、彼らはタッチライン沿いではなく、一列内側に潜り込んで上がり(=インナーラップ)、パスコースや駆け引きの選択肢を増やす駒に転じる。このスペースに突き付けられる刃に対応していたのが、京都のインサイドハーフ(金久保順と曽根田穣)。ここをケアすればするほど、金久保や曽根田が攻撃の駒へと転じるのが遅れてしまう。甲府にしても同様で、京都にボールを握られた時間帯には大外とその1列内側を使うボール保持(京都はCBが上がる)への警戒を余儀なくされた。同じ流派の使い手同士が、得意技を出させぬよう、頭を使って探り合いながら、神経をすり減らしながらの対峙は、通好みで見応えあるものである。

〈甲府のピルロ〉

 地上戦で陣地を取り合いながらパスを繋いでいくルートは警戒vs警戒の攻防だったが、均衡する局面を揺さぶるスパイスになったのが、時折繰り出されるロングパス。甲府の決定機を生み出すパスの出し手が、武田将平だった。中盤の底から味方を動かすロングパスは、大袈裟に言えばまるで元イタリア代表のアンドレア・ピルロのよう。しかも本家と違ってレフティ。しかも濃いめのハンサム。後半の終盤には自ら最前線に飛び出してレシーバーにもなった。今季ブレイク中の逸材だが、ファジアーノ岡山からのレンタル選手。去年までは正直パッとしなかった。やはり甲府=武田という土地と名の相性だろうか。
 ロングパスは京都も森脇良太が何度か送り込んでいたものの、森脇の場合はターゲットを見て送り込むボールで、少し質が違う。武田のパスは味方を動かして、相手も動かすのだ。43分にはその動いた隙間を衝く形で均衡を破りかけたが、甲府にはゴール決めきる力が足りなかった。シェフチェンコのようなFWがいれば甲府のピルロはもっと輝けそう。いや、シェフチェンコなどJ2にはいないが。来季は岡山に戻るのか、甲府が買い取るのか、他のJ2クラブ(あるいはJ1)が欲しがるのか、今後も注視したいハンサムレジスタである。

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甲府のハンサムレジスタ・武田将平選手(Jリーグオフィシャルより)

〈京都の回帰?〉

 京都は4連勝こそならなかったが、バイスも言及する通リこれで4試合連続無失点。8月、10節山形戦で派手な撃ち合いを演じて以来、雑で大味なスタンスを続けてチームが大きく崩れたが、その頃からはまったく別のチームのように(いい意味で)緊張感と規律のある状態にキャラ変している(何度目のキャラ変だろうか…)。まずは堅実な守備意識を土台として、その上に攻撃を積み上げていくというプロセスは正しいはずだ。
 ゲーム終了後、中継では両指揮官が健闘を称え合うシーンが映し出されたが、甲府側は伊藤彰監督、京都の方は實好礼忠監督と佐藤一樹コーチが並んでいた。監督とコーチの役割分担までは知り得ないが、大味でアバウトだった個人技優先サッカーから去年を彷彿とさせるような緻密で戦術的なサッカーへ回帰しているのは、このあたりに秘密があるのかもしれない。去年もベンチに座っていたのは、佐藤一樹の方だ。


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