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2020シーズン総括~金久保さんの言う通り~

 2020年J2リーグホーム最終戦。真新しいスタジアム・サンガスタジアムbyKYOCERAで繰り広げられていたのは、事前に何の打ち合わせもせずに舞台に上がったかのような、その場しのぎでパッチワークされたアドリブサッカーだった。これが、就任当初からどういうサッカーを志向しているのかよくわからなかった實好礼忠監督の行き着いた先、であった――。

■最初に結論:シーズン総括の決定版

さて…。今季の京都サンガの総括なのだけれども、(残念ながらまもなく消滅してしまう)J'sGOALのウォーミングアップコラムで金久保順を取材した12月1日付けの記事が決定版すぎて、後で何を出そうが陳腐なものになってしまう。金久保はこう語る。

「一人ひとりのポジションが遠かったり、DFラインが低くなってしまったのもある。今までは前線にウタカがいて、そこを中心に縦に早いサッカーが最近は主流になっていた。奪ってカウンターというサッカー」
「誰が見てもウタカのチームだし、ウタカがいないと普通のチーム以下の実力しかないのが現状だと思う」
「上位チームにいい戦いができるのは『相手がボールを握って、僕たちがショートカウンターからウタカが点を取る』というパターンがはまっているからだと感じています。本当は自分たちで主導権を握って勝ちたいのが本音だけど、今はそれが勝利に一番近いのかな」

 世の中には「激白!」と見出しを打って、実際は差し障りのないインタビューみたいなものもあふれているが、こちらは本気で「いいのか?そんなこと言って?」というレベル(その後一度もベンチ入りしなかったのでアカンかったのかも…)。象徴的に登場するのが、ピーターウタカという存在だが、何も「ウタカ=悪」という訳でもない。ウタカ自身は周囲を使おうともするし、他の誰よりも戦術眼もある。他の選手の手柄を奪うようなこともしない。むしろ周囲が気を使いすぎ、いや監督が、何でもしてくれるウタカに依存しすぎた結果、金久保の言う通りのチームとなった。

■キーマン:快刀(怪刀)ウタカ

「勝つことが正義というか、勝点を取ることが正解なので。自分の感情どうこうでは、あまり言えないんだけど…」(上記金久保コメント)

 勝点は正義。逆に言えば、勝点を取れないと不正義。そのことに雁字搦めに縛られてしまっているように見えたのが、監督キャリアの浅い實好氏だった。“戦術ウタカ”を決定付けたのが、第10節のAwayモンテディオ山形戦。ウタカ4得点でねじ伏せた逆転勝利は、指揮官に「個人能力で手っ取り早く正義を手にできる」という悪魔の囁きを聞かせるには十分だった。斬れ味抜群の快刀は、構えるだけで剣の達人になった気分にさせてしまう魔剣のようでもある。
 今季のJ2は5連戦が何度も続くタフで過酷な日程だったが、指揮官はほとんど休ませることなくこの過密スケジュールに36歳のエースストライカーを注ぎ込んだ。目にみえてウタカのコンディションが落ちていることもあったが、不正義を断ち切ってくれるかもしれない「お守り刀」としても離せなくなっていく。使い手によって快刀は、己の力を見誤らせる怪刀になってしまうのだ。

■戦術面①:何でもできたが、何もできなかった

「去年は僕だけじゃなくて、多くの選手に充実感があったと思う。勝っても負けても、自分たち主導でサンガの形を出して、その上で勝ちや負けの結果があった。スタイルはハッキリしたものがあった。僕自身には合っていたし、楽しかった。今年はメンバーが変わって、強烈なストライカーがいて、それを支える選手たちがいるチームになった。それも正解だし、それで勝てるのもサッカーです」

 続く金久保のコメントからは去年のサッカーに対する追慕がにじむ。実は今季途中で「去年っぽいサッカー」に転換した時期もあった。長らく出番のなかった黒木恭平を起用しはじめた頃だっただろうか。去年多く出ていたメンバーさえ揃えばボール保持率を上げて相手を動かして穴を衝くサッカーもできたのだが、完全に方向転換するでもなく、結局中途半端だった。また、序盤には5バックの撤退守備+ロングボールやサイド迂回攻撃から少ないチャンスをモノにする守備偏重サッカーをみせていたが、若い指揮官はそれを貫き通すリアリズムもなかった。ポゼッショナルも、リトリートも、ハイプレス・ミドルプレスも、ロングカウンターも、ショートカウンターも、サイド突破も、ある程度何でもできるが、何も完全にはできないのが「實好サッカー」だった。コーナーキックとスローインだけは全然チャンスにできなかったが。

■戦術面②:最終的に行き着いた先

 そうして結局行き着いた先が、前線を漂うウタカ目掛けてボールを送り込み、あとは個人戦術を掛け合わせて上手くハマれば攻撃が回っていくようなサッカーだった。もう、誰と誰を並べるか?の世界である。實好氏は名古屋グランパス時代に西野朗氏に師事していたが、言ってみればワールドカップロシア大会でみた西野ジャパンのJ2版。今季特例として設定された10月の「第3のウインドー」で仙頭啓矢が加入したことにより、個人戦術主体の戦い方もサマになったのだが、いくら切れ味鋭い剣をたくさん持っても剣術家自身の腕前が上がった訳ではないし、過密日程で刃こぼれした剣を研ぎ直す余裕もなかった。アウェイで滅法弱かったり、ここ一番のゲームで脆さを見せたあたりは、本家・西野朗には到底及ばないメンタルマネジメントだったと言わざるをえない。

■今季のターニングポイント:あの4失点

 いろいろ言ってきたが、途中までは昇格争いに絡める好位置をうかがっていたのも確か。分水嶺となったのは第22節のHome大宮アルディージャ戦だろう。中川風希の連続ゴールで2-0とリードしたハーフタイムの時点では、「このまま上位との差を詰めて逆転昇格を望めるのでは?」と思わせる勢いがあった。ところが後半4失点して逆転負け。その後は新スタ無敗伝説の神通力も消えてしまう。次第に手痛い敗戦、あっけない敗戦を繰り返すようになり、安易な勝点欲しさに「ウタカ頼み」&「個人戦術任せ」ルートへと盲進するようになった。
 もしも。シーズン序盤(再開直後)にみせていた守備的で石橋を叩いて渡るような慎重さがベースとして積み上がっていたならば、大宮戦の後半4失点はありえなかったはず。戦術的な土台を作らないまま、いろんなことをやろうとつまみ食いし、自分たちがやっていたことすら忘れて、大味でアバウトで雑なサッカーばかり目立つようになった今季の象徴ともいえるのが、あの大宮戦だった。

■今季のチームMVPは?

 最終戦があまりにもなお寒い出来だったこともあって苦言ばかりになってしまったが、今季の京都サンガF.C.のMVPを選ぶなら?と問われると、迷うことなく「仙頭啓矢」の名を挙げたい。

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フィットするまでは数試合かかったが、今となってはJ2の中で頭ひとつふたつ飛び抜けた存在感を放っている。もちろんゴールやアシストという結果も伴う形で。ただし、彼は10月からの短期ローン選手なのである。シーズン通しての活躍ということになれば、ピーターウタカヨルディバイス庄司悦大くらいしか該当者がいない。

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多くの人はリーグ得点王を取ったウタカを選ぶだろう。けれど、本当にそれでいいのか?と自問自答せざるをえないのが2020シーズンである。ウタカの活躍と、ウタカ頼みに拘泥した監督の采配は切り離せないので…。コンディションをもっと上手くマネジメントできていれば、もっと大事なゲームで得点取れたかもしれないが、終盤キレを欠くようになったのは寒さのせい…かも。

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バイスはシーズン通して本当に頼りになる選手だった。CKから1点決めているが、今季の京都はセットプレーからの得点が非常に少なく、むしろバイスを活かせなかった面もある。圧倒的な対人の強さと引き換えに機動力不足をカバーする布陣を組まなければならなかったのも、バイスの痛し痒しのところ。

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庄司は今季も中盤に君臨するキーマンではあったものの、舵取り役というより、ころころと目先が変わる戦術の調整役のようだった。「チームの心臓」として輝いていた去年とは比べるまでもなく…。守備での働きには助けられたが、失点に繋がるなミスも。彼もまたアドリブサッカーの犠牲者のひとりである。

 だが!しかし!今季の京都には、多くの観客を魅了し、無観客試合でも、声援が出せなくても、存在感抜群だった彼がいたことを忘れてはいけない。アウェイ客の解禁後は、その機能性とルックスの良さを絶賛するアウェイサポの羨望の声も多かった。彼はまだ1年めのルーキーだけれども、今季の京都のMVPに最もふさわしいのではなかろうか。

今季のMVPは…

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 サンガスタジアム by KYOCERA 

えっ?「MVPはMost Valuable Playerだ、それはPlayerじゃないぞ」とな?そうツッコまれると思って100点満点の回答を用意しておいたぜ。今季の京都のMVPは「Most Valuable Place」ってことで、ひとつどうかよろしく。

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